令和五年度 鉄道要覧を読む (2)
実際の内容に即して、記載内容を紹介。
今回はJR四国と名古屋鉄道を例に紹介します。
見出し
登記上の社名が二重傍線付きで記載され、その下に会社設立年月日(和暦)・株式(授権株数・発行済株数)・資本金額・本社所在地(郵便番号・住所・電話番号)・代表者名・他主要事業が記載されています。
上述のとおり、社名は登記上のものとなっていますので、JR四国以外のJR各社であっても通常の「鉄」の字が用いられています(ロゴに使われている「鉃」ではありません)。
公営の場合、会社設立年月日・株式・資本金額の記載は無し。
本社所在地以外の連絡先が記載されるケースもあります(例えば名鉄の場合、東京支社の連絡先も併記されています)。
令和五年度版では見当たりませんでしたが、初期の私鉄要覧(1970年代)では、電話番号の欄に市外局番の代わりにMAの名前だけが記載された例が多数あります。極端な例を挙げると、筑波山鋼索鉄道株式会社の電話は「(筑波山)45」となっています。
JR以外の場合、他主要事業の前に「連絡線」の項目があり、他社路線との接続駅が掲載されています。
これが、一般に流布している乗換可能駅と微妙にずれている点が興味を引きます。
一部しか掲載されていないように見えるもの
近畿日本鉄道(JR連絡駅のみ掲載されており、OsakaMetro・京都市営地下鉄・三岐鉄道などが掲載されていない)
軌道事業の項目の方では、長田駅をOsakaMetroへの連絡駅として掲載
JRしか掲載していない例は、南海電気鉄道、信楽高原鐡道など多数
京成電鉄(JRと東葉高速鉄道が記載されている一方、山万非掲載)
「連絡線」とだけ書いてあって、接続駅の記載がないもの
ゆりかもめ、和歌山県(和歌山港線の一部の第三種事業免許)、他
一般に乗換可能と見做されている路線があるのに、「非連絡線」と記載されているもの
高尾登山電鉄、京福電気鉄道(鋼索)、広島電鉄、長崎電気軌道、熊本市、鹿児島市、他多数
自社路線(別事業)への接続の記載有無基準が不明瞭
自社路線を記載:京阪電気鉄道(鋼索)、箱根登山鉄道(鋼索)、西武鉄道(案内軌条式)
いずれも、鉄道事業側では連絡線に記載なし
自社路線非記載:東京都交通局(鉄道~軌道)、名古屋鉄道(鉄道~軌道)
連絡駅名を他社駅名で記載するもの
舞浜リゾートライン(「リゾートゲートウェイ・ステーション」ではなく「舞浜」と記載)
名古屋鉄道(「名鉄名古屋」「新羽島」ではなく「名古屋」「岐阜羽島」と記載)
古い私鉄要覧・民鉄要覧を見ると、ここは「国鉄との連絡有無」を示す項目だったように見えます。
連絡ありの会社は「連絡線」と記載したうえで「国鉄連絡駅(xx)」のように記載することになっていたようです。連絡がない会社は「非連絡線」。
(例:相模鉄道の「小田急連絡駅(厚木)」、能勢電鉄の「阪急連絡駅(川西能勢口)」の記載は、JR化前の昭和五十七年度版には存在しない)
「地方鉄道(=国鉄以外の鉄道)の一覧」だった民鉄要覧を、JRまで含めた「鉄道要覧」に拡張する際の歪みが残っている、ということでしょうか。
本文
本文は表の形になっており、種別が一番左の列にあります(未開業線→開業線→第2種開業線→第3種開業線の順)。
未開業線の場合
種別の右に、認可動力、軌間(メートル単位で記載)、区間、キロ程、建設費予(概)算額(百万円単位)、免許年月日、工施認可年月日(申請期限)、工事竣工期限、摘要の記載があります。
線名が決まっていたら、開業線同様、区間の左の列に記載される場合もあるようです(例:西日本旅客鉄道なにわ筋線)が、必ず記載されるわけではないようです(例:宇都宮ライトレール)。
「工施認可年月日(申請期限)」という見出しは、「括弧なしで書いてあったら工施認可年月日を、括弧ありで書いてあったら申請期限を表している」という意味のようです。
区間表記は、開業線同様「ゴシック体で一括記載→細字で内訳」の記載ルールが適用されているように見えますが、内訳を記載する必要がない線が多いせいか、細字で一括記載だけしてあるものも多数あります。
各種開業線の場合
各種開業線については種別の右に、認可動力、軌間(各線についてメートル単位で記載)、線名、区間(ゴシック体で一括記載→細字で内訳の順)、キロ程、単線複線の別、運輸開始実施年月日、摘要の記載があり、JR以外の会社の場合、運輸開始実施年月日の前に「免許年月日」(実態に合わせ、免許でなく「許可」「特許」と記載)があります。
いつなくなったかわかりませんが、古い私鉄要覧だと、免許年月日と運輸開始実施年月日の間に「運輸認可実施年月日」の欄もあります。
役所の監修を受ける関係か、年月日の記載はすべて和暦。
動力として認可されていない区間では、蒸気機関車やディーゼル機関車(内燃)を走らせてはいけない、というのは、私には意外でした。
走らせることが出来る区間は当然定義されているとは思っていましたが、各社の管理にゆだねられているのではないかと想像していたので、それが事業免許と紐づけられて鉄道要覧に載っているのは想定外でした。
また、枝分かれしたり中抜けになっている区間について特に考慮されていない点も、意外だったところです。
例えば予讃線の項目で区間欄を上から見ていくと、ゴシック体で「高松,宇和島」の記載の後に細字で開業日別に各区間のキロ程などが並んでいますが、その後、予讃線の項目の続きとしてゴシック体の「向井原,内子」「伊予大洲,新谷」が現れます。
