等身大の私たち【新】

 



前書き

「等身大の私たち」は2021年岡山県大会で上演するために描いた作品です。

絶賛コロナ禍でどんどん舞台に立つ機会が失われていく。貴重な高校演劇生活の残り時間と終わりの見えないマスク生活の中で、自分が感じていたありのままを、等身大の私たちの高校生活を描きました。勉強、部活、恋愛など身近なテーマと、それに真剣に悩み、ぶつかり合う高校生のお話です。

高校演劇大会の後、素敵な創作演劇を前に、いつも手元に台本があれば…!と感じていました。そのため、自分が書いた作品は誰もが見れるように公開しよう、と。しかしすっかりゴテゴテになってしまい、いつの間にか3年が経とうとしております……。
今見返すとあまりにも拙くて公開するか迷いましたが、日々の練習のお役に立つことができましたら幸いです。

また、地区大会用(旧)と県大会用(新または完成版)の2タイプございます。こちらは県大会用に書き換えた新バージョンになります。



使用に関するお願い

・ご自由にDL、印刷してください🙆
・大会や発表会で上演したい…!という方はコメントやDM、メールにてご相談いただけますと幸いです。透かしの入っていない台本をお送りいたします。また、潤色や裏話に関してお伝えいたします!
・著作権は放棄いたしません。

練習に使用される際は、ご連絡していただく必要はありません。
ですが、一言いただけると私が飛び上がって喜びます。

Twitter→ @to_roimerai
メール→piyopiyo6o.o9☆gmail.com 
      
(☆を@に変えてください。メールあまり見てません…)
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DL用台本

↑ここからDLできます!
9場面は旧→新の過程で削除したため、ありません。



以下、台本をコピペしたものです。
登場人物の部分だけ少し手を加えました。
本文は全く同じ内容の上、体裁が崩れており非常に読みづらいため台本として使用される際は、DLしたものを使うことをお勧めします。


記号説明

◯明転
●暗転
◆ト書き
♪音響



以下、等身大の私たち(新)全文

登場人物

綾瀬 ひなた (あやせ ひなた)

演劇っこ
明るい性格
基本無邪気だが物事の判断基準が演劇だから冷酷に見えることも

如月 黎 (きさらぎ れい)

学校の王子様
小学校からエスカレーター女子高なのでだんだん求められるキャラを演じることに順応していく
文字を書くのが好きで素は王子様じゃない

春川 香恋 (はるかわ かれん)

カースト中間層のよくいる普通の女の子
ミーハーっぽいとこもあり、王子は普通に好き
ひなたに勧められて始めた演劇は、好きだけどなかなか上達せずにやきもき

その他の登場人物

・妹
 香恋の妹。ひなたたちの高校に付属している中学に通っている。オタク気質。
・王子親衛隊
 3人。ここが一番人数事情に合わせて変更しやすいと思います。
・顧問の先生
 特に性別は決まっていません。

劇中劇 登場人物

・伊澄(いずみ)
 性格きつめ。だがそれは今まで積み重ねてきたものへの自負故

・水無瀬(みなせ)
 快楽主義者。ふらふらしてる。しかし芯は硬い

・落合(おちあい)
 後輩キャラ。ちょっと子犬っぽさがある

裏方

・照明
・音響
・大道具、小道具
・インカム 



本文

1場面

〇明転 ロミジュリを照らすようにスポット

◆開幕 緞帳が開いている途中で劇中劇の科白をスタート 大黒幕は閉まっている

ロミオは演技がうまくない

ひなた ジュ ああ、ロミオ様…ロミオ様!なぜあなたはロミオ様でいらっしゃいますの?家も名前も捨てられないのであれば、せめてわたくしを愛すると誓って…!そうすればわたくしもこの場限りでキャピュレットの名を捨てて見せますわ。

香恋  ロ 黙ってもっと聞いていようか、それとも声をかけたものか…。

ひなた ジュ 私にとって敵なのはあなたのお名前だけ。モンタギュー…それがどうしたというの?バラという花に何という名前を付けようと香りは変わらないわ。そう!あなたはあなたのままよ。……ああ、ロミオ様、あなたのそのお名前をお捨てになって、そして、その名前の代わりに、このわたくしのすべてをお受け取りになっていただきたいの

香恋  ロ お言葉道理に頂戴いたしましょう。…っ、あ、え~…た、ただ一言、僕を恋人と呼んでください。 さすれば生まれ変わり、今日からはもうロミオではなくなります……

ひなた カァーーーーーーーーーーーーーーット!!(食い気味で)

〇カットの声に合わせて地明り明転●スポット暗転

◆大黒幕開く

ひなた あ~~~だめだめだめ!そんなんじゃぜんっぜんだめ!

香恋 うぅ〜〜〜

ひなた さっきからおんなじところで躓いてるよぉ……。ここは二人の心が通い合ったことを初めて言葉にして確認する重っ要なシーンなの!事情聴取中のカツ丼ぐらい重要だよ!!

香恋 かつどん……?ってどんなかんじ?

ひなた えっ…えーっと、カツドォーーーン!

香恋 こ、こうかな…。かつどーん

ひなた ちがーう!カッツドーーン!

香恋 かっつどぉーん!

ひなた 香恋 カッツドーーーーーン!!!

◆妹勢いよく入室

妹 おねぇ~~~~ちゃあああああああん!!!!!

ひなた うわっ、びっくりしたぁ

香恋 ちょっと!今部活してるんだけど

妹 え~~私はただ社会科教室に遊びに来ただけだよ?

香恋 その社会科教室を放課後の今間借りしてるのは私たち演劇部なんですけどね!

ひなた 弱小公立高校演劇部の苦しいところだね……

香恋 ていうか、そもそも中学生はこの教室使わないでしょ?

妹 あ~しらな~い。それよりも!見て!!!!全人類見てこれ!!!!!!っああああ!!!ついに!!ついにだよ!!!苦節一年と六か月、待てども待てども来なかった日がとうとうやってきました!そうです!!!我が推しのSSRイベ告知がきました!!!!ひゃっは~~~~~~~~!!!!!!!!

