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とあるEV記事の嘘と実際


1.この画像に要注意

 こちらの画像をご覧ください。

https://www.autocar.jp/post/1036234

 ”EV 火災”などと検索すると出てくる記事に、よくこの画像のデータが引用されています。$${ ^{1)}}$$ $${^{2)}}$$
 ある年の火災発生件数がハイブリッド車で16,000件、ガソリン車で200,000件、EVで52件だと主張しており、また100k販売あたりの出火数はハイブリッド車が最多で、ガソリン車、EVの順で発生していると主張しています。
このデータ間違っています、というのが今回のお話です。

引用元のAutoinsuranceEZ.comを訪れると次のように説明されています。$${^{3)}}$$

https://www.autoinsuranceez.com/gas-vs-electric-car-fires/

 "ガス車か電気自動車か果たしてどちらがより大きな火災のリスクがあるか決定するために、NTSBのデータに没頭した"と書いてあります(本当に没頭したんでしょうか)。では実際にNTSBの資料を見ながらなぜ間違っているのか説明しましょう。

2.このデータのどこがどう嘘なのか

 下の画像がNTSB資料の該当データです。$${^{4)}}$$(このデータが正しいです)

 このデータはNHTSAのFARSというデータベースから集計されたもので、2013~2017年の事故を対象に集計をしています。(FARSは死者が発生した衝突事故の情報からなるデータベース。)

 見ていただきたいのがAll Model Years列のうちFireの列。これが火災発生件数になります。この列のTotalの行を見ると、総火災発生件数が7939件ですよね。もうここから話が違います。記事冒頭のデータではガソリン車だけで20万件の火災があったことになってますから。

 では記事冒頭のデータのハイブリッド車で16,000件、ガソリン車で200,000件、EVで52件という数字は何なのか。それは上の表のTotalの数字です。

 わかりやすいのはEV。表のElectric行の51件と、Hydrogen Fuel Cellの1件を足し合わせると52件となります。

 同様にガソリン車はCompressed Natural Gas(153) + Diesel(28155) + Propane(5) + Gasoline(171220)=199533件、ハイブリッド車はConvertible(134) + Electric-and-Diesel Hybrid(6) + Electric-and-Gasoline Hybrid(1765) + Flexible(14146)=16051件と計算できます。

 つまりAutoinsuranceEZ.comは衝突事故発生件数を火災発生件数と偽って集計したことで、このようなデータが完成したわけです。

 ちなみにFlexibleはハイブリッド車ではありません。Flexibleとは日本語でいうところの"フレックス燃料車"を指し、ガソリンのほかにエタノールなどの燃料を混合して走行できる車を指します。

 もう一つケチをつけるならば、仮に火災件数が正しい値だったとして、100k販売台数あたりの火災数に直す意味が分かりません。さらにあろうことか2022年の販売数を分母にしています。ちなみに仮に2013~2017年の販売数を分母にしても意味はありません。なぜなら火災が発生した車両は2013~2017年に発売の車ではないかもしれないのですから。

3.直近の実際の火災率は

 2020~2022年のFARSデータを解析し、各パワートレーンごとに重大事故(死者が発生した衝突事故)発生時の火災発生率をまとめました。$${^{5)}}$$

 この結果から火災発生率はEV>ガス車>HEV>PHEVと言えそうですが、どうも釈然としません。なぜならPHEVがGAS車とEVの両方の性質を併せ持つのであれば、PHEVの火災発生率はEVとGASの間に位置する、と考えるのが自然だからです。GASとHEVのサンプル数は十分なので値はもっともらしいことを考慮すると、残るはEV、PHEVのどちらか、もしくは両方に何か特異な点があるはずです。
 そこでEVについて、トップシェアのTeslaとそれ以外という構図を作り解析を実行しました。

 この結果から、火災発生率はTesla>GAS>HEV>Other_EV>PHEVと言えそうです。
 注意していただきたいのが、今回はあくまで重大事故発生時の火災発生率なので、発生率が高かったからと言って"その車が危険だ!"と結論を急がないでください。あくまでこのケースにおいてこういう結果が出ました、というだけのお話です。またEV、PHEVはサンプル数が少ないため、実際の実際は火災発生率が上下する可能性があります。(私はPHEVの真の火災率はHEVとOther_EVの中間くらいではないかなと予想しています)
 最後に念のためHEVシェアトップのトヨタのHEVに着目して解析を行いました。

 トヨタのHEVは他のHEVより火災発生率が若干高い(0.5%差)ことが分かります。
これが有意差かどうかはさらなる調査が必要かもしれません。(暇ができたら調査します)

まとめ

 この解析を行ったきっかけは、Twitterで"EVが燃えやすい"という言論を目にしたときに、本当だろうか?と思い、自分で調べてみたのがきっかけです。そこで冒頭の嘘記事に出会い、"ハイブリッドが圧倒的に燃えやすい"という記事の内容に、本当か?と再度疑問に思いFARSの解析に至ったわけです。
 実は以前から冒頭の記事が嘘だということはTwitterでもさんざん指摘されてきていたみたいで、私の行いはまさしく車輪の最発明だったわけです。が、奇しくも記事の嘘を指摘した先人の記事が削除されていると耳にし、じゃあ私が、と立ち上がった次第です。お見苦しい記事で恐縮ですが、もし誰かが嘘データが引用しているのを見つけたら、やさしくその誰かにこの記事を教えてあげてください。
 最後に皆さまに2つお願いがあります。
 一つは火災率を持ち出して特定の車やその車のオーナーを誹謗するのは控えていただきたいです。むしろ、どうすれば車両火災を減らしていけるのか、という建設的で前向きな議論を私自身は望みます。この記事を、どうすればより良い車社会が手に入れられるか話し合うための材料にしていただければ嬉しいです。
 もう一つは、もし私が解析したデータが間違っていましたら是非ご指摘よろしくお願いします。

参照

1)目立つEVの火災事故だが、販売10万台あたりの火災件数はHVが最悪--次いでガソリン車

2)電気自動車は火災が多いって本当?火災が起きたときの対処法は?

3)Gas vs. Electric Car Fires [2024 Findings]

4)NTSB DATA REPORT PREVALENCE OF ELECTRIC VEHICLE BATTERY FIRES

5)NHTSA File Downloads


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