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競走馬の心拍数データから無観客競馬の影響を読み解く


どうも、とうけいばです。

先日のコラムは非常に多くの方に読んでいただき、ありがとうございます。



予想ではなく“コラム”の有料記事など読んでもらえるのかな?と、不安でしたが、数えきれないほど多くの方にみていただき感激いたしました。

皆様の知見がまた一つ増えましたら幸いです。


さて、上記記事の「仮説1」では「無観客競馬では能力を発揮しやすい」ということをお話しました。

特に気性の荒い馬などは無観客競馬において力を発揮できる可能性が高くなることが推察されます。

しかしながら、根拠としてはいささか不十分・・・ということで、競走馬の心拍数データから考察できないかと思い記事を書きました

無料ですので、お時間あるときにでも読んでみてください。

※一部データは“JRA競走馬総合研究所”から許可を得てデータを掲載しています。また本記事はとうけいば個人の考察であり、引用元とは無関係です。


1、競走馬の心拍数


心拍数とは心臓が1分間に血液を送り出した回数のことを言います。

馬は安静時は約30~40回/minであり、同体重の動物と比べると比較的ゆっくりです。

競走馬の心拍数に関する研究は1960年頃から栄えはじめ、今ではハートレイトモニターエクイパイロット(心拍とスピードを測定する機械)が普及し、ゼッケンに埋め込むことで測定しています。

人間と同じく、馬も運動すると心拍数が上昇します。運動強度(走行スピード)と心拍数、そして血中酸素濃度に関する研究はかなり盛んに行われており、気になる人は文献を調べてみてください。競走馬にかかわる多くの研究があることがわかると思います。


☆ポイント

・馬も運動すると心拍数があがる!


2、パドックでの心拍数変化 〜観客の影響〜

本当はレース中の心拍数に関する研究結果も紹介したいのですが、今回の趣旨とは外れるので割愛します。ここで紹介するのは「レースまでの心拍数変化」です。

ゴダゴダ言う前にデータからお見せしましょう。

以下は『競馬学校生徒の模擬レースにおけるパドック周回時の心拍数変化』です。

キャプチャ1


(引用元:「ぱどっく」2010年1月1日号 第13回サラブレッドのスポーツ科学)


見てわかる通り、パドック周回中は安定した心拍数ですが騎手が騎乗するとグイっと上昇します。

「騎手が乗って気合いが入った」とのコメントをよく聞きますが、それは心拍数にも表れていますね。

ただし、次項で説明しますがこれは決してヤル気が入ったわけではありません。レースに走らなければいけないという「緊張※」の表れです。(※自律神経の興奮)

また、このデータで大事なことは「競馬学校生徒の模擬レース」ということです。すなわち、無観客競馬でのデータになります。

では、観客がいるとどうなるのでしょう?

次のデータをお見せします。

以下のデータは「ジョッキーマスターズ」における心拍数のデータです。

キャプチャ2

 (引用元:「ぱどっく」2010年1月1日号 第13回サラブレッドのスポーツ科学)  

一目瞭然ですね。パドック周回中から心拍数が乱れています。また、ジョッキー紹介に伴う拍手や歓声により心拍数の上昇がみられました。

馬は敏感な動物です。音やヒトに反応し、心拍の上昇とともに緊張していることがわかります。パドックに行くと「大きな声を出さないでください」と注意されるのは、科学的にも当然であることがわかります。

☆ポイント

・馬は敏感な生き物!

・無観客では心拍の大きな変動はないが、観客がいると大きく上昇する。

・心拍の上昇は緊張を表している。


3、心拍の上昇と競走能力

心拍の上昇は「緊張」であると学びました。また、観客がいるパドックでは心拍数が上昇することがわかりました。では、なぜ競走馬は「緊張」するのでしょうか。

その前に馬にとっての“走る”とは何か確認しておきます。


→3-1 馬にとって走るとは

草食動物にとって「走る」ことは「恐怖」であり、危険から逃れる手段です。犬のような肉食動物は走る前にイレこむ様子がありますが、草食動物と一緒にしてはいけません。そのため、競走馬がレース前になると心拍数が上がるのは、全力で走らなければいけない「恐怖」を表しているといえるでしょう。

