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ラジオドラマ脚本 031(長文)

タイトル【美人は、魔法の言葉。】

◾売れない女優ー陽奈多(ひなた)29歳 気が強く猪突猛進傾向 心の風景葛藤
映画に出てるけど、いつでも、台詞のない役ばかりクレジットはされるけど、眼を凝らしても見つかるかどうか?友達にも映画に出てるなんて口が裂けてもいえない。女優になると決めて、上京をしたものの未だに目が出ることもない状況。明日で、三十路。さてどうする私。

◾事務所の先輩女優ー真未(まみ)35歳 ルームメイト 劇団の先輩

◾平凡な会社員ー凡多(ぼんた)29歳 
優柔不断な性格だが、人との対立を回避する能力にたける

◾公平(こうへい)29歳 凡多の幼なじみ 
凡多と違い、我が道を突き進む。時折、凡多の優柔不断な性格を短所として嗜める。

N:夕暮れの映画館の館内。エンディングで、まだ、何かあるかのではと思い、席を立たずに、画面を見ている赤いフリースの凡多さん。友達の公平さんは、そそくさと席を立ちトイレに向かいます。館内が明るくなってきました。

陽奈多「また、エンディングロールに名前は、あったけど…..。もう、毎回のことだけど、いい加減。映像に映らない女優って…もう、両親と約束した30歳まで、あと数ヶ月。女優、辞めどきかもなあ」
凡多「損したな」
陽奈多「なんで、あのシーンカットされたんだろう。私的には、良い泣きの演技だったのに。でも、映画は素敵だったな。未熟なのは私一人か」
凡多「くだらないことに金を使っちゃったよ」
陽奈多「つまらない映画って、誰が言ってるのよ!お金がもったいないって…」

N:あたりを注意深くみて回る陽奈多さん。30代くらいの赤いフリースの男性が一人、陽奈多さんの目を逸らすように、顔を背けました。

凡多「やべぇ」
陽奈多「これだから、映画の芸術性がわからない観客は困るのよ。あの監督のテーマは…」
凡多「面白くない映画だろ」

SE:館内をかける靴音

陽奈多「赤いフリース着てる人、もう一度、大きな声で言ってくれない?聞こえなかったから」
凡多「誰だよ?」
陽奈多「だから、赤いフリース!相当、耳が遠いみたいね。!しっかりと聴こえているのよ」

N:明るくなった館内を見回す、凡多さん。大股で近づいてくる陽奈多さん。

陽奈多「なに!ダンマリを決め込んでるの?はっきりと、私の前で言えないの?」
凡多「君、美人だね」
陽奈多「えっ?なに?美人?美人?美人?誰に向かって言ってるの?」
凡多「白のボタンダウンに洗いざらしのデニムのパンツが素敵な君だよ」
陽奈多「えっ?なに…?」
凡多「君にだよ、君!目の前の君だよ。眼を釣り上げて怒った顔は似合わないよ。ほら、笑ってみてよ、ほら」
陽奈多「ば、ばかやろう」
凡多「やっぱり、笑顔の似合う美人さんだ。僕の思った通り笑顔が素敵な女性だ。ほら、ほら、笑って、笑って」
陽奈多「えっ!なんで?なんで?」
凡多「僕が、なにか気に触ることを言ったのであれば、謝ります。すみませんでした」
陽奈多「わ、わかれば…」
凡多「ご迷惑でなければ、ご飯をご馳走させてもらえませんか?好きなものたくさん食べてください」

陽奈多(M)なに?この人、新手のナンパ?悪い人には見えないし…。身なりも清潔だし。ちょっと、私の好みの身長より少し低いかな。

陽奈多「そうね、正式な謝罪で、という意味なら、ご馳走になろうかあ。あっ、私、こう見えて大食いだけど…」
凡多「えっ?」
陽奈多「なら、遠慮なく、リクエストは、お肉をお腹いっぱい食べたいです。だめですか?」
凡多「リクエスト歓迎」

凡多(M)どのくらい食うつもりなんだろう。

陽奈多「私が、大食いでも、牛一頭とか、4元豚一頭はないから安心してください」
凡多「財布が悲鳴を上げたがってます」
陽奈多「そうね。ちょっと、私、今日は、都合が悪いので、後日でも良いかしら?そうだ、LINE交換しましょう」
凡多「えっ?」
陽奈多「なに言ってるんですか?あなたが、謝罪の代わりにご飯奢ると誘ってるんですよね?違いますか?」
凡多「いや、その、その…」
陽奈多「もう、早く、LINE出してよ。もう、グズグズしないで!あなたが決めたことでしょ!」
凡多「は、はい…」

