2022-004「ボクの逆転ホームラン」ラジオドラマ脚本0103
シーン1 治験用の部屋
玲(M)窓もない部屋。仕切はトイレのドアだけ、気持ちを落ちつけて、私は
自由になりたいだけ。自由に。
【SE】モニターを見ながら晶がつぶやく
晶 「僕の手の中に…。これで、キミは自由になれるんだ」
【SE】無機質な部屋の中の玲
玲 「貴方が女神だって言ったじゃん…。どこかで見つめて…楽しんでるん
でしょ」
玲(M)声が吸い込まれる。ウソでも、いいんだよ…。部屋の片隅を見つめて。
玲(大声)「あたしは、女神なんでしょ?ねぇ、返事して…。私は、自由が…」
【SE】モニタールームの機械音
晶 「僕しか、キミを守れないんだ、なにがあっても、この僕しかいない
んだよ、わかってくれよ!」
【SE】継ぎ目のない壁から食事が出てきた。
玲 「そうやって、また、話をはぐらかそうとする、あなたの悪い癖…。も
う、自由にして!」
玲(M)ストーカーのように、私のことを観察してるでしょう?仕事だから、
誰からも注意もされないものね。
【SE】響き渡る例の叫び声
玲(叫び声)「ねぇ、化粧させて!」
玲(M)黒い涙を流す瞬間がキライ
玲 「ねぇ、女神が言うことは絶対でしょ!。あなたの女神なんだから、自由
にしてよ…、お願い」
【SE】被験者の部屋が開き、晶がゆっくりと入ってきた。
玲(M)私は女神なんだ
【SE】断末魔の叫び声
晶 「えっ?ウソだろ、この赤い色は…」
玲 「紅い口紅塗るね…。自分の欲求に逆らうことはできなかった、黒い涙
しかでない」
シーン2 玲と晶 同棲
玲(M)大学卒業と同時に、晶と同棲を始めた。晶の強引とも言える口説きに
負けた。晶には言えなかった。自由が好きだってこと。
【SE】居間、テレビの野球のナイター中継。アナウンサーが「逆転ツーラン
ホームラン」の絶叫
晶 「ただいま!」
玲 「だめ!」
晶 「大きな声出して、どうしたの?テレビで何かあった?」
玲 「えっ」
晶 「ちゃんと、ソファに座りなよ」
玲 「蘇え…」
晶 「野球、好きだっけ?ナイター中継とか、見るんだ?」
玲 「父親が好きだったから」
晶 「へぇ〜そうなんだ。お父さんは健在だっけ?」
玲 「あっ、おかえり」
晶 「どうしたの化粧なんかして、何かあった?」
玲 「えっ」
晶 「どこか出かけるの?僕も一緒に行きたいな?」
玲 「覚えてる…」
晶 「なにを覚えてるの?野球、観に行ったこと?」
玲 「感触…」
晶 「あっ、夕飯、作らないと、お腹空いたよね」
玲 「ご飯は、炊いた」
【SE】玲、ソファから立ち上がろうとする。
晶 「ソファに、座ってて」
玲 「えっ」
晶 「今日は僕の当番」
玲 「君の大好物のカレーの材料、揃えておいたから」
晶 「カレー食べたかったんだ」
玲 「そう」
晶 「任せろよ、今日はとびっきりの無水カレー、作ってあげる」
玲 「トマトのやつ?」
晶 「違うなのがいいなら…、はっきりと言って欲しいなあ」
玲 「無理してないから」
晶 「本当のことを言ってくれ、嘘は嫌いなんだ。覚えておいて欲しいな」玲 「会社辞めたいな」
晶 「やめる…」
玲 「飽きちゃったみたい…」
【SE】野球中継終了を告げるアナウンス。玲が夕飯の片付け。
玲 「ティッシュ?どこ?」
晶 「ハンカチ、ほら。隣に座って、ゆっくりしよう。片付け、後で僕がする
からさあ」
玲 「優しいね」
晶 「だってさあ、僕の女神さまだもの」
玲 「えっ」
晶 「女神さまなんだから、本当に、女神さまなんだって、僕の。理解して欲
しいなあ」
玲 「蘇る…」
晶 「向かい側じゃなくて、僕の隣に座りなよ。そう、隣に」
玲 「隣?」
【SE】隣に動く玲