ひなた え、ごめん全然何言ってるかわかんない

妹 ひなたさん………演劇部にはオタクしかいないんじゃなかったのぉ?おねえちゃん……

香恋 何言ってるの……

妹 ほら、文芸、美術、演劇は世界三大オタク部でしょ~?っか~~~~いや推しの顔がいい今日も生きていけるありがとう神様~~

香恋 ごめんね、ひなちゃん…

ひなた いや、全然大丈夫。いつも思うけど香恋の妹ちゃんなかなか強烈だよね……。でもごめんね、推し…?とかあんまりわからなくて

妹 いいのですわ…ひなたさんはそのままでいてくださればいいのです……

香恋 とはいえ私もそんなに漫画とかアニメとか見ないなあ…。んん、アイドルとかのほうがまだわかるかも……。あ、アイドルといえば!聞いた?

ひなた 何を?

香恋 「お・う・じ・さ・ま」のことだよ!

◆ひなた、妹、首をかしげる

香恋 ええ!?二人とも知らないの!?……あのね、5組の山崎さん、王子様に告ったんだって!!

ひなた へぇ…

香恋 反応薄…!!もっとこうなんかないの?

ひなた なんかって言われても…

妹 あ~~三次元はちょっと……でも良質なネタの提供あざますと思っております。てか、あんまりしっかり見たことないんすよね~~。いっつも親衛隊に取り囲まれてるからさぁ

ひなた ああ、確かにすごい人気だよね

妹 いいよね~~誰にもなびかない孤高の王子!その心を溶かすのは誰っ……?

香恋 三次元には興味ないって言ってなかった?

妹 ちっが~~~う!!三次元のエモを二次元に昇華することで萌えを得るんですよ。例えるならば、私という水素と推しという酸素が混じりあうことで電気エネルギーが生じる!二人で電気自動車を走らせるの!!ビバ!水素エンジン!!!!

ひなた 水素エンジン……水素エンジン…………

香恋 水素エンジンはもういいから!…でもすごいよね。漫画の中みたい。

◆廊下から騒ぎ声 次の科白と同時に黎入室

香恋 女子高の「王子様」って。

◆黎のほうを一斉に向き、固まる二人 をみて黎も立ち止まる 香恋・妹同時に叫ぶ

香恋 おっ、王子様!?

妹 王子……!?

黎 ……あーごめんね。なんか取り込み中だったかな。

◆香恋ぶんぶん首を振る

ひなた えっと、なんでもないから気にしないで。

黎 そう……。えっと、忘れ物を取りに来たんだけど…

◆日向、黎忘れ物探す 香恋、妹の後ろに隠れる

妹 ちょっ、おねえちゃん!?何してるの!?

香恋 しぃーー!太陽に焼き殺されないように避難してるの!

妹 えぇ…おねえちゃんのほうが背ぇ高いから隠れないと思うよ……。

◆香恋しばらく不審な挙動をする 黎気にしてないふりをするが、やはり気になる

黎 あのさぁ……

香恋 は、はひぃっ!(食い気味・上ずった声)

黎 君も僕のことを好きな人かな?

香恋 あっ、え??

黎 もしよかったら握手でもしようか

香恋 んあ~~~~すぅ~~~~~~はぁ~~~~~~~~~~。肘タッチでお願いします。

黎 ああ、はい。

◆肘タッチして興奮する香恋

黎 じゃあ僕はこれで。演劇部頑張ってね。

◆黎退室

香恋 ひゃ~~王子様に触れちゃったね!ああ帰り道に刺されるかも……刺されてもいい……。

ひなた いや、刺されちゃだめだよ……。それに妹ちゃん大丈夫?生きてる?

妹 ……死んでます

ひなた 生きてるね

妹 死んでます!!

◆肘タッチ中に倒れていた妹、飛び起きて走り出し退室

ひなた 嵐のように去っていった……。でもゲキブにきてほしいね!王子様!う~ん、絶っ対舞台映するよ!

香恋 わかった。勧誘しよう。

ひなた え?

香恋 恋が人を強くするのね。今ならロミオのことがわかる気がする、うん。行ってくる。

ひなた えっ、香恋!?

◆香恋ドアから飛び出す

ひなた ああ…行っちゃったよ。

◆ひなた台本を読みだす

ひなた  …ひどいわ。いきなりお嫁入りのお話なんて…。パリス様とはいったいどんなお方なのかしら。もし、彼が私の心を奪い去ったら……。でも駄目。私は出会ってしまったの。美しい橋の上で物思いに沈むあなたに。ああ、どうしちゃったのかしら、ただすれ違っただけでこんな気持ちになってしまうなんて……

◆香恋、黎を連れて入室

黎 えっと、いったいこれはどういうことかな?説明してくれるとありがたいんだけど……。

香恋 あのっ!私たちと付き合ってください!!

ひなた へあっ!?

黎 ……私たちと?

ひなた ちょっと香恋!何言っちゃってるの!?ごめんね、…黎ちゃんだっけ?

黎 確かに名前は黎、だけど…。

ひなた あ~~あのね、付き合ってほしいっていうのは、私たち演劇部に!一緒に演劇しよう!演劇部へ入部をお願いします!!

黎 ……ごめん。

香恋 んああぁっフラれたあ!

ひなた あのさ!演劇部、二人しかいないんだ。次の大会、やばいの。まずは体験入部とかから初めてみない?

黎 僕忙しいからさ、ごめんね

◆黎退室 沈黙の教室

♪チャイム

ひなた もう下校時刻だ……かえろっか……。

香恋 うん……。

◆二人とも退室

●暗転

 

2場面

〇明転

ひなた おっはよ~ございま~す!ってまだ誰もいないか~~

◆ひなた荷物を置きながらぶつぶつ科白を練習

ひなた …誰!そこにいらっしゃるのは…!……風のいたずらね。今宵の月はあんなに綺麗。残酷な月の女神様、願わくばロミオをここに連れてきて……

◆黎慌てて入室

黎 ごめんね!ちょっと匿ってほしいな!

ひなた えっ?えっ!?

◆廊下を親衛隊が通過

親衛隊 王子様~~~!

◆親衛隊①が室内を覗いて、廊下の奥に消える

ひなた ああ…なるほど

黎 ごめんね……もう大丈夫そうだ。ありがとう、助かったよ

ひなた よかった。「王子様」も大変だね

黎 はは…。そんなことないよ。じゃあ僕はこれで

ひなた ………あのさ!演劇って。

黎 …その話は昨日終わったよね?

