② 「立場」と「論理」(「情報」の恐ろしさ)1
①で示した学生の表現は、各学生の立場から見えてきたことを論理的に切り取ったものにすぎません。
マガジン『論理的思考力・表現力をどう育成するか④(理論編:具体表現)』の記事①の動画においては、「立場」と「論理」についても説明しています。つまり、論理的表現とは、ひとつの「立場」から見えてきたものを論理規則によって切り取ったにすぎないものであり、「立場」を変えれば異なる表現(意見や主張)ができるということです。
このことを実感的に理解させるために、以下の「はじめ・まとめ・なか・むすび」で表現された文章を読ませ、各自の考える「地球温暖化を防いでいくための手だて」について考えさせました。
地球の温暖化
はじめ:今、地球ではだんだん気温が上昇していくという温暖化現象が進んでいる。気温の上昇は生物に大きな影響を与えるし、南極の氷を溶かして海の水位一メートル以上も上げ、世界中の東京のような海岸都市を水没させてしまう。
まとめ:その原因は大気中における二酸化炭素の割合の増加が考えられる。二酸化炭素は「熱を吸収しやすい」という性質がある。太陽の光は地面を暖め、暖められた地面は、熱を放射して冷えようとする。大気中の二酸化炭素の割合が高くなれば高くなるほど、この放射熱をたくさん大気中に吸収するということになる。つまり、大気中の温度が上がり気温が上昇することにつながってくる。
なか①:この二酸化炭素の割合が増加した理由は、大規模な森林伐採などによって植物を少なくしていったことが考えられる。植物は、私たち人間が生きていく上でなくてはならない酸素を作り出しているのはよく知られているが、その他にもでんぷんを作り出す過程でその原料として二酸化炭素を吸収して使用している。だから植物が少なくなるということは二酸化炭素が吸収できなくなることになり、その割合が増えることにつながることになる。
なか②:もう一つの理由は、産業革命以来、工業においてはもちろんのこと自動車や航空機の発達によって石油や石炭などの化石燃料を大量に使うようになってきたことが考えられる。特に、最近三十年ほどの間のその使用量は驚異的に増えてきている。化石燃料は燃焼すると二酸化炭素を発生させる。つまり大量の化石燃料の消費は二酸化炭素の大量の増加につながってくることになる。
むすび:地球の温暖化はこのような原因で現在も確実に進んでいる。至急、温暖化の問題に何らかの対策を立てなくては、地球生命の危機につながってしまうだろう。
学生の考えた「地球温暖化を防いでいくための手だて」として出てきたのは以下のようなものでした。
・植林をしよう ・割り箸を使わずマイ箸を持ち歩こう
・紙は再利用しよう ・公共交通機関を利用しよう
・電気自動車等に乗り換えよう
・火力発電から風力や太陽光発電などに切り替えよう
しかし、これらの考えと同じくらいの学生が以下のような「手だて」を発表していました。これらの考えを聞いた学生には大きな戸惑いが見られました。
・クーラーの設定温度を上げよう ・冷蔵庫はすぐに閉めよう
・待機電力の消費を抑えるためにコンセントはまめに抜こう
・アルミ缶は再利用しよう ・原子力発電をやめて自然力を生かそう
どうして学生たちを戸惑わせるような異なる考えが、しかも同じくらいの割合で生じてしまったのでしょうか。これが、所謂「個性」というものなのでしょうか。
少し考えてみてください。