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ラジオドラマ脚本 013

N 123号室の室内。風呂上がり、爪を切り
 ながら、誰かと話をしている葵。それを見つ
 める人影。

「次の旅の準備しないといけないのか?」
葵子「そんな事を気にしなくていいんじゃな
 い?」
「おばあちゃんに、よく、夜、爪切るなと怒
 られたな」
葵子「ばあさんの迷信、うざかった。あぁ〜、
 考えるだけで、ばあさんの存在がうざい!ど
 こかにいっちゃえといっつも思ってた」
「おばあちゃんの迷信面白かったな」
葵子「合理的な迷信にしないといまの子供は、
 信じないよ。存在が迷信だよ!あのばあさ
 ん!」
「僕が一番びっくりしたのは、スイカの種を
 食べると胃の中で芽を出すよってやつ、えっ?」
葵子「スイカの種、飲み込んでから言われて、
 ほんとのところ困ったよ」
「母さんに、泣いて、ものすごい勢いで病院
 に連れてってよと叫んだよ」
葵子「それから毎朝、歯を磨きながら、喉の奥
 から双葉が出てないかって。嘘なんだよ、こ
 れが。この僕を怖がらせて楽しんでんだよ!
 あのばあさん!絶対に許せない!」
「おばあちゃん、うざいかったよね」
葵子「ばあさんの迷信を聞くたびに、またかよ!
 ってほんとに苛立つ原因」
「昨日おばあちゃんの事、思い出した。死ん
 でから大分たつのになぁ」
葵子「もう、ばあさん、うるさいよ!僕の邪魔
 ばかりするなら、じいさんのところに送り届
 けるよ」
「おばあちゃん、僕の事を大切にしてくれて
 いた気がする」
葵子「やっぱり、ばあちゃん、じいさんのとこ
 ろに送り届けるべきだな」
「迷信がある事で、僕はダメな人間になって
 いたんだ」
葵子「なんか、今夜は、しゃべりすぎたかも、  
 ばあさんを無事に送り届けて来たから、もう、
 ぐったりだよ」
「この暗闇から、やっと、解放されるみたい。
 永遠を感じるほどに長い時間だった。おばあ
 ちゃん、色々と、ごめんね」

SE カンカン靴の音

刑務官「123号58番、出房の時間です。一
 緒に教誨室に、ご同行を願います」

【完了】


※無断転載を禁じる。



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