N:恐る恐る、LINEアプリを開く、凡多さん。

陽奈多「あとで、都合の良い日をLINEするように、よろしくね。そう、私の名前は、太陽の【陽】に、奈良の【奈】多様性の【多】でヒナタです! 一応、この映画にも出てる女優です」
凡多「えっ?」
陽奈多「あなたの名前を聞いてなかった?」凡多「平凡の【凡】に、多少の【多】でボンタ…」
陽奈多「もう、ちゃんと、はっきり返事してよ、もう。本当に、ご飯奢ってくれるんですよね!」
凡多「も、もちろんです!」

N:颯爽と、明るくなった館内を後にする。陽奈多さん。そして、呆然と見送る凡多さん。トイレに行っていた公平さんが席にもどってきました。

凡多「それにしても、気の強い女だったなあ。危うく、噛みつかれるかと思ったよ。公平はいなくてよかったよ。ほんとうに」
公平「どうした?」
凡多「公平が、トイレに行っている間に、女優とかいう人に難癖つけられて、今度、ご飯をご馳走する約束させられたよ」
公平「ほんとかよ?」
凡多「なにも、適当なこと言ってないよ。ただ、怖い顔してたから、美人だねと、言っただけだよ。だめか…」
公平「また、適当な…」
凡多「公平、さあ、ゲキオコ彼女、この映画に出てたみたいなんだよ。気がついた?僕は、わからなかったけどね」
公平「ちょい役だろ、おそらく」
凡多「それにしても、女優と知り合いになれるんて、なかなかないことだよね。公平はそんな友達、いる?」
公平「いないなあ、いたら凡多と映画なんてくるわけないだろ」
凡多「それにしてもだよ、彼女でもないのに、謝罪させられて、挙句にご飯奢るんだよ」
公平「あれだよな。お前のその相手の怒りを抑えるために、適当なことを言ったんだろう。お前のそういうところ子供の頃から全く変わらないよな」
凡多「ほめられてる?」
公平「ば~か!それより、その女優、美人だったかよ。どうなんだよ!おい!おい!」
凡多「あっ?…」
公平「覚えてないのかよ?面食いのお前が覚えてないなんて、珍しいなあ。さては…」
凡多「顔かぁ…」
公平「会う約束したんだよなあ。羨まし…」
凡多「LINE交換して、僕の暴言のお詫びにご飯を奢る約束しただけだよ。彼女に都合を聞くLINEを送らないとまた、怒られる」
公平「それ、俺も入れろ!」
凡多「まぁ、いいけど。とりあえず、彼女に確認してみるよ。これだと、合コンみたいだよな」
公平「割り勘で」
凡多「女優さんと、付き合って、結婚かあ、それも、悪くない人生のレールかもなあ〜。公平!羨ましいだろう!」
公平「週刊誌に気をつけろ!ば か や ろ う」

SE:部屋のドアが広く音

N:夕飯の支度をする陽奈多さん。上京間もない頃、事務所の先輩が、一緒に住まない?と誘ってもらい、もう、数年。今夜の食事当番は陽奈多さん、カレーを作ってるようです。スパイスの香りが漂っています。

真未「おお!陽奈多スペシャルだな、辛さで飯お代わりできるんだよな、まだできないの?」
陽奈多「最後の煮込みです。今日は、特に辛くしました」
真未「望むところ」
陽奈多「料理は、気持ちを綺麗に洗い流してくれますね。なんか、すっきりしました」
真未「なにそれ?大盛りいける?」
陽奈多「なんで!なんで!なんで、さあ。スレンダーなのに、そんなに大食いなんですか?同じように食べたら、わたし…」
真未「陽奈多だって…」
陽奈多「真未さん、聞いてくださいよ。昼間、私が出演した映画を観にいったんですよ。今度こそはと思って!」
真未「写ってたの?」

陽奈多「いつものことですよ。そこのところは」
真未「爆笑」
陽奈多「じゃなくて、この私のこと、美人!って言う人があらわれたんです!」
真未「顔を見て?」
陽奈多「でも、私、その人にガツンと、言いましたよ。知ったようなことをいうんじゃないと!」
真未「美人と言われて?」
陽奈多「お金を損したとか、劇場に、二人くらいしかいないのに大きな声で、スクリーンに向かってポロッというんですよ!頭にきましたよ。ほんとうに」
真未「あっ、映画のことね」
陽奈多「もう、自分が写っていない映画なのに、電光石火の如く、その男のところに行って、ガツンといってやりました」
真未「無意味な争い」

