④ 日常に潜む5つの「トポス」
香西の再構成した5つの「トポス」について、以下に香西が示した具体例を挙げながら説明していきます。
① 類似のトポス
例:レスリングなどは体重制を採用しているので、バレーボールも身長制を導入すべきだ。
説明:「正義原則」が隠された根拠となる「トポス」です。「正義原則」とは「同じ本質的範疇に属するものは同じ待遇を受けるべきである」という「思考の癖・習慣」です。ですから、ここから発想されるものは「レスリングもバレーボールも同じスポーツであるので同じ待遇にすべき」という「理由づけ」となります。
構造: 体重制を導入しているのはレスリングである
↓ 同じ本質的範疇に属するものは
↓ 同じ待遇を受けるべきである
↓ (思考の癖・習慣)
↓ ↓ *発想
↓ ←←←レスリングもバレーボールも同じスポーツ
↓ であるので同じ待遇にすべき
↓ (アリストテレスの「エンドグサ」)
↓ *演繹
身長制を導入すべきなのはバレーボールである
② 譬えのトポス
例:退学は死刑のようなものなので、復校させるべきではない。
説明:「類比関係」が隠された根拠となる「トポス」です。「類比関係」とは「甲に対する乙の関係が、丙に対する丁の関係に類似している場合」に「乙の代わりに丁を位置づけることを許容する」という「思考の癖・習慣」です。ですから、ここから発想されるものは「最も重い処罰は復活することはない」という「理由づけ」となります。
構造: 退学者は死刑者と同じで最も重い処罰を受けたものである
↓ 甲に対する乙の関係が、丙に対する丁の関係に
↓ 類似している場合に乙の代わりに丁を位置づ
↓ けることを許容する(思考の癖・習慣)
↓ ↓ *発想
↓ ←←← 最も重い処罰は復活することはない
↓ (アリストテレスの「エンドグサ」)
↓ *演繹
退学者は復校が許されるきではない
③ 因果関係のトポス
例:金閣寺の放火は金閣寺の美に原因があるのだから、再度の放火を防ぐために金閣寺を再建してはならない。
説明:「その対象を生み出した原因」が隠された根拠となる「トポス」です。「直接的な関連はなくとも前後・相関関係から原因を示されると思わず認めてしまう」という「思考の癖・習慣」があります。ですから、ここから発想されるものは「放火の原因である美はなくすべきである」という「理由づけ」となります。
構造: 金閣寺はその美ゆえに放火された
↓ 直接的な関連はなくとも前後・相関関係から
↓ 原因を示されると思わず認めてしまう
↓ (思考の癖・習慣)
↓ ↓ *発想
↓ ←←← 放火の原因である美はなくすべきである
↓ (アリストテレスの「エンドグサ」)
↓ *演繹
金閣寺はその美ゆえに再建すべきではない
④ 比較のトポス *記事③にて述べたので省略
⑤ 定義
例:書きやすいように簡略化している最近の文字の傾向は、大きな誤りである。
説明:「説得的定義」が隠された根拠となる「トポス」です。「説得的定義」とは「よく知られている語に対して、その情緒的な意味をあまり変化させることなしに、新しい概念的意味を与えられると思わず受け入れてしまう」という「思考の癖・習慣」です。ですから、ここから発想されるものは「読むことよりも書くことが優先することはない」という「理由づけ」となります。
構造: 文字は読んで理解するために存在する(新定義)ものである
↓ よく知られている語に対して、その情緒的な
↓ 意味をあまり変化させることなしに、新しい
↓ 概念的意味を与えられると思わず受け入れて
↓ しまう(思考の癖・習慣)
↓ ↓ *発想
↓ ←←← 読むことよりも書くことが優先することはない
↓ (アリストテレスの「エンドグサ」)
↓ *演繹
文字は書くために簡略化することなど許されない
このように論証されているものが日常生活・社会生活においては少なからず存在するのです。そして、我々はよく考えることなしにその論証の「主張」を受け入れてしまうのです。なぜなら、それは人間の「思考の癖・習慣」から導かれたものであるからなのです。
この事実をしっかりと理解しておくことが日常生活・社会生活を営む上ではとても大切になってくることになります。なぜなら、それは実際には蓋然性が低い「主張」なのですから。