プロボノのススメ
はじめに
この記事では、NY州弁護士として登録するための要件の一つであるプロボノ活動を50時間こなすこと(以下「プロボノ要件」)について説明します。
なお、UBE(通称ニューヨーク州司法試験)の勉強方法につきましては、以下の記事に詳しく書いておりますので、よかったらご覧ください。
記事を読む際の注意
以下の情報は、NY州弁護士として登録するための要件等を定めるRules of the Court of Appeals for the Admission of Attorneys and Counselors at Lawの§520.16とNY州裁判所のサイトのFAQ(2018 rev.版)(以下「FAQ」)を主要な情報源としています。最新かつ正確な情報については、原典をご覧ください。
当然ながらこの記事は公式のものではありませんので、あくまで参考にとどめ、実際にNY州弁護士としての登録を目指す方は必ず原典に当たるようにしてください。
また、筆者はLLM在学中はプロボノ活動をせず、2年目の米国法律事務所での研修中にプロボノ要件を満たしました。以下の情報は、そのような筆者の経験に基づくものであり、情報には偏りがある可能性があります。その点もご留意ください。
プロボノ要件とは?
§520.16がプロボノ要件について定めています。
具体的には、2015年1月1日以降にNY州弁護士会への登録を行う者は、最低50時間の一定の要件を満たすプロボノ活動(一定の要件について後述)を、登録申請書類を提出する時点までに行わなければならない、と規定しています。
以下では、上記の要件について多くの人が抱くであろう疑問点に触れていきたいと思います。
外国人であるLLM修了生もプロボノ要件を満たす必要ある?
あります(FAQのQ3)。
なお、コロナ禍で一時プロボノ要件が免除された時期があったのですが、私が登録申請書類を提出した2022年2月時点では免除はなくなっていました。
UBEに合格する前・LLMを修了する前からプロボノ活動を始められる?
始められます。
LLM開始の1年前から始めることができるようです(FAQのQ4)。もっとも、LLMの開始前にNY州が要求する一定の要件を満たすプロボノ活動を見つけることは容易ではなく、仕事や渡米準備に追われているタイミングでもありますので、LLMの開始後からプロボノ活動に従事する人が大多数だと思います。
LLM在学中にプロボノ活動を行っておいた方が良い?
行っておいた方が良い面もあるものの、無理に行っておく必要はないと考えます。二年目に現地事務所で研修する予定がなく、かつLLM在学中に時間的余裕がある場合は、行っておくとよいのではないでしょうか。
LLM在学中にプロボノ活動に従事するメリットは大きく2つあると考えます。
1つ目は、二年目に現地事務所で研修を行う前提となりますが、研修先で弁護士でなければできない業務(法廷弁護活動・デポジションでの尋問等)に従事することが可能となります。ただ、正直なところ、外国人研修生は、たとえ弁護士登録が済んでいたとしても、研修先で弁護士でなければできない業務に従事させてもらえることはほとんどないように思います(小規模な事務所であればチャンスはあるかもしれません。)。他方、弁護士登録がないサマークラークも業務に従事していることからもわかるように、弁護士登録が済んでいなくとも相応の業務を経験することは可能です(リサーチ、ディスカバリー対応、会議への参加、法廷の傍聴等)。したがって、LLM終了後に現地で本格的に就職する、または小規模事務所でバリバリ法廷業務にも従事したい、などの希望がない限り、大きなメリットにはならないように思います。
2つ目は、2年目に現地事務所で研修する予定がない場合、LLM修了後に従事するプロボノ活動の内容が大きく制限される可能性があるため、LLM在学中の方がプロボノ活動の選択肢が広いという点です。後記のとおり、NY州はプロボノ活動に一定の要件を課しており、LLMや研修先事務所外で要件を満たすプロボノ活動を見つけるのは容易ではありません(ただし、後記のとおり一応日本でプロボノ活動をこなす方法もあります。)。他方、LLMは在校生用に様々なプロボノ活動のプログラムを用意してくれているので、色々な選択肢の中から自分の興味のあるプログラムを選ぶことができます。もっとも、2年目に現地事務所で研修する予定がある場合は、通常現地事務所は大手事務所であれば幅広くプロボノ活動を行っていますので、選択肢の幅はそれほど変わらないかと思います。したがって、主に2年目の研修の予定がない方にとってのメリットとなります。
以上のとおり、LLMでプロボノ活動を行っておくことには若干のメリットがあるものの、特に2年目に現地事務所で研修する予定がある方にはそれほど大きなメリットはなさそうです。LLMは、勉強、友人・家族との時間など色々と忙しい時期ではありますので、それらを犠牲にしてまでプロボノ活動を行っておく必要はないのではないかと思います。
他方、2年目の研修の予定がない方は、LLM在学中にプロボノ活動を行っておかないと事実上活動の範囲が狭まってしまう可能性が高いと思います。後記のとおり、個人的にはプロボノ案件はとてもよい経験となりましたので、可能であれば現地で経験できた方が良いと思います。もっとも、日本に帰国後にプロボノ要件を満たす方法もあり、LLM在学中は何かと忙しいと思いますので、結局はプロボノの経験をとるか、LLMの他の経験を優先するかの選択となります。プロボノの経験はそれほど重視せずに、LLMでの他の活動を優先する、という判断も大いにありだと思います。
2年目の研修開始後からプロボノ活動を始めるのでもよい?