陽奈多「そうしたら、その男、いきなり私に向かって、美人だねって、3回も私にいうんですよ、このわ・た・し に!」
真未「あら?」
陽奈多「それが、あの…、まったく予期しない言葉を聴いたものだから、つい、ほんとうに、つい、ついですよ…」
真未「殴った?」
陽奈多「ご飯を奢れと!いやぁ〜、今、思うと恥ずかしいなあ、自意識過剰のこの私が、よく恥も外聞もなく言えたものだと…」
真未「思い切ったね」
陽奈多「凡多は、そんな人じゃないですよ。だって、名前が凡多ですよ、平凡の【凡】に多い少ない【多】どう見ても、かっこよくないですよ」
真未「呼び捨てなんだ、もう」
陽奈多「それにしても、LINE、こないな?ご飯、いつがいいか知らせてこいって、ちょっと、脅したんですけどね」
真未「びびるよな」
陽奈多「なんでだろう?美人なんて言われたら、速攻で、顔面グーパンチもしくは、蹴り入れてましたよ。そんな私が…」
真未「相手がかわいそうだよ」
陽奈多「真未さん、三十路になろうとする女ですよ、そんなことないですよ。ただ、私は、女を売りにして、生きていけなんです。もう、女であることが、鬱陶しんです」
真未「女優だよね?」
陽奈多「正確には、映画に映らない女優ですけど。真未さん、時々、私の容姿で、女優って言えるのかな?すごく悩むんですよ」
真未「言えるでしょ…」
陽奈多「女優って、美人さんがなるものですよね。私、幼少から、もう少し、なんとかならないかと母親から言われてきたんです、生みの親ですよ」
真未「厄介だよね、女は」

陽奈多「ブスな女優なんて、どうしたって、ひねくれて生きていくしかないんです」
真未「ブスって言うな」
陽奈多「高校の時、頭が良いわけでもなく、容姿に恵まれているわけでもなく、なのに、性欲だけはあるんですよ。それもかなり、強力なんです」
真未「えっ!えっ!そうなの?」
陽奈多「ブスなだけに、モテるわけでもないので、高校時代なんか、妄想の旅の連続でした」
真未「多感な時期だし」
陽奈多「私の若い頃は、グラビア全盛で、きっと肌も綺麗で、巨乳の女子しか、セックスできないんだと正直思ってましたもん」
真未「綺麗な方がね…」
陽奈多「私、絶対、処女のまま、孤独に死んでいくんだと、高校時代、ブスは、男の人と付き合える訳ないと、真剣に悩みましたよ」
真未「爆笑」
陽奈多「笑わないでください!その笑いも、わたしの心に槍が刺さるんです。ゾンビのようにいつも、教室をうろうろしてました」
真未「ご、ごめん」
陽奈多「そんな私が、自分から、LINEを教えて、スケジュールを切ってこいなんて、初見の男の人に啖呵きるなんて、どうしたんだろう?」
真未「大人になった?」
陽奈多「真未さん、冗談は、もう、やめてください。私も、三十路手前で、自分の容姿については、やっと、オトシ前をつけたんです。貧乳に関しては、今でも、引っかかりますが…」
真未「形は綺麗…」
陽奈多「肌は、この間、実家に帰ったら、母親から、綺麗になったってほめられたので、ちょっと、自信がつきました。髪の毛、あきらめました」
真未「あとは…」
陽奈多「男を作って、自分のこじらせてる女の性(さが)をなんとか、封じ込めてしまいたいんです。でも、男って、どうやったら、彼になってくれるんですか?」
真未「経験なし?」
陽奈多「だから、言いましたよね。封印していたと。でも、こんなわたしでも、経験はあります。欲の塊だったので」

SE:LINEの呼び出し音

真未「噂をすれば…」
陽奈多「ほらね、誠実なやつなんですよ。凡多は!」

N:メッセージを読み上げる陽奈多さん。

凡多「凡多です。ご飯の件ですが、明後日の金曜日はいかがでしょうか?新宿に美味しいラム肉を食べさせてくれるお店があります。ラム肉は、食べれますか?」

真未「ストライク!」
陽奈多「真未さんに聞いてるわけではありません!わたしのためにお店を探してくれたんです。わかりますか?」
真未「ラム肉大好き!」

凡多「それと、もう一つ、あの映画館で、一緒に観ていた僕の幼馴染みが、是非とも、陽奈多さんに会いたいと申してまして、ご迷惑でなければ、幼馴染み同伴をお許しできませんか?」

陽奈多「ハハァ〜、そうとう、今日、脅したから、第三者を交えて、友好的にことを運から、第三者を交えて、友好的にことを運ぼうとする戦略ですかね?どう思います?」
真未「だから、怖いんだよ」
陽奈多「金曜日、真未さん、お暇ですよね。2対1だと分が悪いので、何がなんでも、大先輩のご出馬をお願いします」
真未「えっ、わたし?」
陽奈多「凡多に、LINEします。美人を一人連れて行きますと」
真未「こげくさくない?」
陽奈多「あっ!やばい!やばい!」