晶 「なにが蘇るの?僕にも、教えて欲しいなあ」
玲 「信じてもらえない」
晶 「僕は、信じるよ。だって、キミは、僕の女神さまだからね」
玲 「気をつけて」
晶 「何を気をつけるんだい、女神さまに?気をつけるの玲の方だよ」
玲 「えっ」
晶 「もっと、近くによれば?ほら、もっと…」
【SE】玲の肩に手を回そうとする晶
玲 「えっ」
晶 「ご、ごめん、先に、シャワー浴びてくる。 その間にご機嫌なおし
ておいてね、女神さま」
玲 「蘇る…」
【SE】晶、お風呂場へ。そして、シャワー
晶 「さっぱりした!ソファに座ってないでさあ、シャワー浴びれば?」
玲 「えっ、もう寝る」
晶 「どうかした?気分でも悪い?僕が…」
玲 「えっ」
晶 「僕、ソファで寝るよ」
玲 「どうしたの?ベッドで一緒に寝ようよ」
晶 「まだ、不機嫌そうな感じだし」
玲 「ごめん…」
晶 「僕が一人で寝たい気分なんだ、愛しの女神さま」
玲 「女神じゃない」
【SE】台所から、包丁の音、今朝は、玲の当番日。
晶 「カレー、まだ残ってるよね?」
【SE】玲の背後に近づく晶の足音
玲 「もう!」
晶 「おはようのキスじゃん、ご機嫌斜め中?」
玲 「包丁持ってるの!」
晶 「わかってるよ、ホッペに…」
【SE】玲の頬にキス
玲 「もう、居間のソファに座っておとなしくしてて、もう、ご飯作らな
いからね」
晶 「カレーでいいよ?一日おいたのがさあ…」
玲 「全部食べたじゃん?」
【SE】居間に朝食を運ぶ玲
晶 「顔色悪いよ?」
玲 「昨夜から、ちょっとだけ、頭痛が」
晶 「一日おいた、カレーってさあ」
玲 「私は、シチューがいいな、ホワイトシチュー」
晶 「やっぱり、カレーだよ」
玲 「こだわりすぎ」
晶 「好きなものだから…、自分のものにしないと気がすまないんだ」
玲 「うっとおしい」
晶 「今度から、鍋に、さあ、メモを貼っておくよ、食べられないように」玲 「私が食べるみたい」
晶 「どうしたの、いきなり、立ち上がって」
玲 「だって、だってさあ」
晶 「上から言われると怖いよ、座りなよ」
玲 「欲張り」
晶 「ほら、隣に座りなよ」
玲 「欲張り」
晶 「いくら、僕の女神さまでも、譲れないものがあるってことさあ、覚
えておいて欲しいなあ」
玲 「欲望だよね」
晶 「だからさあ、ちゃんと覚えておくようにわすれたら…」
玲 「えっ?」
晶 「玲にも、メモ張り付けようかな誰かに取られないように」
シーン3 寛太郎と玲の子供時代
【SE】学校のチャイムと同時に帰宅する玲。
寛太郎「家にすぐ帰ってこい、何度も言わせるなよ、わかってるのか!返
事しろ!」
玲 「もう、ビール?」
寛太郎「上から見下したように、俺に話すのはよせ!」
玲 「勝手でしょ」
寛太郎「女神に何かあったら、困るんだよ。俺の大切な女神なんだから」
玲 「中三だよ、子供じゃない!」
寛太郎「なんだ。まだまだ、子供なんだよ。お前は、ちゃんと、俺の言いつ
けを守っていればいいんだ。わかったか!返事しろ」
【SE】寛太郎、立ち上がり、いきなり殴る。
玲 「痛い!」
寛太郎「痛いのはなあ、お前の心が、曲がってるからだよ。その邪な気持
ちが、お前をだめにしてるんだ。わかってるのか?返事は?」
玲 「うそつき」
寛太郎「俺の女神なんだ、わかってくれ。いうことをきいてれば…。いつで
も、自由なんだぞ」
玲 「どこが…」
寛太郎「お前、いつでも自由に学校、いってるじゃないか?誰が金を出してる
と思ってる。どこが不自由なんだ。子供じみたこと言うんじゃない!」玲 「自由?それが」
寛太郎「俺の言うことを聴いてれば、いつでも、自由なんだよ。ふざけたこと言
ってるんじゃない、ばかやろう」
玲 「えっ」
