Tesla ModelYに3日間乗ってみた件
1.まえおき
近年、国外ではEVに乗る人が急速に増えている。その大半が人口の多い中国のユーザーだ。中国では国策でEVを猛烈に推進しており、その甲斐もあり既に新車販売の半分はBEV、もしくはPHEVというありさまである。重要なのが、今までの中国市場のようにトヨタや日産、VWやメルセデスがこの流れを作っているのではない。中国の地場の企業がここ数年で急成長し、既存の外資メーカーを完全に排除しようとしているのだ。これも恐らく国策であろう…残念ながら日系OEMもこの流れに押し切られそうになっている。
そんな中、あるメーカーだけはこの流れに逆らって踏ん張っている。それがアメリカのOEMであるTeslaだ。詳しいことはWikiを参照してほしいが、自動車ではBEVを専門に作っているという2024年現在でもなかなか例を見ないメーカーだ。そして中国自動車業界の急成長の原因となった(と筆者が考えている)企業でもある。
このTeslaの中にModelYという車種がある。これもWikiを参照してほしいのだが、EVの中ではトップクラスに売れている、実績がある車種である。一方、日本での販売は振るわない。ここで疑問が生じる。ModelYの何がそんなにいいのだろうか?なぜ日本では受け入れられていないのだろうか?私は一度こういう好奇心を持ってしまうと飽きて捨てるまで突き進む性格なので、今回も突き進むことにした。運よくTeslaから3日間だけ好きに乗り回していいよ、とお達しがあったので、ModelYの24年製(だったはず)をしばきまわしてきた。
2.見た目はこんなかんじ
テスラファンにもテスラアンチにも悪いが、私はどちらに迎合する気もないので、本当に自分が感じたことを酸いも甘いもすべて吐き出そうと思う。
外見はややノーズの主張が強く感じ、ライトは若干丸みを帯びている、なんともかわいらしい顔つきである。第一印象はハムスターだと思った(ほめてます)。室内空間を広くするためか、タイヤ空間がかなり外に張り出しており、下半身はずっしりして見える。それに対してピラーは台形のようにしゅっとまとまるので、低重心でどしっと走るんだろうなと思わされる、そういう外観になっている。そうなるとハムスターというよりビーバーか。
車内に入ると、2つ驚くことがある。一つは圧倒的な開放感があること。これは車両の横幅がそもそも広いということもあるのだが、もう一つ理由があり、ダッシュボードの位置が低いため前方の空間が広いことが大きい。私の知る限り、このダッシュボードを思い切り下げる設計はEVの中でもTesla特有の思想だと思う。ともかく、まるでリビングにいるかのような気分で快適だった。
そしてもう一つは驚くほど内装がプラスチッキーということだ。目に見える範囲でもいわゆるハードプラが多用されており、肘置きやドアトリムはまだ多少柔らかい素材でおおわれているが、500万円台の車でこの質感か…と思わされてしまう(安い素材で何とか見た目だけは良くしようという努力は見えるので、その努力は汲みたいが…)。
あと画像を見ればお分かりだと思うが、内装のデザインは情報量が少ないのもTesla車の特徴。ミニマリズムと呼んでも差し支えないだろう。個人的には好みだが、人によっては物足りないと感じる人も多いのかもしれない。
3.走りは良くも悪くも…
今回の試乗では以下のルートで試乗をした。(計450kmくらいは走っただろうか)
1日目は
名古屋テスラ→名古屋市内→名古屋高速→東名高速→浜松市内→浜松SC→浜松市内→ホテル
2日目午前は
ホテル→浜松市内→東名高速→国道1号→富士川SC→東名高速→沼津市内→沼津港
2日目午後は
沼津港→新東名高速→遠州森町SC→新東名高速→豊田市内→自宅
3日目は
自宅→豊田市内→元町SC→東名高速→名古屋高速→名古屋市内→名古屋テスラ
という行程。自分はチキンなので充電が50%を下回る前にSCに向かい、ディーラー側で設定された80%の制限いっぱいまで充電した。充電時間はおおむね10分といったところで、トイレや買い物、ホテルの検索などで時間を潰していたらいつの間にか充電が終わっていることが多かった。
本題の走りの質感だが、結論から言うと及第点、そんな不満はない…というのが感想。