よく「馬が走りたがっている」という言葉を耳にしますが、これは人間にとって都合のいい解釈の一つです。馬は走らないこと≒報酬であるが故に、レース前に悪さをすることがあります。

例えば、ゲートに入ると悪さをするブチコなんかは有名ですね。悪さをすれば走らなくていいことは、馬にとって報酬です。そのため何度も繰り返し悪さをします。

また、競走馬の大半は胃潰瘍になっている、といった疫学的なデータからも容易に想像できるでしょう。

パドックでイレ込んだり、騎手が騎乗するとテンションが高くなる馬がいますね。あれもまさしく心拍の上昇≒緊張であり、嫌がってるようなものです。

・・・と、こう言うとあたかも悪い事のようなので補足しますが、競走馬は生まれた時から走ることを目的に馴化、調教されています。そのため走ることは「お仕事だ~いやだな~」くらいにしか思ってないかもしれません。本当のことは馬に直接聞いてみてください。笑

 (参考文献: 優駿2011年3, 4月号 馬学講座)    

☆ポイント

・馬にとって走ることはイヤ!

・レース前の心拍上昇≒イレこみ≒緊張、恐怖


→3-2 落ち着いている馬のほうが成績が良い?

ここまで学んだことを簡単にまとめると「観客の声は馬にとって恐怖であり、心拍数が上昇しイレこみやすくなる」ということです。

では、イレこんでいる落ち着きのない馬は、そもそも能力を発揮できないのでしょうか?

詳細なデータは省きますが、競走馬中央研究所の研究に「馬の落ち着きと競走能力」についてのものがありました。以下はその結果です。

“落ち着いている馬”は“落ち着いていない馬”に比べて先着する傾向が見られた。

有意差はなかったが、落ち着いている馬のほうが先着する傾向はあったとのこと。時代背景や血統によるブレはあるだろうが、落ち着きがないよりは落ち着いているほうが良いというのは感覚的にも言えますね。

(参考文献: 優駿2011年4月号 馬学講座)


☆ポイント

・落ち着いている馬のほうが能力を発揮しやすい。

4、考察(まとめ)

以上の結果をまとめます。

・無観客でのパドック周回は心拍に大きな影響を与えない。しかし、観客がいると声や動きに反応し、心拍数が上昇する。

・心拍数の上昇は緊張の表れ。レースに出たくない思いからイレこみやすくなる。

・落ち着きのない馬は成績が落ちる傾向にある。

ということです。

まぁつまり、無観客競馬になることで気性の悪い馬も能力を発揮しやすくなるんじゃないか?という、大方の予想は科学的にみても正しいでしょう、ってことがわかりました。

☆ポイント

・心拍数データからも、無観客競馬は能力を発揮しやすい環境であるといえそう!

・無観客競馬で人気馬の好走は目立ったのは、客がいない環境により各馬が能力を発揮できたことによる?


5、おまけ:「疑問」をもつこと

長文となりましたが、読んでいただきありがとうございます。いかがだったでしょう?学術的な記事で慣れない表現も多かったと思いますが、わかりやすく伝えたつもりです。もし、疑問等ありましたらDMお待ちしています。

さて、先日だしたコラム「無観客競馬において、いつもより人気馬が好走した理由」ですが、様々な反応がありました。

賛同する意見、批判的な意見、もっと解析しろという意見・・・。

確かに、よりデータを解析すれば真実に近い解析ができると思います。

もしかしたら人気馬が好走したのは「たまたま」だったかもしれません。

ですが、努力して解析した先に待ち受ける未来は「たった2日間だけのサンプルによる不確実性」です。

自分がここで伝えたいことは、何事にもまず「疑問」をもつことの大切さです。もちろん、無観客競馬だからといって何も変化はないかもしれません。ですが、私は環境の変化はチャンスだと思ってます。

そして私は「人気馬勝ちすぎではないか?」という疑問の答えを、与えられたデータの中から探し出そうとしました。

そして導きだした答えが先日のコラムです。

この答え(仮説)を知っているか知らないかで、来週の競馬の見方は大きく変化することと思います。たとえ間違っていても、また新しい仮説が思いつくはずです。その繰り返しだと思っています。


データが教えてくれるのは「過去」であり、競馬は「未来」の予想です。

そして本当の真実に先にたどり着いたものが、馬券という形で報酬を与えてもらえるのではないでしょうか。



とうけいば

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