寛太郎「誰に口聞いてるんだ!ふざけるな!自由の女神なんだ。俺の…」
玲 「自由の女神、やばっ」
【SE】寛太郎、いきなり、殴る
玲 「優しいよね。顔は殴らないもんね」
寛太郎「お前が、大事なんだよ。わかってくれないか?なにがそんなに、不
満なんだ」
玲 「あざ、困るもんね」
寛太郎「一体、お前は、なにがしたいんだ?俺のいう通りに…。いう事をき
け! 、いいな、返事は?」
玲 「えっ」
寛太郎「俺の女神なんだぞ!、顔を殴ることなんて、できるわけないだろう」玲 「女神?」
寛太郎「なんだ、自分の娘をどう呼ぼうが俺の勝手だ!ふざけるなよ」
玲 「勝手にする」
寛太郎「俺のいううことさえ聞いてれば、問題なんて起きないんだ、バカやろう」玲 「問題だらけ…」
寛太郎「明日から、当分の間、学校は休みにしろ、いいな!返事はどうした!」玲 「無理!」
寛太郎「結局、お前は子供なんだよ、お前は、俺の…」
玲 「出て行く」
寛太郎「そんなことは、稼ぐようになったから言え!返事は、どうした!」
玲 「殴れば…」
寛太郎「お前が話を聞かないからだ、いうこときちんと聞いてば、殴るわけな
いだろ!返事は?」
玲 「うそ」
寛太郎「お前は、俺の女神…、わかってるのか!ふざけるなよ」
【SE】寛太郎、いきなり殴る
寛太郎「ごめん、また、殴るつもりは…、なかったんだ、信じてくれ」
玲 「触らないで!」
寛太郎「おい!」
シーン4 花の行方不明
【SE】学校のチャイムと同時に帰宅する玲。
玲 「花!」
寛太郎「おい!なんだ、ベタベタするぞ、風呂場、どうなってんだ!」
玲 「花?どこ?」
寛太郎「水垢、掃除、ちゃんとやれ!」
玲 「花?どこよ?」
寛太郎「いい匂いがするな」
玲 「愛してるのに…」
寛太郎「ホワイトシチューの肉、硬すぎないか?」
玲 「もう、寝る」
シーン5 撲殺
【SE】ソファから寛太郎の声
寛太郎「おい、夕飯、まだか?早くしろよ。それと、高校の担任から、
進路について聞かれたぞ!」
玲 「まだ」
寛太郎「また、ホワイトシチューか?子供じゃないんだよ、カレーにしろ」
玲 「文句あるの?」
寛太郎「女神のホワイトシチューだぞ、文句なんてあるわけないだろ」
玲 「えつ」
寛太郎「聞こえてるんだろ!」
【SE】玲、包丁で、野菜を切る音
玲 「だめ、もう、だめだ」
【SE】寛太郎、ナイター中継をみている
寛太郎「よし、ここで、ホームランで逆転だ!おい、ビール、ビール!」
玲 「ない!」
寛太郎「腹へった、早くしろよ!お前もこっちきて座れ!」
玲 「大学、東京にする!」
寛太郎「おい、今、なんて、いった?」
玲 「決めた!」
寛太郎「いけると思ってるのか?誰が、金を出すと思ってるんだ!おい!」
玲 「いくんだって!」
寛太郎「頭越しに、喋るのは、いい加減やめろ!、ここに座れ!」
玲 「隣に…」
寛太郎「何も出来ないくせに、俺に逆らうのか。お前の母親の…」
玲 「関係ないし…」
寛太郎「あんな奴のことは、もう、忘れろ。いいな」
玲 「あんたのせいだから」
寛太郎「お前、誰が育ててきたと思ってるんだ。おい、わかってるのか!」
玲 「えっ、誰って?」
寛太郎「大事な女神なんだよ、俺の大事な…」
玲 「もう、無理」
寛太郎「なんだ?どこに行くんだ?」
玲 「いいでしょ」
【SE】居間を出る玲
寛太郎「化粧なんてして、どこに行くつもりだよ!ここに座れ!なに、後ろに
立ってるんだ」
【SE】ホームランの打撃音がテレビから流れる。アナウンサーが叫ぶ。ボール
が潰れたような鈍い音
玲 「なかなかのフォームでしょ、聞いてる?野球中継、よくみてたからね…」
【SE】寛太郎、頭を押さえながらゲボゲボ
