⑰ 最後の授業としての「トポス」指導
学生は、自分の意見や主張を説得力のあるものにしていくためには、論理的な強さと具体的な表現の厚みが重要であることを確実に理解し、それを実践することができるようになりました。
ここにおいて「論理学」の授業としては完成と言えるでしょう。
しかし、マガジン『論理的思考力・表現力をどう育成するか②(理論編:トポス)』で述べてきたように、学生たちが日常的に接する表現の多くは「論理ではとらえきれないもの」なのです。
そこには「トポス」の問題があります。最後に、この「論理ではとらえきれないもの」について理解させることが、本当の意味においての「論理学」の授業であると言えるでしょう。
具体的な指導にあたっては、5つの「トポス」について実感的にとらえさせることが大切になると考えました。
まず第一段階として、マガジン『論理的思考力・表現力をどう育成するか②(理論編:トポス)』の記事④で示した5つの例を構造的に理解させてから以下の発問をしました。
問1 あなたは①~⑤の主張のどれに同意しますか(複数可)。
問2 あなたは「問1」で回答した中のどれに最も同意しますか。
問3 あなたが生活において最もよく用いるタイプはどれですか。
その結果、問1では①から⑤の全てについて80パーセントを超える学生が「同意する」と回答をしていました。生徒たちの頭の中にも「思考の癖・習慣」が存在していることが理解できます。
問2・問3においては、③「因果関係のトポス」がそれぞれ42%・44%と最も多い割合であり、次いで①「類似のトポス」がそれぞれ25%・30%という結果でした。
第二段階としては、学生自身で5つのタイプの「トポス」をもとにする主張考えさせていきました。
問4 問3で答えたタイプで、自分がよく用いるような例を考えてください。
問3で「最もよく用いる」ものと多く回答された③「因果関係のトポス」と①「類似のトポス」においては以下のようなものが多くみられました。どれも「トポス」の意味をよく理解して自分のものとして活用しているものであると言えます。
〈学生の作成例〉
③「因果関係のトポス」に関して
・わたしは華道を受講したので、女の子らしくなるだろう。
・わたしは料理番組をみたので、料理が上手になるだろう。
・わたしはたくさん勉強したからテストは全部満点だろう。
①「類似のトポス」に関して
・私と彼女は同じA型である。私は潔癖性であるから彼女も潔癖性だろう。
・わたしと彼女はマイペースである。わたしは時間にルーズだから彼女もルーズだろう。
・彼と彼女は大阪人である。彼は歩くのが早いから彼女も歩くのが早いだろう。
・わたしと友達はアイドルが好きである。わたしはAKB48が好きだから友達も好きだろう。
この他の「トポス」についても以下のような例を作成していました。
②「譬えのトポス」に関して
・私は浦安に住んでいるから、東京に住んでいるようなものだ。
・私は栃木に住んでいるから、チベットに住んでいるようなものだ。
④「比較のトポス」に関して
・私は中学受験を突破したので、どんな小学校の入試も突破できる。
・私は重症患者を看護できたので、どんな軽症の患者も看護できる。
⑤「定義のトポス」に関して
・音楽とは「音を楽しむ」とあるので、楽しくカラオケ大会でもやるべきだ。
・看護学校は看護の実践力をつけるところなので、明日は座学の授業は休んで病院実習にいくべきだ。
このような指導を通して、学生たちは「トポス」について実感的に理解できました。
今後「トポス」の構造で表現されているものにふれた際は、その蓋然性に敏感になることと考えます。
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