① 論理的思考力・表現力育成のための新たな範疇

マガジン『論理的思考力・表現力をどう育成するか①(理論編:構造の理解)』は、近年、ビジネスの世界においても学校教育においても、論理的思考力育成の必要性(それを踏まえたコミュニケーション能力育成の必要性)が求められていることを受けて書いたものです。
このマガジンでは、論理的思考力の基盤には「論証」能力があるということを大前提として各記事をまとめてきました。

しかしながら、私たちの日常・社会生活においては、強固な隙のない論理的構造の構築を必要とする場が全てではないのです。論理的とは言えない構造が用いられているにも関わらず、それでありながら「主張」の説得力が高いものも確実に存在するのです。

カイム・ペレルマンは『説得の論理学』(三輪正訳・理想社・1980)の中で、日常における議論の目的は「主張への聞き手の同意を喚起させるもの」であると定義しました。そして、「主張」の根拠となる「データ」や「理由づけ」については、「『蓋然的』というより、むしろ『道理がある、もっともである』の意味に近い」と言及しています。さらにペレルマンは、このような根拠は「充分に同意の得られるもの」「部分的諒解や暗黙の諒解しかないもの」になってくると付け加えています。
つまり、特に日常生活などでの議論(すべての話し合いを含む)は「主張」を通すことが目的なのであり、議論自体を論理的にすることは目的ではないということなのです。ですから、「主張」の根拠となる「データ」や「理由づけ」はその蓋然性を高めること(そう言える根拠を裏付けていくこと)よりも、「もっともである」「同意の得ら」れるものをいきなり位置づけてしまう方が効果的な場合もあるということなのです。

こらからも、ビジネスや学校教育においては、強固な隙のない論理構造を構築することによって「主張への聞き手の同意を喚起させる」という方法論を考えていくことはその中核となってくることは間違いありません。
しかしながら、もちろんこのことは重要なことではありますが、これからはもっと広い意味での論理を考えていくこと、つまり「論理でとらえきれないものもある」ということも理解させること必要になってくるものと考えます。

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