N:凡多と公平、映画館を出て、近所の居酒屋で飲んでいると。

SE:LINEの呼び出し音

凡多「彼女から、返信がきた!きた!」
公平「なんだって?」
凡多「生ビールおかわり!」
公平「松前漬けと冷奴もお願いします。美人さん、よろしくお願いします。あっ!生もう、一杯」
凡多「美人さんと言っても、付き合えないよ」

陽奈多「凡多さん、LINEありがとうございます。お友達の件、問題ありません!わたしの方も、ルームシェアをしてる先輩と一緒に行きます。わたしよりも、少し上ですが、とても、面白い人です」

公平「髭剃るか?」
凡多「公平くん、君は、モテないんだから、身綺麗にしないと、女子たちから嫌われるよ。僕みたいに綺麗にね」
公平「上からくるね〜」

凡多「誰のおかげで、公平くんは、女優さんとご飯に行けると思ってるんだい?ちゃんと、僕の忠告聞いた方がいいと思うけどね」
公平「ちぇっ!」
凡多「公平くん、大丈夫だっけ?ラム肉?、ほんと、臭みって、なに?って感じだよ」
公平「ありえないだろう?」
凡多「そんなこと言うなら、ほんとうに不味かったら、俺が全部奢るよ、まずかったらな!」
公平「意地でもいわない」
凡多「もしかしたら、女優さんの彼女が、できて、週刊誌にのるかもなんだよ。あっ、ドキドキしてきた」
公平「クスリ買ってくる?」
凡多「女優に、返信しないと、公平くん、時間は、19時30分で大丈夫?それで、お店に予約入れちゃうよ」
公平「馳せ参じます」
凡多「女優さんを待たせるわけにはいかないからね」

SE:メッセージを打つ音

凡多「これで、よしっと!あとは、連絡をまつのみと!」

SE:部屋の窓を開ける音

N:ガス台から、鍋を下ろす、陽奈多さん

陽奈多「あちゃ〜!」
真未「もう、部屋に匂いがつくよ!こげの匂い、当分消えないんだよね」
陽奈多「真未さんが、変なこと言うから、鍋のこと、忘れてました。カレー職人の私とした事がとんだ、御迷惑をおかけしました」
真未「わかれば、よろしい」

SE:LINEの呼び出し音

真未「はやっ!」
陽奈多「脅しすぎたかな?そんなことないよね」
真未「怖いよ」

凡多「お店の方、予約完了です。金曜日、19時30分。4人で予約の方、いれました。当日、よろしくお願いいたします!あっ!当日、食べ物は、アラカルトにしました。飲み放題にしたので、いっぱい飲んでください」

陽奈多「飲み放題か?真未さん、ハイボールのガブ飲みは、やめてくださいね。男子はあれ見るとドン引きですよ」
真未「えっ、そんなこと…」

陽奈多「当たり前ですよ、電光石火の如き、素早さで、一気にジョッキのハイボールを開ける女子なんてどこにいますか?」
真未「ここに…」
陽奈多「百歩譲って、そんな芸当は女子飲み会の時だけにしてください」
真未「ちぇ!」
陽奈多「やりたいなら、どうぞ。でも、そのかわり、断言できますけど男受けは最悪ですよ」
真未「陽奈多さあ、いつもなら、そんな忠告しないのに、今回はどうした?」
陽奈多「恋の予感?そんな事ないですよ。いつでも、自分の悪い部分を取り上げては、ウジウジネチネチと考えています。女の部分を捨ててきたと思って、生きてきたのに、この有様です」
真未「そうだよね」

陽奈多「そう、もうすこし、その辺りの立ち回りをうまくすれば、きっと、いい役とかつくと思うんですよ」
真未「おもってたの?」
陽奈多「媚をうって役をもらうのって、自分の実力じゃないですよね。まあぁ〜、この容姿ですから」
真未「卑下しすぎじゃん」
陽奈多「自分の実力じゃない女部分は、努力じゃないですよね。能力でもないし、持って生まれた偶然ですよね」
真未「そんなこと…」
陽奈多「女の匂いを出したときに自分から、ダメ出しをしちゃうんです。でも、枕営業には憧れるんですよ。これは、自分の性欲絡みの妄想です」
真未「女は欲ぶかいよなあ」
陽奈多「そう、そう業がふかいんですよ。女優だけが、自分の心情を出しても、認められるし、ブスな女優でも、そんな役をやるには、容姿じゃなくて卑屈な自分の引き出しを思う存分吐き出しても問題ないだろうと思っていたんです」
真未「己の分身だし」
陽奈多「真未さんは、どう、折り合いをつけてきたんですか?わたしみたいな考え方って、やっぱり、生きづらい感じ出まくりですよね。これが、画面に充満するから、カットなんでしょうね」
真未「折り合いつけないけど…」
陽奈多「監督には、絶対、見えていて、意図しないものが、主役でもない、端役から溢れ出てたらそれは、カットでしょ!」
真未「それは図星」
陽奈多「もう、このままクレジット女優でもいいかな。でも、お母さんを喜ばせたいよなあ」
真未「合コン、楽しもう!」

