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なんでこうなる。トイレの悲劇。

あくる日、道産子の私は出張で鳥取にいた。当時勤めていた会社の現場作業の補助係として、班のおじさん複数名とやってきた。

自然の中を歩きまわる仕事で、そばにトイレがあることはまずない。作業のタイミングをみて、皆で休憩がてら、車でトイレに向かうシステムである。

その日もいつも通り作業し、途中でトイレ休憩が挟まれる。
朝、現場に向かう道中に見つけた、人っ子一人いないドライブ客だけが利用するような、外にある公衆トイレに戻ることになった。

トイレへ到着すると、私とおじさんが1人、同じ建物の男女トイレにそれぞれ散る。

そのとき、事件は起きた。
中に入るとそこは、人の出入りが少なくほぼ虫の住処になりつつあるトイレだったのだ。


虫が大の苦手な私、引き返すべきか迷った。


しかし、ここで済ませておかないと後に尿意で作業を中断してしまいかねない。かといって、ようやく見つけたトイレ。見知らぬ土地で、さらに時間をかけて他のトイレにつれて行ってほしいとも言えない。虫が理由だし。


意を決して私は個室へ飛び込んだ。
扉を閉めた瞬間、前後の壁にカメムシがいることに気付く。
「なんでだようぅ…」
早々に力ない独り言が出てしまう。

だが、ひよっている時間もない。
出てくるのに時間が掛かればかかるほど、大きい方をしていたのだとおじさん達に誤解されてしまう更なる心配が出てきた。

「刺激しなければ動かないかもしれない…」
一縷の望みをかけて、前後のカメムシを刺激しないよう、最小限の動きでズボンを下す。

そこで、もう一つ重大な事実に気付いた。
「和式…だと…?!」
近頃は洋式が勢力を伸ばしているトイレ界隈。
私もすっかり洋式に慣れてしまっており、久しぶりの和式に足腰が持つだろうか、とうろたえる。

だが、いかんせん時間がない。できる・できないじゃない。やるしかないのだ。立つんだジョー!


少しでもよろついて壁に手を当てようものなら、壁に居るカメムシがこちらに襲い掛かってくる可能性がある。
細心の注意を払い、衰えきった足腰に神経を全集中させ、急いで腰を下ろした、その時…

ブウゥゥ~~~ゥ⤴︎⤴︎


トイレに私の長めの放屁音が鳴り響いた。和式だからね。しっかり開いてしまったのよ、どこがとは言わないけど。人がいないからか、とてもよく響いた。


事前イメージでは、小の方をシャッと済ませてサッとでるつもりでいた。まさか、屁が待ち構えていたなんて。自覚症状がなかった。カメムシに気を取られすぎていたせいかもしれない。
(さりげなくカメムシのせいにしておく)

さいわい、人っ子一人いないトイレ。誰にも迷惑はかかるまい。そんなことより、早く済ませて出よう!私の頭の中は、虫と大便疑惑をかけられる心配でいっぱいだった。

こうしてカメムシに襲われることなく、命からがらトイレから生還。
すがすがしい気持ちで車に戻ると、もう一人のおじさんも戻っていた。

再び車は現場に向かう。
そこで、先ほど一緒にトイレへ行ったおじさんが、車内の他のメンバーに聞こえないよう私にこっそり言った。


おじさん「伊藤ちゃん、おなか痛いときは遠慮なく言っていいからな。(小声)」

私「あ、はい。ありがとうございます!」

ん?私おなか痛いとか言ったことないよね?
(健康優良女)
なんでいきなり?

・・・(シンキングタイム)


はっ?!!
そう。お察しの通り。さっき高らかに奏でた放屁音、聞こえてた。人がいないからと安心してたら、いなさ過ぎて男子トイレにも届いてたのね。なんてこった。


もうね、穴があったら入りたいとはまさにこのこと。私は何度も忘れようとしたけれど、おじさんが優しくてね。その日から出張が終わるまでずっと気にしてくれるのよ。よっジェントルマン。


こうなったら、放屁よりはお腹壊してる方が女の子らしいかな、とか謎の判断をしまして。その日一日はおなかさすってみたり、首傾げたりちょっと小芝居して過ごしましたわ。

おじさん、色々とごめんなさい。(^人-)-☆

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