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32年フランス料理を作ってきた私が、スープを作り続ける理由(2)
この文章がどれだけ続くかはわからないですが、(1)を読んでくださった方には感謝しています。
続きを書いていきます。お付き合い下さい🙇♀️
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先生は、黙ったままプローブを使い、モニターのキーを押す音と印刷して紙が出る音だけが聞こえる。私は下を向いたまま。不安な時間だけが経っていく。
先生が、立ち上がり、少しこのままの状態で待っていてほしいと言われ、むき出しになった背中にタオルケットをかけて下さりその場を離れる。うつ伏せになったまま、静けさの中で一人。
時が止まってしまったように、何の音もしない沈黙。何かあるのかばかり考えてしまう。
その時、階段から降りてくるスリッパの音が・・・。
2人?
入ってくると男性の声がした。
『これ見てくれる?』
私の顔は、うつ伏せで待っていたけど、首が疲れて、右に向いていたので、左にいる先生方を見たいけど、わざとらしいのでそのままにしていた。
『私は、エコーは専門じゃないから、旦那を呼んできたの。もう少し診させてくださいね。』
『・・・・・・。はい。』
『ここの部分なの・・・』
『うん』
私は2人の会話を聞いていて、心臓の鼓動が早くなっていることが、うつ伏せの状態でも感じた。
ドクドク・・・と鼓動が伝わる。
『いつも使っているものと違うから、見えにくいな。もうこれ買い換えないとな・・。』
え!
今、その話題いる?
見えにくい?
2人が話している内容をただうつ伏せのまま聞いてるだけの私。
『もう少し診させて下さいね。冷たいですけど・・。』とプローブの滑りが悪くなったのか、冷たいゼリーが、背中の上に広げられる。再び、プローブが、動き出す。
『息を吸って下さい。・・・はい、そこで止めて・・。』何度かこれを繰り返す。ジージーとプリントされた写真が出てくる音がする。
何かあるのか・・・。
気になる。
このようなことばかり考えている間にプリントをビリッと切る音が聞こえる。無言で、背中を拭いてくださいました。
あー。終わったー。
『服を直したら、診察室にきて下さい。』
『はい。』
うつ伏せから解放され、終わったことで少し安心した。
終わった!
お腹も空いてきたし、早く家に帰ろうと思った。
私が、診察室に戻ったときは、2人は既に話が終わったようでした。
いつも奥様が座っておられる椅子には、旦那様が座り、奥様が、横に立っておられる。
どこか違う病院に来たような感じがした。
シーンとした診察室。昔からある昭和っていう感じの古めかしい診察室。
最新の設備はなく、昔のドラマに出てきそうな感じのものばかり。
外は、暗くなっていた。
今何時なんだろう。
患者も私だけのようである。看護婦さんも受付の時はおられたが、既に帰られているようであった。
ここにいるのは、先生2人と私だけ。
そこで先生から『熱以外に今までに自覚症状はなかったですか?』
自覚症状??
『仕事していた時に、少し熱っぽいなと思ったくらいです。疲れているのかなと思っていました。』
自覚症状・・・。どういうこと?
2人は、椅子に座った旦那様と奥様で私には聞こえないくらいのトーンで話していた。
何?
『出張に行く前は、何にもなかったですか?』
『・・・・はい。』
正直、覚えていなかった。打ち合わせや出張準備で立ち止まっている時間がなかった。
旦那様が、椅子を座り直し、私の方に椅子ごと近づいてくる。
『今から、お伝えすることが確定ではないですが、おそらく私たちが診た結果ですが・・・・・・・。』
話が耳に入らない。鼓動が両耳に伝わってくる。
『はい。』
『遅い時間ですが、今から別の病院に行ってもらうように連絡しますので、ここで待っていて下さい。』
え!・・・どうなるの?
家に帰れない・・・?
家族に連絡したいんだけど。
おそらく今の時間だったら、晩御飯を家族で食べている時間。食べないで待っているだろうなと考えていた。
先生が、奥の受付で連絡している。そのやりとりをしている時間が、すごく長く感じた。
旦那様が、白黒の写真をじっと見ている。
『私は何の病気なのですか?』と聞いた。
奥様が、連絡を終えるまで、返事はなかった。
帰ってこられて、再び聞いてみた。その答えに目の前が真っ暗になった。
『かなり大きくなっている動脈瘤です。』
『すぐに手術しなければ手遅れになります。ただ・・・』
ただ・・・って?
『このような形を見たことがないのです。一刻も早く、専門医に見てもらう方がいいと思います。』
名前は聞いたことがあるけど、どんなものかはわかっていなかった。
でも、先生方の顔を見ていると普通じゃないことは雰囲気でわかった。
その日を境に、私の激動の日々が始まるのです。(つづく)
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