問題ありません。研修先がある程度の規模の事務所であれば、プロボノ活動は幅広く行っている可能性が高いと思います(研修先が決まっていれば事前に確認しておくとより確実です。)。
ただし、プロボノ活動を50時間こなすまでNY弁護士登録の申請書類を提出することができません。したがって、それだけNY州弁護士登録のタイミングが遅れてしまう可能性があります。
プロボノ活動を50時間こなした後、登録申請書類を提出してから宣誓式の日が指定されますが、私の場合は概ね書類到達後4か月後くらいの日が指定されました(2022年2月19日に書類が受理され、4月1日に審査が終了した旨の連絡があり、その際6月23日の宣誓式を指定されました。)。
今は宣誓式もウェブ出席が可能ですが、宣誓式に現地で出席したい方は、少なくとも2年目研修が終了する5か月前くらいまでにはプロボノ要件を満たし、書類を提出しておかないと、宣誓式のためだけに渡米する必要が出てきてしまいます。
研修先でプロボノ活動を50時間こなすのはどれくらいかかる?
正直研修先の状況に寄るので、ケースバイケースとしか言えないのですが、最短でも2か月程度はかかるように思います。
私は研修開始直後にプロボノ活動に立候補しましたが、無資格者が従事できるプロボノ活動は有資格者の監督が必要になるという制約があるため、適当な案件を見つけるのに数週間かかりました。
幸い割り振られた案件がそれなりに重たい案件であったため、その後1か月ほどで50時間要件を満たすことができましたが、トータルで約2か月を要したことになります。
割り振られる案件の内容によってはそれほど稼働を要しない場合もありますので、もっと時間がかかっていた可能性もあると思います。
NY州弁護士登録を行う予定がない場合もプロボノ活動を行う意味ってある?
あくまで私個人の経験に基づきますが、プロボノ活動は非常に有意義でした。理由は主に3つあります。
①プロジェクトの主任的な立場の経験が積める
大手法律事務所で研修をする場合、日本人研修生が振られる仕事は通常大きなプロジェクトですので、案件の主任はシニアアソシエイトかパートナーであり、日本人研修生が案件をハンドルする経験は中々詰めないと思います。
他方、プロボノ案件は、通常案件が小規模で少人数のチームで取り組みますので、日本人研修生でも立候補すれば案件をハンドルする立場になることが可能です。また、クライアントと直接やりとりする機会もあります。
私は、DV(家庭内暴力)が関係する家族法上の申立てを行う案件に関わりましたが、クライアントインタビュー、陳述書の作成、判例のリサーチ、申立書のドラフトと、フルコースの経験を積むことができました。
②大手法律事務所の通常業務では経験できない類型の事件に関われる
私は、研修先事務所で、DV(家庭内暴力)が関係する家族法上の申立てを行う案件と、移民法上の申立てを行う案件に関わりました。
いずれの案件でもクライアントと直接(ウェブ会議ですが)接する機会がありました。LLMや研修先法律事務所の通常業務ではおそらく関わる機会がなかったであろうコミュニティーの方に接することがきたり、また米国社会が抱える様々な問題点の一端を垣間見ることができ(例えばDV案件に銃が関わってきたり…)、大変貴重な経験となりました。
③プロボノ案件を通じた繋がりができた
プロボノ案件は複数人でチームを組むことが多いので、新たな人との繋がりが生まれます。私は研修先の法律事務所でプロボノ案件に関与しましたが、通常業務では繋がりのなかったアソシエイトと仲良くなることができました。また、プロボノ案件を監督するパートナーからランチにお誘いいただくという機会にも恵まれました。日本人研修生はお客様扱いで中々案件を振ってもらえないケースもあると聞きますので、その場合はプロボノを足掛かりにする、という方法もあるのではないかと思います。
プロボノ活動はどのような要件を満たす必要がある?