名古屋、浜松、豊田などのきれいに舗装された道路での走りは全く問題ない。路面の入力も大きくなくかつ長周期なのでサスが仕事をしてくれる。そして~60km/hにおけるワンペダル運転のフィーリングは素晴らしく、回生ブレーキによる減速制御が自然に仕上げられているので、自分でブレーキを踏むよりもむしろ回生ブレーキを使った方が落ち着いて車を停止させることができる。結果として市街地を運転する途中、減速目的で一度もブレーキペダルを使わなかった。
問題があるとすれば高速道路での走行、得に名古屋高速や東名高速で顕著だったリアからの突き上げ感だろうか。車が高速になると、路面からの入力は短周期で鋭い入力となる。この鋭い入力に対してフロント側は頑張って吸収してくれる印象はあったのだが、リアは振動を十分にいなしてくれない印象があり、常にお尻の後ろから突き上げられるような振動を感じていた。私は欧州車の硬めの味付けに慣れているせいか特段不満というほどでもなかったが、柔らかい日本車の味付けに慣れる人は不満に思うポイントなのかもしれない。
もう一つ、あれって思ったのは、高速でのワンペダル走行で速度調整が難しい問題で、高速では100km/hで走りたかったので、アクセルを微調整しながら速度を落ち着かせようとしたのだが、なかなか100km/hに落ち着いてくれず、気づいたら80km/hや120km/hになってしまっていた。おそらく、一般道と走るときと高速を走るときの回生ブレーキの強さが同じせいで、ペダルをちょっとでも動かしたら一気に加速減速してしまうことが要因。一般道ではそれでいいのだが、高速道路では制御を緩やかにするなど、もう少しフィーリングを改良できるのではないかと感じた。正直あまり走る楽しさは感じなかった。
まあ私は高速ではほぼオートパイロットという運転支援機能を使い、機械に加速減速を任せていたので、そう言う意味では不満はなかった。自分で運転したい!と思う人からすると不満になるポイントなのかもしれない。
全体を通して、乗り心地はやや硬め(不快なほどではない)、振動は高速ではわりと感じる(不快なほどではない)、アクセルフィールは一般道では快適、高速だと違和感あり、と言った感じ。なので、走りの質感は少なくとも満点ではない。ただ及第点だと感じた。後述のオートパイロットを含めて平均点以上と言ったところだろうか。
4.オートパイロットの質は高い
前述の理由もあり高速ではほぼオートパイロット(AP)を使っていたが、このAPの質は高いと感じた。そう感じたのは4つの経験による。
1つ目は雨の日でも正常に動作していたこと。テスラの真の目玉であるFSD(フルセルフドライビング)は雨や霧の時に精度が落ちることが指摘されているが、AP程度の制御であれば問題ないということだろうか。白線もきれいに読み取ってくれるし前の車との車間距離も適切に保ってくれる印象だった。
2つ目は白線の認識精度。特に東名高速では白線がほぼ消えかけている箇所が随所にあり、ここを認識してくれているかをFSDの画面を監視していたのだが、しっかり認識してくれていた。これは推測だが、読み取れているわけではなく、線が復活したその先を認識し、消えている部分を補完しているのではないかと思われる。ちなみに…片方しか白線がない場合はその片方の白線に沿って走行しようとする。どういう制御をしているのだろうか、気になる…
3つ目はカーブでの走行。(本当はいけないんだろうけど)JCTなどの分岐・合流のカーブが来るたびにAPを再起動して、時速~80km/hで走らせてみた。特に問題なく走ってくれた(ごめんなさいポリスメン)。
4つ目は加速減速制御の滑らかさ。これはTeslaだから、というよりもEVだから、が正しいのかもしれないが、加速減速が極めて自然。車間が詰まったので急ブレーキ、とか車間が開いたので一気に行くぜ!みたいな無茶な制御をしない。まさにPIDの臨界減衰を想起させる滑らかかつ合理的な運転を見せつけてくれる。特にCVTの運転支援に顕著な、けたたましいうなり声とともに加速していくあのうっとおしさを感じずに済むのはうれしい。(前所有していたカロ〇ラがこれでした。)
ちなみにこれは完全に余談だが、日本では解禁されていないFSD、動作をちょくちょく監視していたが、信号の色をうまく認識できない時があるようで、これが改善されない限りは解禁はまだまだ先だろうなと感じた(日光の当たり具合で色が変わってしまうのだろうか…)。今後の学習に期待である。
5.ソフトウェアはまだ先を進んでいる
現状日本におけるテスラ車の魅力というのはこのソフトウェアの独創性に集約されるだろう。特に私が目を引いたポイントに絞って紹介する。
①スマホ世代直撃のUI