ひなた でも……!

黎 迷惑っていってるの、他をあたって。

◆黎動いた拍子にノートと挟んでた紙落ちる

黎 あっ!

ひなた これって……。

黎 やめっ!見ないで!!

ひなた    「その時僕は立ち上がった。憮然とした彼の顔に、何か言ってやらないと気が済まなかった。『君ね、僕がいくら憤悶したかわかるかい?いくら怨嗟の念を抱いているのか、愚鈍な君には見当もつかないだろう』……

これ!小説じゃん!あなたかけるの!?

黎 ……っ、……見ないでって言ったよね………

ひなた ごめん!いわれた時には時すでに遅しだったよ。それよりも…!

もう一度だけ言わせて、一緒に演劇しよう!

黎 だから

ひなた 演劇ってさ、演じるだけじゃないの。演者、照明、音響、監督……脚本。

私たちの台本、かいてよ!

黎 ……は?

ひなた だーかーら!一緒に演劇しよって言ってるの!あなたが書いた脚本で私たちが踊るの!どう?楽しそうじゃない?

黎 ……

◆黎、無言で教室からさっさと出ていく 出る寸前ひなた声をかける

ひなた まってるから!

◆ひなた教室で一人台本読みを始める

ひなた ああ、ロミオ様…ロミオ様!なぜあなたはロミオ様でいらっしゃいますの?家も名前も捨てられないのであれば、せめてわたくしを愛すると誓って…!

◆香恋入室

香恋 おはようございまーす。あれ、ひなちゃんもうきてたんだ?

◆ひなた、香恋に駆け寄り大仰なしぐさ

ひなた ああロミオ様!ううん、私のロミオ様は……!せめて今だけはわたくしを愛すると誓って!そうすればわたくしもあなたの寵愛を受けるジュリエットとして踊れますわ…!

香恋 え…っと、ひなちゃん?暑さでやられちゃった?

ひなた 今の私はキャピュレットのジュリエット!いや、ただの綾瀬ひなただよ!

香恋 やっぱりおかしいよ!

ひなた む~ん、ノリが悪いよ!そういう時は「ああジュリエット!お前を愛している!」って言わないと

香恋 あああ!今の私にロミジュリの話をしないで!!本気でできる気がしないんだから!

ひなた んあ~~~!!これはとんっでもないよぉ!ハイ注目!発表会まであとどのぐらいありますか!?

香恋 ……あと三週間で~す……あああああ~~~!!

ひなた 練習あるのみだよ!はい!柔軟筋トレ発声練習!

◆柔軟しながら会話する

香恋 くあ~硬い!痛い!

ひなた わかる~。私も体硬いからさぁ~

香恋 ……嘘だよね!?嘘だといって!!

ひなた …もうちょっと行ける気がする

香恋 いやぁ~~もうやめて!人間の限界を見てる気がする!!

ひなた あ、このまま寝そう……

香恋 ひなちゃん!?

◆二人顔を見合わせて笑いあう

香恋 ははっ、笑った笑った~

◆天使が通る

ひなた 舞台楽しみだね!後で3幕やってもいい?あっそうだ!ラストシーンの照明なんだけどね……

香恋 ……ひなちゃん…!

ひなた ……?

香恋 ……………私たち……舞台に立てるのかなぁ

ひなた ……

香恋 最近毎日不安なんだ。こんなに頑張ってるのに、もし発表会が中止になったらどうしよう、って。舞台がなかったら、「ロミオ」と「ジュリエット」はどうなるのかな……。

ひなた っ、あのさ……!

◆扉が突然開いて、黎入室

黎 ねぇ……あれ、ごめん邪魔だった?

ひなた あっ、全然大丈夫!また忘れ物?

香恋 王子様…!

黎 忘れ物じゃなくて届け物、これ

ひなた ……入部届?

黎 ほら、部長のサイン

ひなた ……ほんとに?

黎 ん

香恋 ほんとのホントに?

黎 んだっていってるじゃん

ひなた 言ってないよぉ…………やっったあ~~!!

香恋 やったねやったね!どうやって口説いたの?

ひなた ロミオ!私を愛すると誓って!!

香恋 もちろんだよジュリエット!!

◆喜ぶ二人についていけない黎

ひなた さあさあこうなったら一秒も待ってられないね!

◆ひなたサインをして

ひなた 私たちの王子様……ロミオを職員室までお守りしよう!いくよお姫様~~!!

香恋 れっつご~~!

◆ひなた、香恋はしゃいで退室

黎 ……えっと?

◆黎戸惑いながら追いかける

●暗転

 

3場面

◆ひなた、香恋、ロミジュリの科白を言いながら登場

○明転

ひなた ……ああ、ロミオ様、あなたのそのお名前をお捨てになって、そして、その名前の代わりに、このわたくしのすべてをお受け取りになっていただきたいの

香恋   お言葉道理に頂戴いたしましょう。ただ一言、僕を恋人と呼んでください…… 

◆黎、科白の途中で入室

黎 あっ

◆黎、ひなたと目が合い、そっとドアを閉める

ひなた ちょっとちょっとちょっとぉ!

香恋 なんかあらぬ誤解を生んだ気がする……

◆ひなた、扉を開けて

ひなた ちょっとまった~~はいはい黎ちゃ~んどこ行くんですか?

黎 いや取り込み中かと……

香恋 ち・が・う・よ!……私なんかよりれいちゃんのほうがもてもてでしょ。あ~いいなあ、れいちゃんの彼女さん!

◆黎、柔軟品しながら

黎 んん、そんなことないけど……。それに恋人いたことないからね、僕。

香恋 え!?そうなの?

黎 うん

香恋 告られたことは?

黎 うん…………ぼちぼち

香恋 きゃ~~きいたきいた?やっぱりいるんだね、モテモテな女子高の王子様!

黎 あはは…

香恋 あ~なんでここは女子高なんだろう!生まれ変わったら絶対に共学に行って青春するんだーー!!

黎 ……

ひなた 香恋ってずっと女子高だっけ?

香恋 中学からかなぁ。甘酸っぱ~いアオハルってなに?異国の文化??

ひなた あはは…

香恋 あ~~恋がしたい!そしたらやっとロミオの気持ちがわかる気がする!!