玲 「私の自由を奪おうとする人は、みんな、いなくなるんだ…。なんでだ
ろう?」
シーン6 同棲
【SE】玲のグラスに当たる氷の音
晶 「どうしたの?もっと、ゆっくり飲めば、いいじゃん?ヘンだよ」
【SE】玲、ぼんやりナイター中継を見てる
玲 「テレビが見えない。頭…、デカすぎ」
晶 「ごめん」
玲 「あ〜、頭が痛い」
晶 「野球中継、見るのやめれば、頭が痛いならさあ…」
玲 「えっ」
【SE】玲、ハイボールを注ぐ
晶 「ああ〜、もう飲み過ぎだって」
玲 「家で飲んでるんだから、私の自由にさせてよ、ダメなわけ?」
晶 「心配な…」
玲 「顔もつまんない」
晶 「そんな…」
玲 「自由にさせて欲しいだけなの。自由じゃなきゃ、私は腐っていくの」
晶 「具合がさあ…」
玲 「ねえ、ご飯食べに行かない?」
晶 「か、金ないよ」
玲 「あなたの女神が言ってるのよ、ねえ!」
晶 「今から、作るよ。カレー」
玲 「カレー、キライ」
晶 「ウイルスの研究、今回の件で研究所でも注目されてるんだ」
玲 「えっ」
晶 「実験が、さあ…」
玲 「私の仕事なんて、どうでも、いいんだよね…」
晶 「僕が守る」
玲 「えっ」
晶 「今が、頑張りどきなんだ、もう少しで、ワクチンが完成するかも知れ
ないんだ」
玲 「私にはどうでもいいんだって」
晶 「頑張りどきなんだ、この研究が完成すれば、僕の玲を守ってやれるんだ」
玲 「研究?」
晶 「また、みんなが自由になれるんだ、元に戻れるんだよ。自由だよ、玲の
好きな」
玲 「えっ」
【SE】玲にLINEの呼び出し通知
晶 「誰と、どこかに、行くつもり?」
玲 「ひとり」
晶 「うそはつかないで欲しいんだ。うそだけはつかないで欲しんだ。
僕にうそはつかないでくれ。絶対に」
玲 「怖い」
晶 「頭痛?大丈夫なの」
玲 「覚えていたんだ」
晶 「優しさが、僕の取り柄なんだ。優しさだけは受け取って欲しい」
玲 「いらないし」
晶 「女神さまを、永遠に守ることが、僕の役目なんだよ。わかって欲
しい、だめかな」
シーン7 朝帰り
【SE】玲、玄関を開けて、居間に
玲 「えっ」
晶 「おはよう。もう、朝だよ。僕の女神さま」
玲 「なんで?」
晶 「立ってないでさあ、座りなよ」
【SE】晶が、玲のためにコーヒーを落とす
晶 「美味しい入れ方、YouTubeで教わったんだ」
玲 「いい香り」
晶 「女神さまの機嫌、確認しないと寝れないじゃん。もう、寝ないけどね」
玲 「頭は痛いけど」
晶 「ちょっと、熱とかないの?こっち向いて」
玲 「顔、怖いけど?」
晶 「研究のことなんだけどさあ…」
玲 「治験するの?」
晶 「昨日は、はっきり、言わなかったけど」
玲 「で、」
晶 「お願いできないかな?」
玲 「寝るね」
晶 「仕事は?会社行かないの?」
玲 「ずる休みにした」
シーン8 治験承諾
【SE】晶、野菜を切っている
玲 「えっ」
晶 「今日、半休とったんだ、今日は、僕の当番じゃないけど、僕が、
夕飯作るよ」
玲 「なんで?」
晶 「お祝いだから、僕の食べたいものをと思ってさあ、だめ?」
玲 「えっ」
晶 「正式に採用されたんだ、治験も、早めないといけないんだ」
玲 「治験か」
晶 「国産牛肉、それもA5ランクだぜ!高かった〜」
【SE】晶、玲のために肉を焼く
玲 「もう、お腹いっぱいだよ」
晶 「美味しい肉のオンパレードは、まだまだ続くよ」
玲 「えっ」
晶 「玲の大好きなハラミもあるよ。焼こうか?」
玲 「ビール持ってくるね」
晶 「座ってて、女神さま、なにもしなくていいよ」
玲 「えっ」
晶 「ぼくのお祝いだけどさあ、本当は、玲のためなんだから」
玲 「なんで?」
