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ヘテロの友達にがっかりした時の話

初めての彼氏と付き合い始めた時のこと。

彼女は私の彼氏と同じ部活に所属していて、それなりに仲が良いみたいだった。授業で隣の席に座った時、彼女から唐突に話を振られる。

「○○のTwitter見たんだけど、あれってあるこちゃん?」

当時、私達が付き合い出した報告として、彼氏が自分のTwitterアカウントに手だけ映したツーショットを載せていた。名前は伏せていたのだけれど、うっかりスマホのカバーが映り込んでいて、彼女はそれで私だと特定できたらしい。

「うん」

「やっぱりそうなんだ。おめでとう」

お礼を言いつつ、どうしようもない違和感に襲われる。何がおめでとうなんだろう。私はなんでこんな話をこの子としているんだろう。その時の私は既に自分の恋愛感情に疑問を持っていて、彼と付き合うことに後ろめたさを感じていた。

「○○優しいし、あるこちゃんとお似合いだと思うよ」

「ありがとう」

どこら辺を見てそう思ったの?

刺々しい言葉を出さないように笑う。彼と付き合う資格が私にあるとでも言うのだろうか。卑屈な私はそれだけで惨めな気持ちになって、早く授業のチャイムが鳴らないかと思っていた。

「それで、どこまで行った?」

その瞬間、私の中で彼女の印象がガラリと変わった。私とは住んでいる世界が違うけど、もっと話しやすくて、親しみやすい人だと思っていた。けれど、やはり彼女もそうなのだ。分かり合えない。強く実感した。

「そりゃ、もう高校生だし、流石にキスぐらいはしたよ……」

確か、そんなようなことを言ったはずだ。教室の中はしんと静まり返っていて、私達の話を皆が聞いているみたいでいたたまれなかった。何より、そんな場所でこんな話をしてくる彼女にがっかりした。

きっと、彼女にとってはそれが「普通」なのだ。友達と恋バナをするのも、進捗を根掘り葉掘り訊くのも、当たり前のことなのだ。それがヘテロにとっての普通なのか、彼女にとってだけなのかは分からなかったけれど、私はもうその場から逃げ出したくなっていた。

私に恋愛をする資格なんて無い。付き合ってから好きになるなんて幻想だった。告白を受けてしまったことを、私は酷く後悔した。

その出来事が影響したのか、また別の理由なのかは分からなかったけれど、彼女とはそれ以来何となく疎遠になった。私はあの出来事を除けば、彼女のことを良い人だと思っていたから、少し残念だった。でもそれ以上に、もう話を聞かれなくなってホッとしていた。そのまま卒業して、彼女と連絡を取ることはなくなったし、いつの間にかLINEのアカウントも消えていた。


昨日、夢の中に彼女が出てきた。ふらりと現れた彼女を家に泊めて、起きたらいなくなっていた、という内容だった。

夢の中の彼女は、いつの間にか私のパソコンを使って、私のアカウントで勝手に写真を投稿していた。猫の写真と、靴を履いた脚を映した写真。

『Hated』

猫の写真には、可愛いそれと相反するようなタイトルがつけられていた。青空の下、一匹でぽつりと座っているその猫は、彼女を表しているみたいだった。

靴の写真にはタイトルがなくて、下にメッセージが書かれていた。内容はもう忘れてしまったけれど「元気にやっているから心配しないでね、ありがとう、さようなら」みたいな内容だったと思う。モノクロの写真に映っているのは、どこか遠くの地にいる彼女なのだと思った。

どうしてそんな夢を見たのかはよく分からない。もしかしたら、あの時のことがずっと引っ掛かっていて、私は彼女に謝りたかったのかもしれない。彼女から認められたかったのかもしれない。恋愛が出来ない私を、恋愛が出来る彼女に「それでもいいんだよ」と許してほしかったのかもしれない。もし私に恋愛感情があったら、あの時の歪みは無かったのかもしれない。いろんな「かもしれない」が積み重なって、彼女は夢の中に現れたのだろう。

自由に生きる彼女に憧れていた。好きな格好をして、好きな物を好きだと言える彼女が格好良かった。私も彼女のようにありたかった。彼女から距離を置かれたのが、寂しくて悲しかった。自分で思っていたよりも、深層の自分はダメージを受けていたみたいだった。


実は、私は彼女のTwitterアカウントを知っている。もしかしすると彼女も、私のアカウントを知っているのかもしれない。けれど、フォローはせずにいる。たまに思い出したように覗いて、「良かった、今日も生きてるな」と安心する。それくらいの距離感がちょうど良かった。

よく考えてみれば、それは「推し」に対する感情とよく似ていた。眺めていたい、でも交流したい訳ではない。生きていてくれればそれでいい。いっとき憧れた彼女のことを頭の片隅に留めながら、私は今日も恋愛の無い日常を生きている。


あるこ

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