◆ひなた、黎の様子をうかがって

ひなた どうだろね……と、ところでさ!

◆親衛隊がノック

親衛隊① 失礼いたします!こちら演劇部様でしょうか!

ひなた そう…だけど……どちら様でしょう?

◆親衛隊勢いよく扉を開く

○「拍手~~……」のタイミングで下手凸明転

親衛隊① これはこれはどうも皆さんお揃いで、大歓迎をありがとうございます。はいはい声援をありがとう。皆さん拍手をお願いいたします!一階席~二階席~アリーナ~!拍手~~!は~いどうもありがとう!!

香恋 え……?

●下手凸暗転

親衛隊① おおっと、自己紹介が遅れて申し訳ございません!自分、王子黎様親衛隊隊員番号123番!ひふみと呼んでください!拍手~~!!

ひなた ……

親衛隊① さあ第一機動部隊突撃!!

親衛隊② ③ ハッ!

親衛隊② あの、わたし、隊員番号326番……さぶろーと呼んでください…!

親衛隊③妹 わたくし、隊員番号417番!シーナと、お呼びください!

黎 あ~……

香恋 待って待って待ってそんなとこで何してるの!?

親衛隊③妹 ハイっ!親衛隊へ入会しました~!

ひなた なんで?三次元?には興味ないって

親衛隊③妹 王子様の魅力に間近で触れたことにより、芽生えた新たな衝動に抗えず……

親衛隊① 黎様…!貴方様がどこの馬の骨とも知らぬものに攫われたと伺い、いてもたってもいられずに飛び出してまいりました。あなたを思うと、この胸が非常に痛むのです……先生!どうしてでしょう!?

親衛隊③妹 これは……恋の病です

親衛隊② そんな……!

親衛隊① ああ、王子様!どうかその接吻をもって、わたくしを恋という魔の渦中から救い上げてはいただけませんか?

ひなた は、はあ……。ちょっと黎ちゃん?

◆黎、頭を抱えた後、深呼吸をして「王子様モード」に

黎 君たち、いつも僕のことを好いてくれてありがとう

親衛隊② はう……

黎 感謝してるんだ

親衛隊③妹 ぐはっ

黎 僕はいま演劇部で活動しているんだ……君たちならいい子にしていられるよね?

親衛隊① は、はぃ……♡

ひなた はーいおかえりの方はこちらでーす。引き続き素敵な一日をお過ごしくださーい

親衛隊① はっ、それでは失礼いたします!最後に皆さん、大きな拍手~~~!!

親衛隊②③ 失礼いたしました!

◆親衛隊退室

香恋 なんか…すごい人たちだったね……

黎 ごめんね、二人とも

ひなた いや全然いいよ。それよりも黎ちゃんいつもこんな感じだと大変じゃない?

黎 まあ、それなりにはね。って僕のことはいいから練習しよう


4場面

◆ひなた、香恋、ロミジュリ練習 黎、横で台本を書く

ひなた 4幕の3場面の長ゼリ見てもらっていい?

香恋 まってどこだ……。

ひなた ほら、ジュリエットがロレンス牧師からもらった、死体みたいに体が硬直する薬を飲むシーン

香恋 あそこね、了解~

ひなた   いきま~す!パンッ!(手をたたく)

…こんなに綺麗なのに、たまらなく恐ろしいの。ああ、ばあや、行かないで。でも駄目よ。そう、これは私の一人舞台。スポットライトは私を照らし、観客は私を見つめているの。たとえここが小さな私の部屋だったとしてもね。だから泣いては駄目よジュリエット。泣き崩れてはだめ。最後の一息まで、きちんと演じ切るのよ。

ひなた カット!ね、どうだった?

香恋 うん…!昨日よりすっごくよくなってると思うよ。れいちゃんはどう思う?

黎 ……

香恋 れいちゃんすごく集中してるね

ひなた れ~~~い!

黎 っわ、びっくりした。ちょっと声かけてよ

ひなた かけたよぉ~!ね?

香恋 うん。れいちゃん台本どう?

黎 う~ん、悩み中

ひなた テーマは決まってるんだよね?

黎 前の案は没にしたから「振出しに戻る」って感じかな…

香恋 ああ……

ひなた これからどうするかってもう決まってる?

黎 そっこなんだよ…!テーマって何?主題って何!あ~伝えたいことはあるのに言語化がままならない!

香恋 うわっ、こんなにクールじゃないれいちゃんはじめて見た…

ひなた ふふん、古今東西創作活動は人間を狂わせるって決まっているのです

黎 なんでひなたちゃんが得意げなんだ…

ひなた 人間の本性が現れるとも言う!

香恋 本性?

ひなた 分身の前では自分を取り繕うことはできないってね!お粗末様!

香恋 は、はあ……

ひなた つまり何が言いたいかというとだね、発表会まで1週間!練習頑張ろうね♡ってことですロミオ様♡

香恋 んあ~~~やめてぇ~~~~~!!

ひなた ほらね?ぬぐい切れない本性が出てしまうのです

黎 はは、もう馬鹿なことばっかやってないで練習練習。僕はもうちょっと考えてみるよ

ひなた じゃあインスピレーションのために私たちの演技見てて!とりあえず昨日詰まったシーンを一通りやるから、あとで指摘ください

黎 了解

香恋 ふぅ…オッケーです

ひなた じゃあいきます!……よーい、パンッ!(手をたたく)

◆黎、ひなたたちを眺める

香恋  …やっと会えたね、ジュリエット。二人はいつまでも一緒だと誓ったのに……。願わくばもう一度僕の名前を呼んでくれ。ああ、どうしてこんなにもうまくいかないのだろう。なぜ争いは止まないのか!

◆先生がドアをノック

先生 いまちょっといいですか?

ひなた 先生だ!…はい!

◆先生入室

先生 はい、全員揃ってますね、はいはい。今日は何を?

ひなた 発表会の練習です。……発表会についてですか?