晶 「こんな状況で、女神さまのことが心配なんだ。治験中だけでも、僕
の目の届く範囲にいてほしんだ」
玲 「えっ」
【SE】晶がプルトップを開け、玲に渡す
晶 「だめかなあ…」
玲 「えっ、治験の事だよね」
晶 「そう」
玲 「会社、辞めないとだめよね」
晶 「だめ?」
玲 「会社員って、不自由でしょ、私には、どうも…」
晶 「ありが…」
玲 「やるよ、治験」
晶 「無理はしないで欲しいんだ」
玲 「気分転換」
晶 「でも、不自由だよ、治験の部屋から出ることは期間中はできないか
らね」
玲 「えっ」
晶 「2週間か3週間くらいだと思う、状況によるけどね」
玲 「会社、やめる!」
晶 「ありがとう!女神さま、本当にありがとう」
玲 「大袈裟」
晶 「書類があるんだけど、家族構成やら、病歴とかさあ」
玲 「えっ」
晶 「何か、問題?」
玲 「えっ」
晶 「こんな時に、なんだけど、この治験が終わったらさあ…」
玲 「えっ」
【SE】玲、テレビつける。野球中継が流れる
晶 「ごめんね、驚かせるようなこといって、僕は真剣だよ」
玲 「嘘だなんて」
晶 「今回の実験で、成功すれば、僕も、幹部社員になれる可能性が…」
玲 「すごい」
晶 「今後のことも、考えられるようになったし…」
玲 「カゴの鳥かあ…」
晶 「ごめん、きみの気持ちを考えてなかった話だよね。治験中に考えて、
もらっていいからさ」
玲 「あっ、痛い」
晶 「どうしたの?大丈夫?気分が悪い」
玲 「横になるね」
晶 「テレビ、消した方が良くない?」
玲 「えっ」
晶 「片付けするね」
玲 「せっかくのお祝いなのに、ごめん」
晶 「僕の女神さまになる人だからさ、早く横になって、元気になって…」
【SE】晶、食事の後片付け
晶 「寝てるのかなあ?女神さまに何が起ころうとも、、僕が全力で、絶対
に守るから…」
玲 「えっ」
晶 「起こしちゃったみたいだね。プロポーズ、聞かれちゃったかな。迷惑
だったかな」
玲 「えっ、そうなの?」
晶 「僕の勝手な妄想だよ。女神さまのためにも、頑張るよ、でもさあ、裏
切りは絶体になしだからね」
玲 「えっ」
晶 「テレビ…消して、もう寝よう」
玲 「女神じゃ…」
【SE】台所から朝食の準備。晶の当番。寝室に、向かって叫ぶ晶。
晶 「玲、起きろよ。面接に遅れるぞ!」
【SE】勢いよく開くドア
玲 「なんで!」
晶 「起こしたよ、起きなかったのは、玲の問題だよ。でもね、いいこと発
見した寝顔が可愛かった」
玲 「女神だもの」
晶 「確かに、女神さまだよ。寝てる時は、素敵な女神さまだけど、寝起き
は、最悪な女神さまだから、困るんだ」
玲 「最悪」
晶 「僕は、先に研究所に行くけど、くれぐれも遅刻厳禁、返事は?」
玲 「なに…、いやだってばあ」
晶 「ほらっ!」
【SE】玲、無理矢理に、頬にキスされる。
晶 「いってくるね!二度寝はなしだから、後で、LINEするね」
玲 「自由と引き換え…」
シーン7 面接
【SE】玲、階段を駆け上る
玲 「すみません!」
面接官「あっ、こちらの部屋にどうぞ」
【SE】息を切らせながら、椅子に座る玲。
面接官「ゆっくりでいいので、名前と年齢をこの用紙に書いてください」
玲 「えっ」
面接官「心拍数とかを、モニターするので、ちょっと指、いいですか?」
玲 「くすぐったい」
【SE】モニターのスイッチを入れる面接官
玲 「大学時の研究みたい」
面接官「大学では、なにを専攻されていたんですか?」
玲 「心理学です」
面接官「ほぉ〜、心理学?」
玲 「いろんなことがあって、人の心の中を覗いてみたかったんです。心
が理解できれば、コントロール可能ですよね。あっ、他人をではな
くて、自分です」