プロボノ活動とは、①弁護士登録前の、②監督下で行われる③法律関連業務であり、かつ④以下のいずれかに該当する必要があります(§520.16の(b)、FAQのQ11-13)。
以下のいずれかに対して無償で法律業務を提供する場合:(i) 低所得層、(ii)非営利団体、(iii)正義へのアクセスを促進・確保しようとする個人・団体(§520.16の(b)(1))
司法・立法・行政その他の政府機関の公務に対する法的援助の提供(§520.16の(b)(2))
よくわからないため割愛(§520.16の(b)(3)ご参照)
①は問題にならず、③は④に内包されているように思いますので、要するに②と④を満たせばよいということになります。②と④を満たせば、独自に見つけてきた活動でも問題ないはずですが、現実にはその要件の確認が容易ではないため、一般的には、(ア)LLMが提供するプロボノ活動に従事する、(イ)研修先の現地法律事務所が行うプロボノ活動に参加する、(ウ)日本からでもリモートで行えるプロボノ活動を行う(後述)、のいずれかの方法でプロボノ要件を満たすことになるのではないかと思います(その他の方法をご存じの方がいらっしゃれば、よかったら末尾のtwitterアカウントまでDMください!)。
日本(外国)からでもプロボノ活動はできる?
できます!
上記のプロボノ活動の要件を満たしている限り、プロボノ活動を行う場所はどこであっても構いません(§520.16の(d)、FAQのQ3・Q10・Q11)。
私自身は利用していないのですが、事務所の先輩からの情報では、LawHelpNYという団体や、イリノイ州のLiveHelpという活動がリモートでのプロボノ活動の募集をしているそうです。その他にこちらのサイトから応募できるプロジェクトもあるようです。
ただし、LawHelpNYは、応募者が多く割り当てられるまでに時間がかかるという情報もあるため注意が必要です。また、オンラインで法律相談に答えるという業務内容であるものの、待機時間が多く、50時間要件を満たすにはよいがあまり実にはならなかったという意見にも接したことがあります。
以上の情報はいずれも伝聞の域を出ませんので、もし実際に経験をして上記の内容は間違っているとか、他にもリモートでプロボノ活動を行う方法をご存じの方がいましたら、よかったら末尾のtwitterアカウントまでDMください!
Form Affidavit of Complianceの末尾の監督者の署名はPDFでも大丈夫?
私のときは大丈夫でした。ただし、コロナ禍での特例措置である可能性があります。
Form Affidavit of Complianceとは、プロボノ活動を50時間行ったことを証明する書類であり、NY州弁護士の登録申請の際に提出する書類の一部です。この書類は、①1頁を自身で記入して、②2頁に公証人の公証を得た上で、③3頁に監督者の署名を得る必要がある、という中々面倒な書類です(Formの冒頭の説明参照)。そのため、監督者が遠方にいる場合に、公証済みの原本を監督者に郵送した上で返送してもらう必要があるか、という問題が生じます。
私の場合は、研修先がワシントンDCにあり、他方でプロボノ活動を監督してくれた弁護士はNY Officeおりかつ原則在宅勤務で、それぞれの秘書も在宅勤務であったため、署名入りの原本を郵送して返送していただくのが煩雑という問題がありました。
そこで公証済みのFormのPDFを監督者にメールで送り、それを印刷の上3頁に署名をいただいたPDFを送ってもらい、これを印刷したものをNY州裁判所に提出しました。結論としては問題ありませんでした。もっとも、書類審査後にメールが届き、一部の提出書類が原本ではないため、原本と相違がないことの確認をしてほしいと伝えられました(原文は以下)。
そこで、ワードで以下のような記載をした書類を作成し、自身で署名した上でそのPDFをメール送付したところ、3日後に無事審査を通過した旨の連絡があり、原本を提出せずにすみました。
ただし、NY州裁判所からのメールには「Due to current circumstances, we are currently allowing electronic submissions.」との記載がありましたので、今後は状況が変わる可能性があります。監督者が近くにいる場合は、原本に署名を得ておいた方がスムーズかと思います。
また、私が利用した公証人は、公証した合計3頁のFormを特に綴じたりはしませんでしたので、結局3頁は空欄のままでした。そこで、監督者に3頁のみを署名入りで郵送してもらい3頁だけ公証済みの書類と差し替える、という方法もとれるかもしれません(未検証です。また、監督者に署名をいただく前提として、事前に監督者に対し、公証済みの書類のPDFを送付しておく必要があります。)。
おわりに
この記事が少しでもNY州弁護士の登録を目指す皆さんに参考になりましたら幸いです。
なお、上記の情報について間違っている、こういう情報もある、こういう情報も欲しいなどのご意見がありましたら、末尾のtwitterアカウントまでDMをください!
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