先生 ……薄々察していたかもしれませんが、え~来週の発表会は、中止、という判断が今朝、高演協の県事務局から届きました。大変残念ですが、このような状況ですので、致し方無い判断かと思います。

ひなた はい

先生 発表会はなくなりましたが、次は地区大会があるので、え~、そこを目標にね、練習を続けていきましょう

ひ 香 黎 はい

先生 話は以上です。え~本当にね、残念ですが、あ~頑張っていきましょう

ひなた はい、ありがとうございました

先生 はいはい、それでは

ひ 香 黎 ありがとうございました

◆先生退室 全員黙り込む

香恋 ……あ~あ、無くなちゃったね

ひ 黎 ……

香恋 わかってたけど、なんか、なんかな~。無気力感

黎 っ……

香恋 みんな、何かしゃべろうよ、どうしたの黙って

ひなた ……っあ~~!しっかたないね!うんうん、地区大に向けてがんばろ~!お~!!

香恋 …お~

黎 ……

ひなた れーい!地区大の台本、任せてもいい?

黎 ……うん

ひなた あ~ぽっかりスケジュールが開いちゃったね!といっても遊びには行けないし、練習しないと

香恋 …………あのさ!ひなちゃん

ひなた ん?

香恋 発表会が終わったら言おうと思ってたことがあるんだけど。……その、お母さんにね、「部活ばっかしてないで勉強しなさい」って言われちゃった

それで塾にも行くことになって

ひなた え…?

香恋 演劇よりも将来役に立つこと……って。先生にも「そろそろ志望校決めないと時間切れだぞ」みたいに言われたし

ひなた ……

香恋 ……ほんっとにごめん!でも、今までみたいな頻度では来れなさそう

黎 ……僕たち、もう高校二年生だからそういうことも考えないとね

香恋 れいちゃんは大学決めた?

黎 うん、姉が行ってるとこが一応第一志望。姉の話聞いていいなと思って、オーキャンの雰囲気よかったから

香恋 そっかぁ……。わたしは絞ってるんだけど最終的に迷ってるというか

……って塾の時間!ごめん私行くね。

…………大会頑張ろうね…

ひなた    ……うん、またね!

黎    お疲れさま

◆香恋、退室  ひなた・黎、黙り込む

ひなた …少しだけ期待してたんだ

黎 ……うん

ひなた …ロミオも帰ったし、どうしよっか。台本する?帰る?

黎 …ひなた、演技が下手だね

ひなた えぇ~?私演劇部のエースだよ?

黎 …台本のテーマ、「私たち」にする

ひなた 私たち?

黎 「私たちが前を向くことができる」話。じゃあお疲れ様。家で台本練る

ひなた う、うん…お疲れ様…!

◆黎、退室

◆ひなた、一人で黙り込む 台本を取り出す

●FO

ひなた おはようロミオ。今唇が暖かかったのはあなたのせいでしょう?あら、なんでこんなに暗いのかしら。暗くてよく見えないわ…今躓いたのは……。嫌!嫌よ、ああロミオ、ロミオ!

○中央凸明転

ひなた せっかくうまくいったのに、置いていっちゃ、いやよ。さよならもなしに行かないで。私、心細いのを我慢して、あなたと生きるために薬まで飲んだのよ。目が覚めたら幸せが待っていることを信じて。それなのに、どうして……なんで、なんで……。私たちは何か悪いことをしたかしら。このような世の中でなければ、私たちはきっと手を取り合って踊れたのに……

……。

◆ひなた立ち上がる

あ~~~~~!!!

私!!演劇がやりたあ~~~~~~いッ!!!!!!!

…なんでかなぁ。なんで私たち、やりたいことができないんだろう。なんで努力しても報われないんだろう。なんでかなあ。私たち何か悪いことでもした?

ロミオが愛してくれないとキャピュレットの名前が捨てられない!

…………。

…わたし、ぶたいにたちたい……

 

◆ひなた、立ちすくむ

◐ 凸→ホリ(青) CC

●FO

 

 

5場面

◆黎、教室で台本 ひなた、そこに入室

ひなた ただいま~…ってまだ香恋きてないんだ

黎 お疲れ。うん、今週は一回も来てない、かな

ひなた ……このままじゃ、大会で勝ち進めない。それどころか舞台を完成させることもままならないよ

黎 …僕の台本も……ごめんね遅れて。何とか今週中に仕上げたいんだけど

ひなた どこに詰まってるの?

黎 うん……一番重要なところなんだけど、この話をどうやって先につなげていくのか、かな

ひなた えっと、「私たちが前を向くことができる」話、だっけ?

黎 でも、書けないんだ。この子達が前を向くシーンが。だって僕が前を向けないのに書けるわけないんだよ…!

ひなた 黎……

黎 前を向け~次は大会だ~って言われてもさ、後ろに残したものや強制的に手のひらからこぼされていったものが多すぎて、前なんて見れないんだよ

ひなた そうは言っても発表会は中止になって、次に来るのは大会。それは変わらないじゃん

黎 知ってるよ。でも…僕は、そんなに強くはなれない、かな

ひなた 強いとか弱いとか、大事?前を向いてても後ろを向いててもどっちでもいいよ、一緒に演劇やってくれるなら

黎 ひなたちゃん…?

ひなた なんでもいいんだぁ、ただ、私はできるだけ長く舞台に立っていたいだけ。どっちを向こうが演じることはできる。演じていれば観客のほうを向くことができる。違う?

黎 ……前を向いてても、後ろを向いてても…か。

…………みんながみんな、ひなたと同じじゃない。誰でもひなたと同じだけ演劇が好きだと思わないほうがいいんじゃないかな

ひなた でも!黎は好きでしょ、演じること

黎 嫌いだよ

ひなた 嘘

黎 ずっと「王子様」を演じてきた。なりたくもなかったのに

ひなた でも昔は好きだったから、求められるままに王子様になったんでしょ?

黎 ……

ひなた ううん、今も本当は好きなんじゃないの?

黎 ……さあね、本当に自分でもわからないんだよ

ひなた まあそんなことはどうでもいいんだ!いやよくないけど!!そう、黎も舞台に立って!

黎 馬鹿なこと言わないで。僕はあくまで脚本としてここにいるんだから。勘違いしてほしくない。

ひなた でも台本、進まないんでしょ?「私たち」をモチーフにしたその台本

黎 …

ひなた 私と香恋じゃ足りないからだよ。黎、黎がそろって初めて「私たち」じゃないの?

黎 僕……?

ひなた 「私たち」には黎が必要だよ

黎 そ……

ひなた …これで台本、書けそう?

