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「条件違いの事例」

#Twitter300字ss   お題「影」


「もう夜が明けたから大丈夫だ」
 そう言った法師の丸い頭が日に照らされて障子に影を落としているのだから、その通りなのだろう。
「だが私を部屋からおびき出すための、妖怪による幻の光という可能性もある」
「確かに」
 法師は思案しているような影絵になった。
「本当に貴様が昨日の坊主ならば、障子を外から開ける位簡単だろ」
「本当に開けていいのか」
「は?」
「開けていいのかと聞いている」
 わざわざ聞くということは。
「貴様、はやり偽の坊主だな」
「そんなもの、目にすれば分かるだろう」
 ずずず、と、独りでに開いた障子の向こう。
 普通の偽法師ならば自分からは開けられない筈だ。なぜ私はそちらのほうに遭わなかったのか。その不幸を呪った。


(300字)



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