N:凡多さんと、公平さん、早くも新宿のラム屋さんに到着のようです。店内は、ラムの焼ける匂いが充満しています。流石に金曜日、お店は満員です。

SE:肉の焼ける音

店員(女性)「いらっしゃいませ!ご予約の方ですか?はい!個室にご案内!」
公平「食べる気が満々だぞ!凡多、あぁ〜、喉乾いたな」
凡多「公平!そう、がっつくなよ。とりあえず、今回は、映画館の暴言のお詫びの食事会なんだからなあ、まずは、謝罪から…」
陽奈多「凡多さん!」
凡多「あ!陽奈多さん、こちらにどうぞ!店員さ〜ん」

N:席に座り、生ビールを人数分頼む。凡多さん。

凡多「この間の暴言、すみませんでした。今夜は心ゆくまで呑んで食べてください。それでは、今宵の出会いに…」
全員「乾杯!」

SE:ジョッキがぶつかる音

凡多「僕が、今回の飲み会の幹事兼大蔵省の凡多です」
陽奈多「暴言を吐かれた、私が陽奈多です。こちらは、先輩の真未さん。わたしの同居人です」
凡多「どちらも、美人さんですね。なんか、美人二人とこうして、お酒飲めるなて、幸せ者だよな、公平!」
公平「ちゃんと、紹介しろよ!」
凡多「同じ町内会の腐れ縁の幼なじみの公平です」

公平「イケメン枠の公平です、こいつ、本当に口が悪いので、何かあれば、僕にいってください。僕が注意しますので」
陽奈多「イケメンの公平さん、よろしくお願いします、クレジット女優の陽奈多です」
凡多「クレジット?」
真未「この子ねえ、映画によく出るんだけど、なぜか、いつも、彼女のシーンだけ、カットされるんです。本人は、毎回、いい演技だと報告は、あるんですけどね」
公平「それで、クレジット女優か」
凡多「爆笑」
公平「そうか、だから、解らかったんだよ。記憶をフル動員して考えて、この二日間寝不足」
凡多「調子にのるな!」
陽奈多「あの〜、また、わたし、怒った方がいい場面のよう気がするけど、真未さん、どうですか?」
真未「落ち着いて」
公平「あれ?ビール、ないみたいですけど、お代わりしますか?それとも、違うものにしますか?店員さ〜ん!」
真未「ハイボール!濃いめ」
陽奈多「真未さん?ゆっくり呑んでくださいね」
凡多「俺も、ハイボール頼もう!店員さん!俺は、薄めで!」

N:陽奈多さんの忠告虚しく、真未さん、ハイボールを…

真未「喉に響く、炭酸のシュワシュワ、たまらないよね」
陽奈多「あっ!」
凡多「真未さん、いい飲みっぷりですね。おれも、付き合いますよ!それ!」
公平「陽奈多さん、なんで女優を目指したんですか?」

陽奈多「高校の時、文化祭で、舞台に立った時の興奮が今でも、忘れられないことかなあ」
公平「後引くんでしょうね」
陽奈多「そして、女優はさぁ、自由になれるというか、実力で男の人に、認められると思っていたの。でも、違ったみたい。もう、女優やめようかな?」
凡多「なんで、二人でしっぽりと話しているんだよ。公平くん!」
公平「そんなことないよ」
陽奈多「凡多さん、やっぱり、クレジットにしか出ない、女優っておかしいと思いますよね?」
凡多「珍しいよね」
陽奈多「そうですよね、容姿端麗じゃなきゃ、女優って言えないんですか?演技力とかではないんですね」
凡多「女は顔でしょ!」
公平「おまえ!」
陽奈多「やっぱり、そうなんだ!男の人は、女性の容姿が最優先なんですね」
凡多「いや?」
陽奈多「わたしのこと、美人って言いましたよね。凡多さんにとって、わたしは本当に美人なんですか」
公平「陽奈多さん!」
陽奈多「公平さんには、聞いていません!凡多さん、どうなんですか?」
凡多「うーん」
陽奈多「この間は、わたしの怒りをかわすための方便ですか?ブスに美人といえば、黙るだろうとでも思ってたんですか?」
凡多「そんなことは…」
陽奈多「わたしも、この歳になるまで、色々と思い悩み、やっとのことで、生きてきたのに、そんなうわべの言葉で、踊らされた自分が情けなくて、泣けてきた」
真未「陽奈多!ねぇ、もうやめなよ」
凡多「ごめんなさい!」
陽奈多「もう、いいです。真未さん、まだ、呑んでいくなら、時間まで、楽しんでください」
真未「どうした?」
陽奈多「わたしは、夜風に当たりながら帰ります。今日は、ご馳走様でした」
凡多「ごめん!」
公平「ねぇ〜!ちょっと!まって!」