インフォテインメントのアクセシビリティが非常に高い。使用感はiPadとほとんど変わらない。試乗当日、ディーラーの担当者からほぼ説明もなく道路に投げ出されたわけだが、アイコンを見れば何が何だかピンとくるし、アイコンをタッチしたその先の動作も、なんとなくタッチやスワイプをすればなんとなくできてしまう(欲を言えば設定画面もアイコンやピクトグラムなどでわかりやすくしてくれれば満点だと思う)。またナビも動きがヌルヌルで二本指でスワイプしてスムーズに拡大縮小ができる上、素早く2回タップすることでも拡大できる。シンプルに使いやすい。なにより動作がぬるぬるというのが大きい。動作の軽さはしばしば軽視されがちなのだが、パソコンやスマホなどで(家電でも例えは何でもいい)、高性能なモデルを触ってその快適さにとらわれてしまった経験はないだろうか?それと同じで、いかに自分が低性能な機器を使って自分の神経をすり減らしていたか、時間を無駄にしてきたかをまざまざと知るのだ…。…ともかく、言い方は悪いが、馬鹿でも直感で素早く操作できる単純明快なUI、アクセシビリティの高さはもっと知られてもいいのではないかと思う。
とここまでべた褒めしたが、改善点がないわけではない。まず地図の読み込みが遅すぎる。せっかく2回タップして軽やかに地図を拡大したのに詳細地図が表示されるまで5秒かかるのはまったくもってナンセンス。直してほしい。またナビが変な経路を推奨してくるのもやめてほしい。一個先のICを降りれば目の前にSCがあるのに、わざわざ一個前のICで降ろして30分も下道山道田舎道を探検させようとする、いい加減にしてほしい。これはすぐにでも直すべきだと思う。ともかくナビはまだまだ改善の余地があると感じた。
②気が利く運転支援機能
これ一番いい!と思ったのが、カメラによる運転補助で、例えばウィンカーを出すと画像のように曲がりたい方向の後ろ向きのカメラ映像が映し出される。これにより、車線変更や右左折時の巻き込み確認が格段に楽になる。首をひねる動作がなくなるだけでだいぶ肩の荷が下りたというか、ゆったり落ち着いて運転できるようになったので、これは他のメーカーの車にもついてほしい機能だ。またダッシュカムというアプリを起動することで前後左右のカメラを一目で確認できる。幅の狭い道路を走行するときの車幅間隔の確認や、人の往来が多い場所などの周囲の確認に役立った。
もう一つはFSDの機能の一つだろうが、アクセルの踏み間違い防止機能で、信号が赤の時に間違えてアクセルを踏んでしまったことが一回だけあった。が、カメラが赤信号を認識していたのか、警告が出ると同時に車は発進しなかった。個人的にテスラ7不思議の一つだが、結果的に助かったことに変わりはないので一応書いておく。
③検索機能最高
これもUIといえばそうなのだが、目的地を検索するシステムが単純明快で使いやすい。ポイントは、検索ワードが完全一致である必要がないことだ。
検索ワードは部分一致でいい。何なら間違っていても候補が表示される。例えば"沼津八十三番地"という観光地があるのだが、そこへ行こうと思って何を狂ったのか"沼津三十八"と入力してしまった。しかし検索候補を見ると"沼津八十三番地"が表示されているのである。いままで国産のナビしか使ってこなかった私にはあまりに刺激が強すぎた。それ以降、検索機能がちゃんと機能することを知ったので、住所検索は二度と使わなかった。R18指定されてもおかしくない機能だろう。
6.まとめ
所詮3日間しか乗れていないのでまだ発掘できていないこの車の良さ悪さは色々あると思う。が3日乗っただけでも、ここに書ききれていないだけで他にも多くの気づきがあった。(YoutubeやSpotifyが楽しめる。充電中ゲームで暇を潰せる。Bluetoothの設定が楽。高速で風切り音が全く聞こえない。SCv4実は使いにくい問題。スマホで自動で鍵の開け閉めができる。鍵を閉めるときのクラクションが恥ずかしい。テスラ同士がすれ違う時の謎の友情。etc…)
この車への知的好奇心がさらに増したのが私の正直な感想で、もっとこの車を研究して自分の仕事に活かしたいと思った。この記事、というか日記を見て気になった人(特にスマホネイティブ世代)はぜひ一度乗ってみてほしい。なかなか面白い車だと思う。一方で、自分で運転する楽しさを追い求めたい人、走りを追求したい人、ソフトなんてどうでもいいわ、って人からするとこの車は全く魅力的に見えないだろう。ふーん、くらいで流してもらえればと思う。以上!
↓なんかModel3のトミカが出とる…