雨狂い 夏炉冬扇 #5.5
雨よ来い、神に乞う
呆けたこころを満たすまで
闇は濃い、雨に恋う
わたしの居場所になれるまで
愛しい虹が青空に咲いたのは
誰かが雨の種を蒔いたからでしょう
名もない箱庭で蓮が踊るのは
尽きぬ想いを届けたいからでしょう
無常な昼の雲は青を引っ掻いて
喪った世界を歌わせるのです
長雨に濡れれば隠せるからか
不規則な涙が止まりません
因果を悟れば救われるのなら
あなたと別れた冬へ 浄土へ
チ、チ、チ、と時計が笑うから
血、知、恥、と殻に籠もります
わたしたちの歩幅は別々でしたが
堕ちた地獄の業火はそっくりでした
運命ってやつの暴力すべて
屹度あなたの言霊で破砕して
壊して安住したいのです
生きた心地を歌いたいのです
狂っていのちを繋いだ病棟の白さを
まだわたしは覚えているから
愛しい嘘が夕暮に咲いたのは
内なる魔物に怖気づいたからです
気前のいい鬼に誘拐されたのは
幻想を体感したかったからです
師走の風が爆ぜた灰空は
思った以上に美しかったのです
繕って隠して厠で泣いた
わたしの過去を吹き飛ばすくらい
避けたはずの煩悩の感触に
わたしは麻痺してしまったのなら
キ、キ、キ、と息の根を止めて
奇、危、忌、と妄想に耽りたいのです
二人の遺伝子は別々でしたが
起きた白夜の景色は驚くほど同じで
光が監視する地上を丸ごと
そっと二人の言葉で捕縛して
喪った日常を弔いたいのです
狂っていのちを繋いだ腹痛の夜を
あなたと食卓を囲んだ日々を
わたしがこの現世に嫌われる前に
天つ風と 地の泉が
尽き果てるとき
あなたと二人で
雨に打たれたいのです
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