面接官「コントロール?」
玲 「人の心の中って、誰もわからないと思っているかもしれないけど、
行動に現れるんです。気づかずに…」
面接官「今回の治験は、一人部屋におよそ2週間、薬を投与して様子を見
ることになります。外部モニターで」
玲 「大丈夫です」
面接官「眩しいですか?」
玲 「少し」
【SE】ブラインドをおろす面接官
面接官「今まで、持病及び病歴があれば教えてください」
玲 「大したものは…」
面接官「この治験に応募した動機は?」
玲 「えっ」
面接官「簡単でかまいません」
玲 「不自由な環境に、放り込まれて、自分の精神が、ちゃん
とキープ出来るのか?心理学的なアプローチです」
面接官「心配ですか?」
玲 「あっ、どうかな」
面接官「今回同様、モニター等で変化を見守っています、ご心配なく。そ
れと、モニターで映像も確認させていただきますが、問題あります
か?」
玲 「えっ」
【SE】ドアが開き、中の部屋の男に話しかける晶。
晶 「面接、どんな具合?」
助手 「体温心拍数、大きく変化はありません。落ち着いています」
晶 「肝は座ってるんだよ」
助手 「お知り合いですか?」
晶 「あっ、まあね」
【SE】いきなり、机を叩く玲。
玲 「やめて!」
【SE】インカムから晶の声。
晶 「おい!なにがあった?」
面接官「いきなり、彼女が激昂して…」
玲 「自由が…」
晶 「今、彼女、なんて言った?」
面接官「わかりません」
晶 「心拍数は?」
助手 「平常値で推移しています」
晶 「こんなことになるとは思っていなかった…」
【SE】インカムから晶の声
晶 「どんな感じだ」
面接官「落ち着いています」
晶 「よく観察しながら、言葉を選んで話してくれ」
面接官「わかりました」
【SE】インカムのスイッチを切る晶
面接官「大丈夫ですか?」
玲 「大声を出して、申し訳ありません」
面接官「最後になりますが、閉所恐怖症とかではありませんか?」
玲 「えっ」
【SE】ドアを開けて入ってきた晶
晶 「だいじょうぶ?」
玲 「変なことになって、ごめん」
晶 「途中、何か、大声を出していたみたいけど?」
玲 「みていたの?ずっと…」
晶 「観察も仕事だからね。治験中は、ずっとみてるから、安心して欲しい」玲 「うまくできたと思う?」
晶 「うまくって?」
【SE】ランチを食べる玲と晶。
晶 「うちの社食、美味しいだろ?」
玲 「えっ、うん」
晶 「俺なんか、毎日、ここのカレーだよ」
玲 「飽きないの?」
晶 「そう、今のところ、飽きてないな。結構、僕は執念深いから」
玲 「えっ」
晶 「俺の好み、覚えておいて欲しいな。カレーの味」
玲 「覚えてる」
晶 「心配ないよ。推薦者が、僕なんだから」
玲 「眩しい」
晶 「大声出した時のことさあ…。あれはなんとでも僕がするよ。キミの
ためだからね」
玲 「眩しい」
晶 「変な質問でもされた?」
玲 「だめ」
晶 「なにが、だめなんだよ?」
玲 「だめ」
晶 「あっ、眩しいの、だめ?」
玲 「えっ、ええ」
晶 「ブラインド、おろそうか?」
玲 「お願い…」
【SE】晶、窓に近寄り、ブラインドをおろし始める。
晶 「どう眩しくない?」
玲 「父親のこと」
晶 「行方不明のお父さんの質問だったんだ?」
玲 「野球中継、みてた」
晶 「お父さん、野球好きだったんだ」
玲 「膝の上でね…」
晶 「お父さんって、優しい人だったんだね」
玲 「自由が欲しかった」
晶 「なんで?」
玲 「だからね、ホームランを狙った」
晶 「打ったのは?」
玲 「えっ、私が…」
晶 「野球中継に、キミが出てくることなんて、ありはしないよ。そ
れって、ヘンだよ」
玲 「えっ」