N:お店を後にする陽奈多さん。

真未「ごめんね。あの子は、なんていうのかな。自分の容姿に対して、コンプレックスがあるのよね。自分で自分のこと、ブスだと思い込んでるのよ」
凡多「ほんとうですか?」
真未「ほんとう、でも、凡多さんも、公平さんも、ブスだとは思わないでしょう?わたしが見ても、ブスじゃないし、性格もそれなりに、優しいところもいっぱいあるんだよね」
凡多「まずいこと言ったな」
公平「また、ご飯奢れ!」
真未「そこが、陽奈多の難しいところなんだよね。ちょっと、陽奈多は、子供の頃から女をこじらせてきたから、もう、がんじがらめになっちゃって、この歳まで来ちゃってるの」
凡多「やべぇ〜」
真未「でもさ、陽奈多も、30歳前を手前にして、このままじゃいけないと思っていた矢先に、凡多さんに美人と言われて、疑いながらも、この飲み会に参加したんだよ」
凡多「女優だからさぁ…」
真未「そうだよね、女優だから、自信があるとか思うよね。あの子の場合は、ちょっと、複雑」
公平「ブスでもないし」

真未「母親にもブスと言われていたみたいで洗脳され、女優という職業で、演技力さえあれば、周りからも一個人として認めてもらえると思って、やってきたんだよね、おそらく」
凡多「いってくれれば…」
真未「言えないんだよ。こじらせちゃうと。自分一人で、なんとかしなきゃって思うところが、また、彼女の性なんだよ」
凡多「どうしたら…」
真未「陽奈多が心配だから、わたしも、失礼するね。まぁ、いつものことなんだけど」
凡多「真未さん?」
真未「わたしの勘では、凡多さんに、興味があると思うな。もし、興味があるなら、明日にでも、LINEしてあげて。お願い」

N:真未さんが、部屋に戻ってきました。

SE:部屋のドアが開く音

真未「陽奈多?いるの?ビールとつまみ買ってきたよ。あんたの好きなスルメ買ってきたよ」
陽奈多「真未さん、すみませんでした。なんか、急に、そのなにか、ばからしくなっちゃって、大人気ない行動をとって…」
真未「気にしないよ」
陽奈多「やっぱり、私、こじらせすぎなんでしょうか?なんか、もう、女、廃業したい」
真未「性転換?」

N:陽奈多さん、大爆笑!

真未「陽奈多さあ、もう少し、なんていうのかな。自分に対して、もう少しだけでいいから自信を持とう。嘘でもいいからさあ」
陽奈多「自信かあ」
真未「まず、自分の容姿を否定するのは、今後、絶対にしないこと。そんなことしても、なにも生まれないよ」
陽奈多「でも、自分の容姿、ひどいですよ。肌だけは、ニキビがなくなりスベスベになったと自分でも思っています」
真未「ほら、改善してるじゃん!」
陽奈多「ブスは、変わりようが無いと思います。高校の時から、同級生の男子から、ブス、ブスって言われてるんです」
真未「あんた、女優だよね」
陽奈多「真未さんは、誰が見ても可愛いし、胸も、巨乳だし、いつも、モテモテじゃないですか?なのに…」
真未「あんた、もしかして…」
陽奈多「お願いだから、私が好きになりそうな人を取るのやめてください。お願いです。ブスの私からのお願いです」
真未「思った通り」
陽奈多「今日くらい、自分が女満開の気持ちになったことに対して、対処しきれないんです。もう…」
真未「高校生か!」
陽奈多「もう、嫌われましたよね。凡多に、あぁ〜〜、どうしたらいいんだろう。これが、多分、最後のチャンスな気がするんです」
真未「大丈夫だよ」
陽奈多「そんな気休めは、いりません。なんで、私の人生、うまくいかないんだろう…」
真未「気概を持ってよ」
陽奈多「疲れましたよ。もう…」

N:ラム屋さんで、2人きっりになった凡多さんと公平さん。

凡多「また、取り返しのつかないこと、やっちまったよ。どうしよう?公平」
公平「ハイボール、濃いめ、お願いします」
凡多「おまえ、この情況でよく呑んでいられるな。すこし、この状況の改善策はないの?」
公平「ラム肉、うまいね」
凡多「ほら、ここのラム肉最高だろう!わかった。ここは、おれのご馳走だ!」
公平「真未さん、可愛かった」
凡多「おまえ、表面上に騙されたら、だめだぞ。あれは、俺たちが束にかかっても敵う相手じゃないぞ。手強いよ」
公平「山登りと同じ」
凡多「人生、挑戦だろう。何があっても、違うかよ。しない後悔よりもする後悔を選ぶね」
公平「ほら、答えが出た」
凡多「流石、公平、みごとな誘導です。君のそんなところが好きだよ」
公平「嘘でも、嬉しいよ。真未さんも、凡多にその気があるなら、明日、LINEしてって」
凡多「そうだよな」
公平「おれは、もう、諦める…」
凡多「お会計してください!」
公平「相談料、ちゃんと、請求するからな!」
凡多「なんだよ〜」

