オーロラライブ中継 リアルとバーチャルの狭間で
コロナ禍で海外旅行ができない為、カナダ極北ユーコン準州ではガイドの仕事がほぼ休眠中だ。ガイド仲間のほとんどが、他の業種でバイトをしているか、休職中かのいずれかである。
当初は2−3ヶ月から半年ほどで落ち着くと思われていたコロナも、始まってから既に1年が過ぎてしまった。カナダは今でも国内の移動制限がある状態で、去年の秋を最後にカナダ国内のゲストさえもガイドできない状態である。
<オーロラ生中継のセットアップ>
そんな中、各旅行会社やガイドたちがそれぞれオンラインツアーや配信を始めたのだが、ここユーコンでもオーロラライブ生配信の企画が持ち上がった。2月に僕の元へ、イギリスのテレビ会社からオーロラ中継依頼がやってきた。試行錯誤をしながら、なんとか3月始めにオーロラ生中継を行うことができたのだった。(オーロラの動画撮影や生中継には、超高感度対応の特別な機材が必要となり、他にも様々な機材やケーブルが必要となってくる。)
カナダのユーコン準州は僻地である為、通信環境が大都市に比べるとかなり遅れている。街の近くでは携帯電波が入るが、少し離れると無電波状態となる。また携帯電話のデータ使い放題などというサービスなどもない。データ量を多く使う中継には、適した環境にいるとはいえないのだ。それでも携帯電波の増幅装置などを使い、データ量をたくさん購入することにより、ライブ配信ができる環境にはなったのだ。
その後に日本人のガイド仲間で集まり、オーロラを中心とした生配信を行うという流れになった。その為に州都ホワイトホース郊外のオーロラ鑑賞施設にて、何度か中継のテストを行った。カメラ4台をセットアップし、オーロラや焚き火、小屋の中の様子をYoutubeライブとZoomで日本と繋いだのである。最終テスト時には、久々に見るような巨大オーロラが爆発した。上空でオーロラが舞い、四方からオーロラに包まれるという、贅沢な夜となったのだ。
<小屋の上で激しく舞うオーロラ>
目の前で激しく動くオーロラが、リアルタイムで日本の巨大なプロジェクタースクリーンに写り出されていた。なんとも不思議な気分だ。栃木の家の壁いっぱいに映し出された巨大なオーロラは、カナダの僻地で今見ているオーロラと全く同じものだ。たくさんのケーブル、カメラとレンズ、パソコンを繋いで、電波を飛ばす。それがサーバーに上がり、日本で映し出されている。。。頭で理屈は分かっていても、やはりどこかで腑に落ちない。
コロナ前はリアルタイムのオーロラと言えば、現地で見るのがほとんであった。オーロラライブのカメラがあったが、ガイドが現場にいて解説をしたり、オーロラを待ったりという形は存在しなかったのだ。それが今では、こうしてオンラインで見ることができるところまできた。わざわざ寒い思いをしなくても、日本の温かい部屋の中からでも見ることができるようになったのだ。
ただ、「これで海外旅行などいかなくていい。長時間の飛行機も乗らなくていいし、英語も喋らなくてもいい。ああ、よかった!」とまではならないだろう。旅での体験、特に知らない海外の土地へ行った時の空気感は、オンラインで中継してもほんの一部しか伝わらない。それでもオンライン中継には、時間と空間を飛び越えて擬似体験できる面白さがある。本物の体験とオンライン体験とは別物なのだ。今回のオーロラ生配信を通して気づいたことでもある。
<過去に撮影したカナダ・ユーコンのオーロラ動画集>
テスト後の1週間後に、本番のオーロラ中継が行われた。栃木の会場に100人ほどが集まり、カナダの料理を味わったり、焚き火、マシュマロ焼きを体験したりと、まるで旅行に行ったかのような擬似体験をすることができたのだ。
そして肝心のオーロラなのだが、本番に限ってなかなか出てきてくれない。そう、オーロラは毎日出るものではないのだ。オーロラ鑑賞目的の旅行に置き換えると、3日から5日滞在すると鑑賞成功確率がぐんと上がる。だがオーロラ中継では、その日1晩しか中継ができない為、リスクがかなり高いものとなってしまう。
曇っていた空が晴れ、後はオーロラが出現するのみ。。。各ガイドがプレゼンで極北の魅力を伝えながら、オーロラが出てくるのを待った。だがついに、オーロラは最後まで現れなかった。皮肉にも、これも現地で参加する実際のオーロラツアーの擬似体験となってしまった。ツアーであれば、「また明日トライしましょう!」となるところだが、オンライン中継ではそうはいかない。
オーロラは見えなかったのだが、僕は不思議な感覚に浸っていた。喜びに溢れた1週間前のテスト時と、オーロラが見えなかった本番の現実。日本に集まったオーロラを見たい人と、夜中から早朝3時過ぎまで起きて中継した極北カナダ・ユーコンのガイド仲間。。。
<オーロラを待つ間に楽しむ焚き火>
全く別の世界の2つの点が、たくさんの線と電波を通して繋がっていた。思ってみると、人類は時間と空間の制限を乗り越えるために、今まで色々な発明をしてきたのだ。飛行機も時間を短縮をする手段で、通常の海外旅行もまた文化や自然の突然の変化を楽しむためのものだろう。
そう考えると、オンラインツアーも今までの旅行の延長線上にあるのかもしれない。ただ、これまで体感を意識して暮らし、極北の森の中でテント暮らしをする者としては、どこか吹っ切れないモヤモヤとしたものも感じるのも事実だ。ネットを含めたテクノロジーと、人間の五感を使った体験を、どのようにバランスを保って行くのか。今回のオーロラ中継で、改めて考えさせることになったのだ。
(↑今回行ったオーロラ60のプロジェクトです。)
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