黎 うん、やってみようかな

ひなた いえ~い!

◆香恋、入室

香恋 おはよう。ごめんね、遅くなりました

ひなた あのさ、香恋

香恋 最近塾が忙しくてね…。あ!そうだ聞いてほしいんだけど、塾にかっこいい子がいてね~それで……

ひなた 香恋!

香恋 …なに?

ひなた 大会まであと1か月しかないのわかってる?それなのに全然部活に来てくれない。

香恋 それは塾が……

ひなた 知ってるよ!塾が忙しいことも、私たちが高校二年生なことも、香恋が演劇よりも恋愛に興味があるのもさ!でも私たち演劇部じゃん。舞台に立ちたくないの?

香恋 立ちたいよ、そりゃ。でも、上達できるかわからないのに…がんばってまで、他の何かを削ってまで、やりたいとは思えない。ごめんだけど。

ひなた っ…!

香恋 夏休み前にも言ったけど、私、演劇が一番じゃない。それに、演劇から少し離れて思ったんだ。わたしなんで演劇やってたのかな、本当にやりたかったのかな、って。

ひなた ……

香恋 れいちゃんは知らないだろうけど、わたしもひなちゃんに勧誘されてはいったんだよ。演劇なんて興味もなかったけど、クラスで話せるのもひなちゃんしかいなくって、ゲキブに入らないと一人になっちゃうから入っただけ。でも案外楽しくて。いいなって思ってたんだ

ひなた じゃあ……

香恋 でも!全然うまくできなくて……それでも楽しかった。…けど両親の反対を押し切ってまで続ける熱量は私にはないよ

ひなた ……

香恋 大会で進むとかそんなことじゃなくて、のんびり楽しく活動で着たらそれでいいんじゃないの?勝たなきゃダメ?たかだか学校の部活動にそんなに全力を傾けなきゃダメなの?……わたし、にぎやかで楽しいここが好きだったよ。でも今のピリピリしたゲキブは好きじゃない

ひなた 楽しかったらそれでいいの?

香恋 そういってるじゃん。趣味は楽しむためにあるんじゃないの?

ひなた わかんないよ!!

香恋 え…?

ひなた 何言ってるのか全っ然、わかんない

香恋 ……

ひなた 演劇やりたいからここにいるんじゃないの?話がしたいだけならここにいる必要ないよ

黎 ちょっとひなた

ひなた 黎は!演劇したくないの?

黎 落ち着いて

ひなた 私は!

黎 ひなた!

ひなた ……ごめん、今日は帰るね。お疲れ様

◆ひなた、退室

香恋     ‥あはは、ごめんね、なんか。こんなふうに喧嘩っぽくなったの初め

てだなぁ。なんでだろ、こういう雰囲気になるのが一番イヤだったは

ずなのに……

全部がうまく行かないなぁ

黎      ……ままならない

香恋 ままならない、か。ほんとにね。うーん、なにもかもままならなくてやになっちゃう!あー…ごめんね、私もかーえろっと

黎      …香恋ちゃんはさ、演劇嫌い?

香恋     えっ?あー……嫌いではない、かな

黎      じゃあ好き?

香恋 好き…って言っていいのかな。楽しいし、もっと上手くなりたい!…けど、ひなちゃんみたいな熱量はないんだよね…

黎 好きなら「好き」で良いんじゃない?好意の大きさとか、好きになった長さとか関係なく、さ

香恋    そう、かな……。そうだといいな

黎     じゃあ、

香恋 ……でも、そんなに単純にはなれないな。お疲れ様

◆香恋、退室

◆黎、しばらく立ち尽くした後、机に向かって台本を書く

●暗転

 

 

◆香恋、ドアを開けて部室を眺め、出ていく

 

 

6場面

○明転

◆誰もいない部室にひなたが入室

ひなた おはようございます~……まだ誰もいないか……

◆黎入室

ひなた 黎!おはよ~

黎 おはよ

ひなた 台本どう?

黎 ……んん……これ、進捗

ひなた おお…!完成?

黎 ん、ここ

ひなた これ……一番最初だけ真っ白

黎 ああ……あとそこだけなんだよ。残り数ページが埋まらなくて…

ひなた なんで最初だけ空白なの?

黎 はじめよければすべてよし!っていうじゃん?……言わないけど…

ひなた あぁ~確かに

黎 …!?

ひなた ラストシーンとおんなじぐらい重要かも……。じっくり考えないとね!

黎 って悠長なこと言ってる場合?僕が言えたことじゃないけど、大会

まであと?

ひなた うっ……一ヶ月です

黎 …とりあえず今進んでるところまで練習していてほしいな

ひなた うん……あ、結局恋愛ものはやめたんだ

黎 あ~、うん、まあね

ひなた ふ~ん、で部活ものねぇ…

黎 意外?

ひなた 意外ではない!…かなぁ

黎 何それ

ひなた ふふ、なんだろうね

黎 ………挑戦かな、僕の

ひなた 挑戦

黎 うん。……って僕の話はいいから

ひなた はいはい

◆ひなた、台本を読む 黎、それを眺める

ひなた なるほどね……

黎 …………

ひなた どっきどきした……!

黎 へ…?

ひなた どっきどきして、ど~~きどきして、どっきどっきして………!

……けど……これって…どういう話…?

黎 ……わかってなかったんだ

ひなた えへ…ここはこういう演出がいいな~とかはあるんだけどね、こう見えても理系なので!

黎 それほんと意外だよね

ひなた よく言われる!

黎 ざっくり話すと「写真部」の話

写真部のエース、伊澄と落ちこぼれ部員の落合、それからひょんなことから入部することになった水無瀬の3人を主軸に話は展開します

○照明変わる

◆ひなた、黎、香恋がそれぞれ劇中劇の登場人物に扮して以下進行する

 (ひなた→伊澄 黎→水無瀬 香恋→落合)

香恋 落合 伊澄さん!今日こそモンタージュについて教えてください!

伊澄 何度も言っているでしょう?そんなに暇じゃないの。そうこうしている間にもう日の入りまであと20分になっちゃったじゃない。私はロケハンに行ってくるから

落合 待ってください~~

黎 そこに、僕が演じる新入部員「水無瀬」がやってきます

水無瀬 お~ここが写真部っすね?