N:凡多さん、公平さんにヘッドロックを仕掛ける。

公平「つらいな」

N:今朝は、真未さんが、朝食の当番です。土曜日の朝なので、すこし遅めの朝食です。なにやら、美味しそうな匂いが漂っています。

真未「陽奈多!起きろ!朝ごはん作ったぞ!大好物のなめこ汁付きだぞ!豆腐も入れたよ!早く起きろ!」
陽奈多「もう、すこし寝かせて」
真未「だめだ!わたしの美味しいなめこ汁、煮立つと美味しくないんだから、早く起きろ!」

N:部屋を開ける音

陽奈多「食欲には勝てない、自分が嫌い」
真未「それは、だれでも、そうだよ。それにしても、髪の毛がメデューサみたいだぞ」
陽奈多「顔洗ってきます」
真未「よし、いってこい!」

N:お味噌汁とご飯を用意する真未さん。

陽奈多「真未さんのお味噌汁は、世界一、美味しいです。ほっとするなあ。自分の母親が作ったものでもないのに」
真未「なんだろうね」
陽奈多「凡多に、わたしから、お詫びのLINEしないと失礼ですよね。昨夜から、ずっと、考えていたんです」
真未「向こうから、来るんじゃないの?」
陽奈多「でも、わたしが勝手にキレて、凡多たちを置き去りにしたわけだし、やっぱり、失礼ですよ」
真未「凡多のこと、好きならもう少し、まってみよう」
陽奈多「そうですか?」
真未「陽奈多、好きなら、きっとくるよ」
真未「陽奈多は、いままで、おそらく、極端な恋愛しかしてこなかったんだよね」
陽奈多「信じます」
真未「一方的にわたしが相手のことを好きになり、それに応えてくれた男性だから、なんでも、わたしはなんでも応えます的な恋愛関係」
陽奈多「だって、こんなわたしを好きになってくれる唯一の人ですよ」
真未「恋愛は、いつでも、対等だし、どちらにも、それなりなに責任がうまれものなんだよ。片方だけがじゃないんだよ」
陽奈多「好きだといってくれる人だから…」
真未「入れ込みすぎだって」

陽奈多「そんなことばかり繰り返すから、わたし、段々と、関係がこじれていくんです。そんな恋愛から卒業したい」
真未「こじれからの卒業by陽奈多」
陽奈多「もう、ばかにしないでください!真剣なんですよ」

SE:LINEの着信音

真未「凡多?」
陽奈多「あ〜〜!きましたよ!流石、年の功!」
真未「ころす!」

凡多「昨夜は、すみませんでした。なんで、同じことを繰り返すんだろう。僕は、きっと、馬鹿者なんですね」

真未「そう、おまえがわるいんだ!」
凡多「もう一度、僕にチャンスをください。お時間があれば、今日の夕方、あの映画館で、待ち合わせしませんか?」

N:陽奈多の肩を、振りかぶって叩く真未さん。

陽奈多「痛い!真未さん!痛いです!痛いって!」
真未「ほら!ほら!ほら!」

N:お互いに手を握りながら、泣き笑いの陽奈多さんと真未さん。

真未「もう、すぐに返事入れないと!」
陽奈多「なんと書けばいいのか、わからないんです。もう、なれてないんですから、こういうことに」
真未「ハイ!と一言」

N:陽奈多さん、一気にLINEを送っています。

SE:LINEの着信音

凡多「きたよ、ドキドキするな」

陽奈多「ハイ」

N:夕暮れの映画館の前に、凡多さんが、手持ちぶさげに一人たたずんでいます。ちょっぴりですが、緊張気味な感じです。

凡多「まいど」
陽奈多「あっ…」
凡多「先日は、すまなかった。陽奈多さんの気持ちを全く考えず、勝手なことを喋りまくって、本当に申し訳ない」
陽奈多「ねえ、そこの喫茶店に入りませんか?」
凡多「あっ、そうだね」