表形式とはいえ、横線で線名ごとに区切られたりもしていないので、若干見にくいです。また、古い民鉄要覧だとゴシック体・細字(明朝体)のフォントの差があまりないので、具体的にどういう区間で構成されているかを実情を知らない方が知るには、巻末の地図で確認する必要があります。
内訳として分割されるのは、運輸開始実施年月日が異なる区間であり、単複の別については区間表記では分割されていません(単複の欄には「単複」と記載され、摘要欄で詳細を記載)。
鉄道施設の変更
複線化・複々線化の対象区間・変更認可年月日・竣功期限を、開業線の後に表として掲載している事業者もあります(例:東急・小田急・京王・神鉄等)。事業完了後は掲載されなくなる(例:京急・東京地下鉄)ようですが、東急や小田急で、既に認可された複々線化事業が完了しているのに掲載継続されている理由は不明。特に京王は、新宿~笹塚間の複々線化が完了して40年以上経過しています。
意味不明な記載
凡例に記載がなく、何を意味しているのか正確に理解できないことがいくつかあります。編集ミスも多く含まれるように思いますが、気になっている点をいくつかあげます。
括弧書きのルールが不定
区間表記において既に廃止された駅名を示すとき、動力表記において電圧を示すときに括弧を用いることは凡例に明記されていますが、それ以外に、何の注釈も無く括弧が使われている例がいくつかあります
キロ程の数値:第3種開業線のキロ程に用いられていることから、総計には含まないことを示しているものと想定されます。実際、巻頭の「運輸局別鉄道・軌道営業キロ一覧表」の注の中に「()内は第三種鉄道事業者・軌道整備事業者であり、これらの営業キロ数は含まれない」という記載があります。
ただ、そう考えると北大阪急行電鉄や宇都宮ライトレールの未開業(工事施行認可済み)部分について括弧書きで示されている理由がわかりません。工事施行認可済み(「工施線」)区間を集計から除外する理由も、他記事でこの区間と同一区間を計上するものもなさそうです。
同様に令和五年度版鉄道要覧発行時点で未開業で、上記2路線とほぼ同時期に開業したハピラインふくいのキロ程は、括弧なしで記載されています。
免許年月日・運輸開始実施年月日:事業譲受が行われた場合の記載ルールが統一されていません
三岐鉄道北勢線等の場合:一括表記の行に譲受認可年月日と現事業者での運輸開始実施年月日を記載し「(譲受認可)」と付記内訳の行で、各区間の免許年月日・運輸開始実施年月日を括弧書きで記載(和歌山電鐵・えちぜん鉄道各線など類例複数)
京成電鉄千原線の場合:一括表記の行の摘要欄に営業譲受日を記載、免許年月日・運輸開始実施年月日は括弧なしで記載
(参考)神戸高速鉄道各線の場合:免許・許可年月日と運輸開始実施年月日に第三種鉄道事業認可日と事業開始日を括弧書きで追記
区間表記:神戸新交通ポートアイランド線(軌道)の区間表記は以下のようになっています(改行位置・フォント種別は原文準拠)。
過去の経緯から考えると、「中公園~南公園間の単線軌道の特許は1行上の区間と同時に得ていたが、神戸空港延伸の際に市民広場~南公園(単線)・中公園~医療センター(複線)で改めて特許を取り直した」ということを示したいということかと思いますが、ここは括弧書きで未練がましく残すのではなくバッサリ削除(残したければ摘要欄に記載)すべきだったように思います。
2行下の区間表記後半「医療センター」だけが細字であることにも、逡巡の跡を感じます。
単複の欄の記載が不安定
上述のように、区間記載は改行年月日ごとに分割されている一方で、単複の別は考慮されていません。それでもこの欄に記載されるのはせいぜい「単複」「単」「複」の3通りで済むはずなのですが、他にもいくつかの記載形態が見られました
「全線複」(OsakaMetro等)、「全線複線」(東京都等)、「全線単線」(名古屋臨海鉄道)
キロ程記載、区間ごとに単複が異なる場合、それも併記(名鉄等;本記事冒頭の画像参照)
単複欄にキロ程記載があるのは、軌道だけかもしれません
区間の一括記載がない
軌道のほとんど(京阪石山坂本線、OsakaMetro各線以外)において、凡例で言う「各線の一括記載」を示すゴシック体での記載がなく、段階開業した路線は、細かい区間でのみ記載されています
上述単複欄のキロ程記載で、線区全体のキロ数が示されていることもあります
軌道扱いされているモノレールや案内軌条式軌道について、こういうことは起きておらず、各線とも一括記載の行があります
雑感
想像するに、典型的なお役所仕事が行われているのではないかと考えます。
各鉄道事業者には、回答フォーマットが展開され、これを埋めるようにと指示されるも具体的な説明が不足しており、何をどこまで記載したらよいか不明瞭。しかし、回答フォーマットの展開元も単なる下請けであって、どういう基準でどこまで記載するかという明快な指針を示せず、回答内容に多少の不備があってもそのまま受け付けて本の形にまとめて、役所に提出。
役所側はざっと眺めて、明らかな手抜かりが無ければOKを出す(=「~~監修」と書くことを許可する)。……みたいな。
で、そんな中でも明らかに不便な「市外局番不明な電話番号」「電話番号記載なし」などの不備は、どこかのタイミングでフォーマット/テンプレートが変更された、逆に何を書いたらいいかわからない「連絡線」の項目はさらに混沌としてきた、といったところではないでしょうか。