有名焼肉屋さんの盗みたい接客
複数の知人からおいしいと聞いていた焼肉屋さんを訪れた。
大阪、鶴橋にある「焼肉ホルモン 空」
うわさに聞いていたとおり、何を食べてもおいしかった。ビールに合うホルモン、甘辛いタレに浸かったきゅうり。
だが、私が1番感動したのは接客のよさだった。
私は学生時代からアルバイトで接客業ばかりしていた。それから就職し、昨年まで勤めていた動物病院でも、受付業務や電話応対などの接客業務があった。接客をつづける中で、さまざまな反省や学びを得た。
やっていたからこそわかるすばらしい点がいくつもあったので、お話ししようと思う。
1.どんなに忙しくても目が合う
人気店という噂のとおり、常に外に列ができていた。すべての店員さんがひっきりなしに動き回り、10秒立ち止まる暇もない様子。
仕事内容は違うが、私も繁忙期には同様の忙しさだった。常に体を動かさなければならないほど忙しく、頭の中にタスクが積み上がってパンクしそうな状態だと、人と目を合わせたくなくなる。
何かを頼まれてしまうと、優先的にやらなければならないことが追加され、頭の中のタスクが減らないからだ。
お客さんの立場になってみると、目が合わないと店員さんを呼びづらい。忙しそうだな、と諦めてしまう。もしくは、呼んでみたが気づいてもらないということが起きる。
だが、「空」の店員さんは、手を動かしながら常に店内を見ていた。私が注文をしようと目を向けると、すぐにバチリと目が合うのだ。あたりまえのようにやっているが、本当にすごいと思った。
2.お客さんに焦りを見せない
焦っていると自然に早口になり、語調も強くなる。
表情にも余裕がなくなり、笑顔も引きつってしまう。
するとそれは相手に伝わり、「今は話しかけられたくなかったんだな」と受け取られてしまう。
マニュアルで決まった「ありがとうございます」を口にして、目も合わせずそそくさと立ち去ってしまう姿を見ると、心がこもっていないなと感じ、機械のほうがマシだとさえ思う。
一方、「空」では、大急ぎで作業をしている店員さんに申し訳なく思いながらも、すみませんと声をかけると、驚くほど落ち着いた「はい」という声が返ってくるのだ。
注文を明確に聞き取り、覚えられないと判断したものは素早くメモをとる。「ありがとうございます」と気持ちのよい言葉を最後に、また慌ただしく作業に戻る。
3.細やかな心遣い
カウンターの席に通されたときに、荷物を肩から下ろしていると、すぐに調理をしている店員さんから、「荷物はそちらに袋があるので、使ってください」と声をかけられた。
外が暑かったので上着を脱ぐと、「後ろに送風機のホースがあるので、自由に動かしてください」と。
食べ終わり、帰宅しようと立ち上がると、「忘れ物がないようにお気をつけください」。
私たちの挙動を見て、タイミングに合わせた声がけをしてくれた。
店で決められた言葉だったとしても、タイミングや言い方がすこし違うだけで、心がこもっているとお客さんが感じるかに違いがうまれる。
店員さんの発する言葉には心があり、まちがいなく私に向けられているのだと感じられた。
飲食店は味がよければいい、と感じる人もいるかもしれない。だが、私は接客もとても大事だと思っている。
接客というのは奥深く、明確な正解がない。決められたことをこなせばいいわけではないのだ。
そのお客さんが何を求めているのか、何をしたらより満足していただけるのか。自分で考えてプラスワンの行動ができるか。
接客の上達方法について、以前の職場で言われていたことがある。それは、普段の生活の中で自分が受ける接客をよく観察するということだ。
いい接客か悪い接客か、どうして自分がそう感じたのかを考える。
いい接客は自分のものにするように盗む。悪いと感じた接客は、自分もしていないか振り返り、しないよう注意する。
いつの間にか癖がついていたらしく、今でも自然にそういった目で見てしまうが、この「焼肉ホルモン 空」の店員さんは、間違いなく盗みたい接客をしていた。
それぞれの店員さんが今自分にできることをテキパキとこなし、効率よく回している。その作業スピードも目を見張るものだった。そしてお肉もおいしいなんて、まさに鬼に金棒なお店。人にすすめたくなるのも納得だ。
また、ビール片手においしい焼肉を食べながら、接客を盗みに行きたいと思う。