屋久島(二日目)
朝3時半。iPhoneの目覚ましで起きた。昨夜は同室の人の強烈なイビキでほとんど熟睡できなかったが、それでも少しは眠れたようだ。ザックの中身を再度チェックし、玄関に出てみると、予約していたタクシーがすでに待機してくれていた。運転手さんに「すぐいきます」と伝えて、ベッドに戻り荷物を取って外に出た。トランクを開けて待っていてくれたが、荷物がないとわかると、運転手席に戻ってハンドルを握った。まだあたりは真っ暗。
運転手のおじさんは70歳近い高齢と思われたが、会話はしっかりしている(もちろん運転も)。屋久島で生まれ育ったが、東京に48年いて、10年前に奥さんと一緒に屋久島に戻ってきた、奥さんはチャキチャキの東京(神田)出身で、最初は自然豊かな屋久島に喜んでいたが、2年ほどですることがなくなり、帰りたい、帰りたいと言っていると笑っていた。「よく一緒にいてくれますね」と失礼を承知で言うと「みんなからそう言われますよ」との答えに仲が良いのだろうなと思った。屋久島は関東から移住してくる人がいるけど、やっぱり2〜3年で帰っちゃう人も多いとのこと。「飽きちゃうだろね、自然以外に何もないもんね」と達観。家賃は3D Kで大体4.5万円/月が相場のよう。
冬は屋久島の山に6mほどの雪が積もると聞いてビックリ。一番おすすめの時期は3〜5月ごろで新緑が素晴らしいからまた来てみて下さいよ、と言われた。「働かなくても年金で暮らせるでしょう」と水を向けると「いや、カツカツですよ、旅行も行きたいですしね」ということで週4〜5日は乗車されている。貯めたお金で時々東京まで孫に会いに行っている、とおっしゃっていた。
山道を大分登ってきた頃、運転手さんから「ライトは持ってきた?」と聞かれて「いや、持ってきてないです」と答えると「うぁ」と驚かれた。「外は真っ暗ですよ、ほら」とタクシーのベッドライトを消灯すると、本当に真っ暗でなにも見えないではないか!失敗した、と思ったが、ここはもうスマホのライトで行くしかない、そのうち夜も明けるだろう。
4時50分頃、タクシーは紀元杉の先で停車。ここから先は行けないというので、料金を支払い、御礼を言って降りた。少し歩き始めると、寒い!、半袖半ズボンのこの格好でこの時間はまだ寒かった。しかも、スマホの灯りでは足元しか照らせない、空を見上げると、綺麗な星がいくつも見えた。タクシーは狭い道で切り返しをしながらUターンを始めていた。今なら、やっぱやめます!、と言って戻ればタクシーに乗れる、どうしよう、躊躇に心が揺れたが、そのままタクシーを見送った。そしてあたりは本当に真っ暗の闇になった。寒くて暗くて心細いが、仕方ない、スマホの灯りを頼りに、体温を奪われないよう両腕を抱えながら、急ぎ足で歩き始めた。時折、獣か鳥の声が聞こえてきて怖かった。