落合 え、っと?お客様でしょうか?

水無瀬 お客様?や~だなあ、他人行儀じゃないっすか。俺、さっき入部届出してきたんで、今日から写真部の仲間っすよ♪

落合 え、え~~~!?

黎 そうして水無瀬を迎え入れた写真部のドタバタな日常が始まっていくのであった……

◆役者元の位置に戻る

●照明戻す

黎 ……という流れ

ひなた うんうん、それでなんで「写真部」なの?

黎 …写真ってさ、すごいなぁって思ったから、かな

ひなた すごい……?

黎 うん……写真は突き詰めれば奥が深い芸術…なんだけど、入り口は何の気なしに撮った一枚なんじゃないかな、って。ううん……特別な瞬間を切り取ることができて、しかも手軽なのが、なんというか、「いい」って感じ、が、すごい!

ひなた うん…なんかわかるかも。スマホとかで毎日写真って撮るもんね。たしかに!素敵!じゃあ素敵ついでにいっちま~い、はいっち~ずっ!

えへへ、これで一枚思い出が増えたね~

黎 …ひなたそういうこと平気で言うよね

ひなた そういうこと?

黎 なんでもないよ

ひなた でも、そっか~~。写真一枚思い出一枚。うんうん、じゃあこうするのはどうだろう!

黎 ん?

◆以下のひなたのセリフに合わせて、♪音響(シャッター音)・照明(中央凸)

ひなた シャッター音とともに緞帳が開く。各自写真を撮る三人。それぞれに凸の光が当たってる。それでセリフが始まる。

「何のために写真を撮るのか!」

ってね

◆演出元に戻る

ひなた どう?

黎 すごい…

ひなた ?

黎 …演劇ってすごい、ほんとに。ああ、言葉にできない。言葉ってなんて不便なんだろう。すごい、すごいなあ……

ひなた れいちゃ~ん……?

黎 あ~~~……演劇、面白いね

ひなた …!うん!

黎 演劇、難しい

ひなた うん

黎 やだな~なんで演劇部入ったのかな、って思ったよ。何回も。でも、やっぱり、だから、人は「演劇」に惹かれるのかなぁ……

ひなた ……

黎 ……ひなた、僕、大会に行きたいよ

ひなた うん

黎 今なら最初のページが埋まりそうだ。この感情が消えてなくなる前に文字に起こさないと!帰ろう、ひなた

ひなた うん……ふふ

黎 何がおかしいの?

ひなた ふふ……ごめんね、なにもおかしくないよ。ただおかしくなっただけ

黎 …日本語が大丈夫じゃないな。窓閉めた?

ひなた 閉めた

黎 鍵持った?

ひなた 持った

黎 鍵じゃんけん。最初はグー、じゃんけん……

●暗転

 

7場面

○明転

◆香恋が一人部室にいる 教科書を広げて勉強している

香恋 ……

◆集中できずに教科書を閉じ、ロミジュリの台本を取り出す

香恋 ……お言葉道理に頂戴いたしましょう。ただ一言、僕を恋人と呼んでください。 さすれば生まれ変わり、今日からはもうロミオではなくなります……

◆ひなた、黎会話しながら入室

ひなた おはよー!って香恋…!?あっ……おはよう

香恋 …おはよう

ひなた あはは、なんか久しぶりだね

香恋 ……

ひなた ……あっ!それ(台本)

香恋 …………塾が休講になったからこっちに来て勉強してたんだけど、集中できなくて。…未練がましいね

ひなた そ、そんなことないよ!私もよく昔の台本読むの!…特に、上演できなかった作品は……。『大泥棒の子供』『ファウスト』『銀曜日の絵本』『ロミオとジュ……

香恋 『ロミオとジュリエット』。……この前は、ごめん

ひなた 私のほうこそ、ごめんね。……前ね、黎に言われたんだ。「みんながみんな、ひなたと同じじゃない。全員がひなたと同じだけ演劇が好きだって思わないほうがいい」って。

香恋 ……

ひなた ごめん……

香恋 ……「好きなら「好き」で良いんじゃない?好意の大きさとか、好きになった長さとか関係ない」。…私もれいちゃんに言われたの。ハッとした。

私は演劇のために勉強や何かを捨てることはできない。好きの大きさじゃ、ひなちゃんにかなわない。技術もない。……でも、演劇続けていいのかな……

ひなた ……

香恋 演劇部に来なくなって、最初は清々したの。やった、自由だ~!って。…でも、気づいたらロミジュリの台本、手に取ってた。塾の授業中に考えてた。上演できなかった公演のこと。

ひなた うん…

香恋 今更名に勝手なことを言ってるんだ、って言われても仕方がないけど。でも、私、もう一度だけ演劇やりたい…!残り一か月、全力で!お願いします!!

ひなた ……うん…うん………やろう、演劇…一緒に演劇しよう…!

香恋 ひなちゃん…!ありがとう私のジュリエット!!

ひなた きゃ~~おかえりロミオ様!!

◆黎入室、飛び込んでくる

黎 台本できた!完成版!!

◆ひなたと香恋を見て困惑する黎

黎 ……

◆黎そっとドアを閉め、退室

ひなた ちょっとちょっとちょっと!!まって~れ~~い!!!

香恋 れいちゃ~ん!帰ってきて~~!

◆黎入室

黎 いや、取り込み中かと

ひなた も~~~!

香恋 これなんてデジャヴ?

ひなた ふふ…ははっ!さあさあ黎!さっきビックニュースが聞こえてきたけど?

黎 そうだ!これ

香恋 わ!新しい台本だ~!!

ひなた れ~~~い!!ありがとう!!おめでとう!!お疲れ!!!

香恋 ありがとう!お疲れ様

黎 お礼はいいから。早く読んでみてよ

◆ひなた、香恋台本を読む

ひなた …最高~!最初こうしたんだ。いいね!あ~早く観客に見てほしい~~~

香恋 ほんとだ、一番最初のシーンが追加されてるね

黎 あれ、この台本、香恋に渡してたっけ?