晶 「そんなこと、あるわけないし」
玲 「えっ」
晶 「あっ、時間だ。部屋に戻らないと、玲は一人で帰れるよね」
玲 「また、ホームラン、打ちそうな気がする。だめ、だめ」
晶 「その時は僕が打ち取るよ」
玲 「無理…」
晶 「僕は、まだ、研究があるから、先に、家に帰っていていいよ」
シーン8 面接のビデオ再生
【SE】モニターの前に座り指示する晶
晶 「ごめん、さっきの面接のビデオ、見せてくれ」
助手 「巻き戻しますか?」
晶 「玲が絶叫した場面の数分前から、見せてくれ」
助手 「ここからです」
晶 「なんだか、よく聞き取れないな」
助手 「音声をクリアにしてみます」
玲 「フルスイング…、綺麗で…、自由になっ…」
晶 「野球の質問したのか?もっと、クリアにできるか?」
助手 「精一杯です」
晶 「これといって、何か変化は見れなかったか?」
面接官「普通に、家族構成を聞いていただけですが、あっ」
晶 「父親のことかも…」
面接官「自由という言葉にも大きく反応していたような気が…」
晶 「自由…」
助手 「この女性?晶さんの彼女ですか?」
晶 「大事な僕の女神さまだよ」
シーン9 面接と自由
【SE】晶、玄関を開けて、キッチンに向かう。
晶 「ただいま!」
玲 「あっ」
晶 「ごめん、起こしちゃった?お腹減ったよね」
玲 「疲れちゃったみたい」
晶 「ピザでも、デリバリーしようか?」
玲 「私のことより…」
晶 「愛してるよ、、僕の大事な女神さまだからね」
玲 「その言い方…」
晶 「大学の教室で見かけた時から、キミのことが気になっていたん
だ。すごく輝いて見えたんだ」
玲 「わざと無視してた」
晶 「ぼくは、どうしても、きみと付き合いたくてさあ。でも、うまく
いかなかった」
玲 「不自由だから」
晶 「僕はさあ、どうしても好きなものは、手にいれたいと思うたちなんだ」玲 「手に入れたでしょ」
晶 「でもさあ、まだ、僕のものになってない気がするんだ」
玲 「愛していても?」
晶 「愛してる人がそばにいれば、多少の不自由は仕方ないだろう、違うかな」玲 「自由がいい」
晶 「なんだよ、なんでだよ。僕だけの一方的な思いだけみたいじゃないか」
玲 「ごめん」
晶 「ぼくは、玲のために、不自由な思いをしても全く構わないよ。それが、
僕の女神さまのためになるんだからさ」
玲 「月がきれい」
晶 「話を逸らすなよ。父親の失踪と何か関係があるの?」
玲 「私のことと?」
晶 「愛してるに決まってるだろう。ぼくの女神さまなんだから」
玲 「月がきれい」
晶 「僕の女神さまも、ちょ〜キレイだけどね」
玲 「月は、自由」
晶 「自由だよ、自由に決まってるじゃないか、なんでも、やっていいんだよ」玲 「私も?」
晶 「もっと、玲のことが知りたいんだ。いろんなことさあ」
玲 「なんで?」
晶 「決まってるじゃないか?玲のこと、愛してるからさ」
玲 「知りたい?」
晶 「はぐらかさないで欲しい。こっち、向いてくれ」
玲 「ねぇ、月!」
晶 「なんだよ、ちゃんと、僕の話、聞いてくれてる?」
玲 「えっ」
晶 「この実験がさあ、終われば、ぼくは、ぼっ、ぼくは…」
玲 「結論は、まだ」
晶 「そうだよね」
玲 「こんなに月がキレイなのに、なんで、人は、自分の欲望を通そうと
するの?」
晶 「愛、愛だよ」
玲 「愛って、多分、自己満足なことがないと、報われないものだからかも…」晶 「女神さま、キミは自由だよ」
玲 「自由だよね」
シーン10 治験の朝
【SE】助手が部屋に入ってきた
助手 「今日から、およそ2週間、この部屋で、生活していただきます」
玲 「なにもない部屋」
助手 「毎朝、10時に薬が配られます」
玲 「ウイルスの抑制薬?」
