大人になってこそ動物園
動物園に行きたいと訴えたら、夫が推しているという動物園に連れて行ってくれた。
街を離れて次第に緑が目立ち、山を登って辿り着いた先。ここは兵庫県。姫路セントラルパーク。事前にインスタグラムを見たら、プロフィール欄のやや自虐的な文が面白かった。
実際多分1時間強で到着した。大阪の皆さん!案外近いよ!
あぁ、サファリなんていつぶりだろう。10年は絶対に経っている。動物たちとの出会いを期待し、胸が高鳴る。入園料を払い車で入場すると、ものものしいゲートが待ち受けていた。そこを潜り抜けたら肉食の動物エリアだ。
どこどこ?と見渡すまでもなく、すぐそこにチーター!まだ猛暑というほどの気温ではないものの、暑い日差しから避難して、木陰で優雅に休んでいた。
なんだか猫カフェかのようなラフさで、肉食ということを忘れてしまう。安全なところで見ている分にはすごくかわいい。
肉食ゾーンを超えて、草食動物のエリアへ。車のことなど気にせずに一定のリズムでゆったりと通過する動物たち。間近で見るその姿は家のテレビやスマホで見るよりもずっと大きい。
あまり一般的な動物園で見たことがないラクダが近くに何頭も!想像以上にダイナミックだけど、背中のコブとコブの間が意外と狭く、乗り心地ってどうなん...?いや、そもそも乗るためのコブじゃないしな...といらぬ心配をしてしまった。
なんだか大人になって動物たちを間近で見てみると、改めていろいろな気づきが生まれてくる。なんで尾をブンブン振りながら草食べてるのかなぁとか(虫を追い払うためらしい)、シマウマって馬よりも首が太くて短いんだなぁ、なんて。
車で回るゾーンはノンストップなので、あっという間に終了。今度は車を駐車場に止めて、一般的な動物園と同じように見て回るウォーキングゾーンへ向かうそうだ。日差しが照りつける中、帽子と日焼け止めで固めてきた装備が功を奏した。
ふれあいコーナーでちょうど大型犬とのふれあいタイムが始まっていたので、チャンスとばかりに迷わずイン!セント・バーナードにゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバーなど。飼育員を中心にしてフレンドリーな犬たちが集まり、お客さんとも和やかに触れ合っている。
動物看護師を辞めて以来、モフモフに飢える日々。毎日触っていたモフがない日々は、そういう意味では灰色といっても過言ではない。そんな私の久しぶりのモフ体験!寄ってきてくれた子ををわしゃわしゃと撫でていたら、涙が出そうになった。
セント・バーナードの子は送風機の前に陣取り、息を荒くしている様子。触り心地の良い密度の高い被毛。雪山でも活躍できる犬には、それはそれは日本の夏は暑いよね。
ふれあいのひとときを終えたら、さまざまな動物を見て回った。
餌を求めてチャーミングなスタイルで下から眺めてくるクマ。かわいいと思う反面、山で襲われた事件が記憶に新しく、あの巨体が襲いかかってきたらそりゃひとたまりもないなと、ぶるりと震えたりもした。
レッサーパンダの前では、大人の女性が3人ほど集まり、お高そうな望遠レンズを付けたカメラを構えて熱心にシャッターチャンスを狙う現場に遭遇。そのときばかりは思わず動物観察をやめて人間観察に移行してしまった。何を隠そう、私も今カメラが欲しいのである。
そうか、カメラを手に入れたらこういう動物園の楽しみ方も生まれるのだな。買ったあかつきにはきっと私も彼女たちのように、ファインダー越しの動物園という新しい扉を開くんだ。
人間観察は続く。今、大人になってさまざまなことを考えながら回るようになったけれど、子どものときって動物園ではどんなことを考えていただろう。近くにいる子どもたちに目を向けてみると、案外ドライだった。
親が「ここに行く?」「これ見てみる?」とアプローチしては「見ない」。「お猿さんいるねぇ」と言う母と、静かに目で追う子。イメージの中では子ども時代の動物園というのはテンション爆上がりしているのだけど、それってあくまで大人の構築したイメージで、実際には自分もこうだったのかもしれないな、と思った。
動物園でキャイキャイするのって、実は大人なのかもな。
さて、姫路セントラルパークではさまざまなところで動物へのおやつが用意されている。有料ではあるものの、それをゲットすれば動物がキュルルンとした顔になって自分に寄ってきてくれる(もしくは逃げない)のだ。
とはいえなんとなくクールを装いパンドラ化しつつあった私の財布。ついに最後、キリンを目の前にしたときに開くことになった。
自分の体よりも大きいのではないかという顔が目の前にあり、レロンレロンと長い舌を出して待っている。キリンさんが好きです。でもゾウさんの方が…いや!キリンの方が好きかもしれません!
大きな体に対して何の足しになるのか分からない、細く切られた人参。だけどキリンにとっては十分魅力的らしい。1本差し出すと、器用に舌を巻きつけて受け取り、ゆっくりと口に運ぶ。その顔に負けず劣らずなんと優しいムーブだろう。愛しい!!!心がときめく。ふれあいって素敵!
あっという間に自分の持っている分をあげてしまい、ホクホクしながら出ていこうとすると、次に来ていた家族のお父さんが嬉しそうに人参を持ち、「なぁ、キリンあっちで食べたいって言ってるから、ちょっと一緒に来て撮ってよ」と子どもに頼んでいた。子どものように無邪気なそういうお父さん、好きです。
私が子どもの頃はハンディカムで動画を残すのが一般的で、手ぶれ補正も弱く重たい、つまり子どもには扱える代物ではなかった。それが今や軽いスマホで簡単に良質な動画が撮れるので、「子どもが親を撮る」という構図も叶うようになったのだな。
記憶は曖昧なので、思い出は記録媒体に依存することもある。もしかしたら「動物園は子どもが楽しむ」というのは、記録媒体に子どもしか写っていないことも要因だったのかもしれない。
それが今大人も簡単に映り込めるのなら、「パパの方がはしゃいでるじゃん」と、よりありのままに記録ができて、果ては動物園の印象も変わっていくのだろうか。だとしたら面白いな。
そんなことを考えながら、動物園を後にした。
姫路セントラルパークのサファリは、おなじみの動物から見たことのない動物までたくさんいる。1周すれば大満足の充実度だし、演出は強すぎず、動物もお客さんものびのび。広さも含めてほどよく、アットホームさがあってとっても良かった。夫が推す理由が分かる。
大人になるとなかなかタイミングがなくて行かなかった動物園。心が動いて忙しく、最高の休日になった。今度はカメラをゲットしてから来よう。