香恋 …実は顧問の先生にもらってたんだ。なかなか部活に顔出せなかったけど、あの先生、私の英語の担当の先生でもあるから。授業の時に新しい台本が出たら渡してもらってたの。本当にお世話になっちゃった

黎 そうだったんだ…

香恋 れいちゃん、この前はごめん。私やっぱり演劇やりたい

黎 うん

香恋 塾のコマを遅い時間にずらしたり、放課後にやってた課題を学校の休み時間にするようにしたら今までより部活に来れそうなんだ。迷惑かけると思うし、身勝手だってこともわかってる。

黎 ………ありきたりな表現をすれば、出口の見えないトンネルを毎日毎日歩いている…って感じ。自分がどっちを向いているかもわからない。けどさ、前を向いてても後ろを向いててもいい。暗闇ならなおさらどっちでも一緒だよね。大事なのはどっちを向いているかじゃない。訳が分からない中でも歩き続けることだ……って僕も最近気がついたから偉そうには言えないけど。いいんじゃない?香恋は香恋なりの全力で演劇をすれば。

香恋 れいちゃん……不束者ですがよろしくお願いします!!

黎 ……嫁入りにでも来たのかな?…まあ冗談は置いといて、こちらこそ一緒に残り一か月…もないけど、頑張ろうね

香恋 れいちゃん……!(握手を求める)

黎 そういうときは……(肘を差し出す)

ひなた はーい長話はそこまでにしよ!さ、練習するよ~柔軟筋トレ発声練習!大会は待ってはくれないよ~!

◆三人凸のバミ位置へわちゃわちゃしながら行く

♪BGM

●暗転

 

8場面

◆下手から香恋、ひなた、黎の順で凸下のバミテに立つ

 香恋→発声練習

 ひなた→台本読み

 黎→演出を考える

◆凸の演出の間、親衛隊は舞台装置を動かし、HBを写真部仕様に

○一番下手凸明転

香恋 あっえっいっうっえっおっあっおっ(スタッカート)

●暗転

○真ん中凸明転

ひなた伊澄 「私は写真が好きよ。二度とは戻らない一瞬を閉じ込めておける。…魔法みたいじゃない?」

●暗転

○一番上手凸明転

黎 …だからこのシーンの照明はカラフィルを入れて……いや、ホリの色だけで表現しようか……そうするとインパクトが………んん……

ひなた、香恋ちゃん、ちょっといい?

○明転

♪BGMボリュームUP

◆わちゃわちゃ練習する

◆途中で親衛隊や妹が入ってきて手伝う 先生が顔をのぞかせる

黎 このシーンのカラフィルなんだけど、どれがいいと思う?

ひなた・香恋 せ~~のっ、これ!

黎 了解。ロクヨンね…

親衛隊③妹 ひなたさん!これ小道具です!

ひなた ありがとう!

親衛隊① 舞台装置、完了いたしました!!

黎 ああ、君たち、ありがとう

親衛隊①②③ ぐはっ

◆親衛隊倒れる

黎 本番も照明・音響よろしくね

ひなた えっ?

香恋 それだけ?もっとこうねぎらいの言葉~みたいな

◆意に介さない黎

ひなた あ~、ありがとうね!

親衛隊① ハッ!失礼いたします!!

親衛隊②③ 失礼いたします

◆順番に敬礼

ひなた 香恋~これカメラね!

香恋 ありがとう

◆モブ勢退室したらそのまま凸のバミリに立つ

♪BGM FO

 

 

9場面(削除済)

9場面は旧→新になる過程で削除いたしました。

 

10場面

◆「写真部」の配置に立つ(下手から香恋、ひなた、黎)

○ホリ明転

香恋 やば…すごい緊張してきた……

黎 さすがに僕もドキドキするかな

ひなた 大丈夫―!何回も練習してきたじゃん。大女優の私が太鼓判を押すんだから大丈夫だよ!

香恋 ああ!うまくできるかわからないけど、もう後戻りできないもんね、やろう!

黎 ……こんな時になんだけどさ、香恋、帰ってきてくれてありがとう。

香恋 ……れいちゃん……。こちらこそ、ゲキブに黎明をもたらしてくれて、ありがとう

黎 ひなた、僕を演劇部に誘ってくれて本当にありがとう

ひなた ちょっと!本番前にそんなこと言わないで~化粧崩れちゃう!

黎 あはは、それは大変だ。そうだね、今は観客のほうを向いて、僕たちの全力をぶつけよう

ひなた 泣いても笑ってもこれが私たちの青春の最後の舞台だよ。大会終わったらいっぱい泣こう、いっぱい笑おう!ただ舞台に立てることがそれだけ幸せか、一番身に染みてる、私たちにしかできない演劇をしよう!「等身大の私たち」を全世界に見せびらかそう!!

♪ブザー

アナウンス 次は、途次(とじ)高校演劇部によります、如月黎作、「等身大の私たち」を上演いたします。

○凸明転

◆伊澄、写真を撮る

♪ニュースの音

◆伊澄、撮るのをやめる

♪蝉の声→シャッター音

伊澄 何のために写真を撮るのか!

落合 今を未来に伝えるため!

水無瀬 楽しいから

伊澄 ままならないこの想いをぶつけるために。

……夏が来る。写真を撮る。今日も写真を撮る。令和二年、令和三年。

失われた夏を私たちは絶対にわすれない

◆伊澄、写真を撮る

○明転

◆緞帳が下りる

 

(以下の科白は閉幕する中で動くために一応つけているもので、観客に見せないといけないいわけではない。幕が完全に落ちたら途中でセリフを切り上げる)  

落合 あっ、伊澄さ~ん!今日こそ、露出補正について教えてください!

伊澄 …そのぐらい自分で調べたらどう?

水無瀬 まあまあそれぐらいいいじゃないっすか

伊澄 ちょっとあなたね…

落合 あっ、伊澄さん、今日の日の入り時刻近づいてますよ!

水無瀬 あ~今日もロケハンっすか?飽きないなぁ

伊澄 無駄口たたいてないで行くわよ

水無瀬 はぁい



拙い文章でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます。
これが高2の夏に書いた、最初で最後の台本です。
黒歴史まっしぐらな作品ですが、「見返したときに黒歴史だと思うぐらい、青臭い台本を書きたい!」と思いながら書いたので、本懐は遂げたのかもしれません。
質問やご感想等、お待ちしております。ありがとうございました!

↓作者の高校演劇用アカウント


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