N:頭を下げる凡多さん。慌てる、陽奈多さん、なにか、滑稽な動きをしています。

SE:喫茶店の重厚なドアが開く音

店員「いらっしゃいませ」
凡多「アイスコーヒーと紅茶をお願いします」
店員「少々、お待ち下さい」
陽奈多「この間、急に帰って、ほんとうに、申し訳ありませんでした。大人気ないですよね。羊一頭には程遠い感じでしたね」
凡多「ぼくの方こそ、すみません。そう、100gも食べていない感じだったような」
陽奈多「自分に自信がないから、どうしても、自分を守ろうとする行動に出てしまうんです。30歳を前にして、もう少し、自分に自信を持ちたいです」
凡多「そうなんだ」
陽奈多「なんか、もっと、フランクに男の人と付き合えればいいと思うのだけど、緊張してフルスイングして、尻もちついちゃうタイプみたいで」
凡多「軽口ばかりで、すみません」
陽奈多「きっと、こんなことばかりがしれるから、女優としても、なかなか、目が出ないんだと…」
凡多「あの〜、女優については、全くわからないんだけど」
陽奈多「だよね」
凡多「いま、重要なことは、おそらく、おそらくだけど、ぼくと陽奈多さんの今後じゃないのかな?」
陽奈多「ねぇ、どいうこと?」
凡多「正直に、ぼくの考えを話をするから、最後まで、聞いてもらえますか?」
陽奈多「ちゃんとね」

凡多「陽奈多さんが、帰った後に、真未さんから、気持ちがあるなら、明日、LINEをしてくださいと頼まれたのは、ほんとうです」
陽奈多「同情から…」
凡多「聞いてください!」
陽奈多「ごめんなさい」
凡多「真未さんの一言が、引き金になったのは、事実です」
陽奈多「美人さんだもの…」
凡多「明日の朝、ぼくが目覚めた時に、なにがしたいのか?まずは、ぼくの陽奈多さんに対するからかい気味な言葉を訂正しないといけないと思ったんです。あんな変な出会い方をして、あまりイメージが良いと思えないけど」
陽奈多「ごめん、わたし、あなたが好きなの!」
多「なんて、いった?」
陽奈多「好きよ」

凡多「ぼくが、先に言いたかったんだよ!もう、なんで、待ち切れないかなあ。そこが、君のダメなとこなんだよ!」
陽奈多「回りくどいから…」
凡多「ものには、順番があってだね。ちゃんと、筋道をててることが一番大事なんだよ」
陽奈多「男らしい」
凡多「そうさ、ぼくは、男だからね、だから、ぼくから、告白をしたかったんだよ」
陽奈多「言ったもの勝ち!」
凡多「勝ち負けじゃない!」
店員「アイスコーヒーと紅茶になります」
凡多「ありがとうございます」
陽奈多「わたし、女の部分に、すごく違和感があって、高校の時も、なんで、女の子だからって、女の役割を演じなければいけないのと思って暮らしてきた、違和感を隠しながら」
凡多「それは、普通のことだよね」

陽奈多「あなたを非難する気はないの。ただ、わたしの中にある女の部分が、どうしても、許してくれなかったの」
凡多「女の部分?」
陽奈多「女優に憧れて、職業にしたのも、演技の実力主義のような世界に憧れていたからかも」
凡多「実力でしょ!」
陽奈多「幻想だった。ブスでも、演技力だけで測られる場所だと思っていたの、だから、ものすごく憧れて、背伸びをしながらも、踏ん張ってきたわけ」
凡多「の、はずだったわけだ」
陽奈多「そんなことはなかった。顔だったり容姿だったり、事務所の力だったりするの」
凡多「大丈夫だよ」
陽奈多「だから、わたしは、いつまでも、クレジット女優なの。そこから出ていくには、変なこだわりは捨てるべきなのに、わたしには、出来なかった10年だった」
凡多「こだわり…」
陽奈多「変なこだわりは必要ないのよ。社会においては。いいかえれば、プライドなのかな」
凡多「プライドかあ…」
陽奈多「わたしが、ずっと、こじらせてきた原因は、そこにあることに気づいたの。あなたが、わたしのこと、美人と言った時」
凡多「ブスじゃないよ」
陽奈多「でも、美人じゃないでしょ(笑)。そんな些細なことを許せなかった。いつも、自己分析をして、自分でダメ出しして、そして、落ち込んで、勝手に思い込む。これじゃ、ブスになっても仕方ないわけ」
凡多「そんな…」
陽奈多「凡多さんに、告白しても、こんな話してたら、嫌われても仕方ないかも」
凡多「人から聞いた話なんだけど、とあるオーディションで、演出家が、こう聞いたらしいんだ。君は、何歳なんだね。そしたら女優が、あなたが見える年齢ですと答えたらしいんだ。目の前に見えることなんて、女優には意味がないんだ。自分がもつ自信があれば相手は、きっと、存在を認めてもらえるんだよ」
陽奈多「曲がりなりにも、女優です!」
凡多「ぼくが大好きなクレジット女優さん!」

SE:重厚な喫茶店の扉を開ける音

凡多「あれ?雪だ」
陽奈多「誰も踏んでいない雪道歩くの好きだな。滑らないように、手を繋いでもいいですか」

SE:雪を踏み締めて歩く音

【完了】

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