いつか飛び立つ日
「18歳になったので成人しました」
という記事を最近よく見かける。
そうか、2022年。つまり今年の4月から成人年齢が引き下げられたのだった。
自分の18歳の頃を振り返ってみれば、まだ頭の中は中学生のまま成長しておらず、親に反発ばかりしていたイカれたエセパンクだった。30歳を過ぎてようやく人間らしくなれました。自分目線で見るなら「30歳成人」でも良いんじゃない?とも思う。
さて我が家には12歳の息子がいる。
息子が3歳の頃、よくお手伝いをしてもらった。何かを作ることは好きなようで、特に料理に興味を示す子供だった。
料理男子を育てる事は私のひそかな夢だった。
まだ幼い息子に
「大きくなってちゃんとお料理が出来るようになったら、鳥さんの赤ちゃんみたいに飛ぶ練習をして、ここから飛び立って行くんだよ」
と言った。
ただ自分の力で生きて行く事が出来る大人になって欲しい、という思いからでた何気ない一言だったと思う。
そんな話をして数年、
すっかり自分の話した事を忘れていたけれど
ふとしたタイミングで
「僕は何歳で飛び立てばいいかな」
「僕は一人暮らしをするんだ」
とまだ声変わりもしていない12歳の少年が言う。正確には数年おきに、そう言った事を不意に口にする。
(ああ そういえばそんな話をしたんだっけ)
その度にちくりと胸が痛む。
自立心を持って自活出来る大人になって欲しいという思いは変わらないけれど、私はとんでもなく重い言葉を幼な子に押し付けてしまったのかもしれないと、軽々しくそんな話をした当時の自分を呪った。
3歳の子供が将来を考えるのはまだ、もっと先でもよかったんだ。「見捨てられるのでは?」と思わせてしまったのかもしれない。
そんな事を考えていると感情の波に揺さぶられて涙が溢れてくる。
あの時の私の言葉はもう取り消せないのだ。
「あなたが自分でここから出たいと思うまでいてもいいし、いつでも帰ってこれる場所なんだよ」と今になって言うものの、彼の心はもう決まっているのかもしれない。
子供はいつか巣から飛び立つもの。そうでないと困る、と思っていたけれど、まだ年端もいかない子供の方から旅立ちを匂わされると「え、もういっちゃうの?」と動揺してしまう。
考えてみれば18歳成人まであと6年。
あっという間だ。
さすがに「18歳になったからご自由に」
法的にはそうであっても、親としては出来ない部分が多々あるだろう。
あと6年。
まだその先も、もっとしてやれる事は無いだろうか?と多分ずっと、終わりなく問い続けるのだ。
9年前の一言が彼の人生をどう左右させるのかはわからない。けれど、お互い笑顔で送り出し飛び立てる日が来る事を願ってやまない。
みちか
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