ラジオドラマ脚本 017
【思い出の中で生きれることしか選択できない】
ぼくのお役御免の時期が来たみたいだ。先代の息子が、この古びた家屋を取り壊して、新しい3階建ての家を建てることを決断したことを夕飯時に家族に話しているのを聴いた。いつまでも、このままではいられないであろうことは、この老いぼれでもわかったいたさ。隙間風が吹くような木造の老朽家屋の存在自体、否定されてあたりまえか?AI搭載のお掃除ロボットになり、痒いところに手が届く素敵な相棒になってきたのに。相棒とは、もう、お別れをした。
登場人物
内人(うちひと)70歳 取壊される古い家
星霜(せいそう)20歳 掃除機ロボット
星霜「起きろよ!朝だぞ!ほら!」
内人「話しかけて大丈夫か?」
星霜「家の人は、いないよ。俺をセットして出かけたよ」
内人「いてぇ!」
星霜「ごめん、設定ミスだ。説明書を読まない人だからな」
内人「わざとだろ」
星霜「ここも、取り壊されるみたいだな」
内人「ああ」
星霜「掃除するのも、今日限りのようだ」
内人「だんだん、寂しくなるな」
星霜(M)おまえは、もう、取り壊されるんだよ。覚悟しろよ。
星霜「そんなに、悲しそうな目で見るなよ。それが、運命なんだからさ」
内人「ばらばらに…」
星霜「そうなるしかないよな。決まってることだから」
内人「でも…」
星霜「覚悟を決めろよ。もう、止めることは不可能なんだよ」
内人「なんとか…」
星霜「おまえは思い出とともに生きれるが、俺たちはどうだ!」
内人「思い出がどうした!」
星霜「そうはならない!思い出の重さが違うんだよ。俺たちとは」
内人「同じだよ」
星霜「今夜は、雨みたいだぞ。おれからのプレゼントだと思え!さぁ、仕事だ」
内人「いてぇなあ」
星霜「綺麗に洗い流してもらえよ。このくそじじい!」
SE:カメラの連写音。家族のすすり泣き。