「ただ、そばにいる」こと
「私はからっぽだし、なにもない。みんなのためにできることもない。でも、そばにいたい。ただ、それだけでここに来ました。」
上映会準備のために、会場のサンパルネのカフェであつまっていた年末のこと。はじめて参加してくれた彼女から、こんな言葉が出た。
思わず「そんなことないですよ、あれも、これもできてるし、助かってますよ。」なんて声をかけそうになり、そこで「はっ」と、その言葉を飲み込んだ。必要なのはそんな励ましじゃなかった。「ただ、そばにいる」そのことを、そのまま受け取ること。
「ただ、そばにいる」そう言う彼女が今日来てくれたことが、この場にもたらしてくれている、大切な何か。その場にいたメンバーはみんな、そこに漂うなんとも言えないあたたかい気持ちを言葉にしようと「ありがとう」とか「大切だね」とぽつぼつと話してみては、最後は言葉を手放して、ただただ「うんうん」と頷き合った。
少しずつ夕陽に包まれていくサンパルネの大きな窓。「富士山が見えるね」と言ってみたり、作業についてきた赤ちゃんに「おりこうだったね」と声をかけたりしながら、帰り支度。椅子を戻し、コートを着込んだ。
すごく良い日だった。
「ラベルを超えて人と人が出逢う」それは社会に向けたメッセージというよりは、自分自身に向けられた言葉なのかもしれない。強い弱い、役に立つ立たない、できる、できない。人に、出来事に、世の中に、ひたすらラベルを貼って「理解」しようと必死にもがいている。もっと言えば「強い」「優しい」「役に立つ」そんなふうにならなくちゃダメなんだと思ってきたし、そうでもしなければ、人生を泳ぎきれないような気さえしていた。
でも。
今は少しずつ、それを手放す練習中。
試行錯誤、いきつ戻りつしながら。
そうしていくと、どうなっていくんだろう。
おそるおそる立っている。
ひとりではとても不安だから
「やってみようよ」って
そばにいてくれる人たちと
ちょっとずつ。