助手 「治療薬も兼ねています」
玲 「トイレは?」
助手 「そこの壁を押すと扉が開きます」
玲 「窓は?」
助手 「人工的に灯りを調整しています」
玲 「監獄みたい」
助手 「食事は、この壁より、朝昼晩と定刻に出てきます」
玲 「お願いがある場合は?」
助手 「簡単です。壁に向かって話しかけてください。モニターで確認できます」玲 「24時間?」
助手 「そうです」
玲 「誰かと話したい時は?」
助手 「会話に参加はできないルールです。ただし、非常事態はのぞきます」玲 「孤独ね」
助手 「モニターはされますが、独り言に関しては録音されません」
玲 「よかった」
助手 「質問がないようであれば…」
玲 「緊張する」
【SE】助手、扉を閉めて出ていく。
玲 「これといって、やることもない」
【SE】スピーカーから晶の声
晶 「昨夜は、ごめん」
玲 「ルール違反じゃないの?」
晶 「僕の元で、キミを初めて守ることができた」
玲 「えっ」
晶 「何度も言っただろう、キミを女神さまを守るって」
玲 「なに言ってるの」
晶 「ウイルスだらけの社会にキミを生活させるの僕には耐えられなか
ったんだ」
玲 「えっ」
晶 「これが、僕ができる愛情の表現なんだ。理解して欲しい」
玲 「そんなの愛じゃない」
晶 「キミがなんて言おうが、僕の思いに素直になって欲しい」
玲 「自由にして!」
晶 「キミは、いつでも自由だよ。僕の手のひらの中でね」
玲 「えっ」
【SE】モニタールームの椅子に腰掛ける晶
晶 「部屋の様子は?」
助手 「大きな変化は、みられません」
晶 「彼女の動き、逐一、報告してくれ。僕は、部屋に戻るから」
【SE】モニタールームを出ていく晶
玲 「ここからだと、モニターの死角になってるはず」
【SE】モニターから警告音に驚く助手
助手 「おかしいな?原因は、なんだろう?」
【SE】モニター調整を試みる助手。
玲 「異常を察知して、きっと、晶が来るはず…」
【SE】晶の部屋の内線電話が鳴り響く
晶 「どうした?」
助手 「被験者のモニターが不具合を起こしたようです」
晶 「わかった、そっちに向かう。彼女には、このことは伝えるな。
僕が、着くまで、待機していてくれ」
助手 「被験者が大声で、何か叫んでいます。晶さんを呼べと言ってます」
【SE】モニタールームのスピーカーから玲の大声。
玲 「晶!どこにいるの?モニタールームにいるんでしょ!」
助手 「どうしますか?」
晶 「大人しく、観察を続けろ、いいな」
【SE】モニタールームに駆け込む晶。
晶 「状況は?」
助手 「大きく変化は、ありません。大声を出しすぎたのか?静かになり
ました」
晶 「心拍数等の数値は?」
助手 「変だな、あれほど、興奮した様子なのに、大きく変化がない」
晶 「おかしいな」
助手 「モニターの影に隠れて、何かをしてるようです」
晶 「部屋の鍵を開けろ!」
【SE】部屋の中に、晶がゆっくりと入ってきた
玲 「自由を奪った父親と同じ」
晶 「僕は、女神さまを、いや、玲をこの汚れた世界から遠ざけたかった
んだ、一時的にせよ」
玲 「えっ」
晶 「僕が、いつでも、女神さまのことを第一に考えていたのに…」
玲 「感触が」
晶 「僕の女神さま、残酷だよ。僕の気持ちは蚊帳の外みたいだ」
玲 「自由が」
晶 「この部屋に、誰も入れるなよ!」
玲 「やっぱり、ホームラン打つしかないみたい」
晶 「えっ」
玲 「また、愛する人が消えちゃった」
【SE】部屋のスピーカーから、プレイボールを告げるアナウンス。
【完了】
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