世紀のクソゲー「労働」におけるイベント「昇進」発生のメカニズム~出世をしたいあなたのために

本記事は主に若手の会社員の皆様、特に会社組織において、出世の階段を登って、キャリア形成したいという方に向けて、会社組織における昇進の内在的ロジックとこれを踏まえた立ち回りやマインドセットについて解説するものだ。
個人的なことだが、最近、雀荘やオフ会などを通じて、自分より若い会社員の方々と接点を持つ機会が少し増えた。会社員の先達として彼らに伝えられるものが少しはあるのではないかと思い、作成している記事である。おそらく、年を取ると説教をしたくなるという、加齢現象そのものだろう。
私自身の経験との兼ね合いもあり、どちらかというと中小企業の部課長クラスへの昇進に目線の寄った記事ではあるが、内容的には大企業、ランクとしては役員クラスまで適用可能な射程の広い記事になっていると思う。

なお、どうすれば昇進できるかのハウトゥは、どうすれば仕事ができるか≒生産性を高められるかのハウトゥと、重なる部分がありつつも、基本的には異なる概念だ。生産性を高めるための仕事術的なものは本記事の射程外である。お含みおきいただきたい。

本記事のポイントは以下のとおりだ。
・キーパーソンは上司の上司
・仕事ができるところをキーパーソンに見える化しよう
・出世は時の運、囚われすぎるな

そもそも、なぜ私たちの多くはなぜ昇進を目指すのだろう。
昇進すると給料が上がる、モテる(私はモテなかったが・・・)、などは当然重要なファクターだ。
加えて、私の個人的な感覚としては、仕事は昇進を目指すつもりでやらないと、あまりにもつまらないというのが大きい。
労働というのは必ずしも楽しいものではないが、否応なしに生活の相当の割合を占めるものである。少しでも充実感を得られるよう、何らかの目標を設定して、ゲーミフィケーションをしていかないと人生そのものがしんどくなるという面は大きいように感じる。
昇進については、ゲームにおけるハイスコアやボスの打倒といったものにたとえるのが個人的には一番しっくりくる感覚だ。
もっとも、これは養うべき家族のいない独身オヤジの浮ついた価値観という側面は否めず、生活上の要請などから、もっと切実に昇進を希求する方も少なくないだろうし、あるいは仕事に対してもっと突き放した価値観の方もいるだろう。ともかく、相当な割合の会社員にとって昇進が重大な関心事であることは間違いない。

それでは、多くの皆様にとっての重大な関心事であるところの昇進は誰が決めるものなのだろうか。
実務的には、あなたに対する人事権は人事部門や上司など、関連する複数のステークホルダーで共有されているものであり、特定個人があなたの昇進を差配するわけではない。
しかし、ここであなたの出世を差配するステークホルダーの中で最も重要な人物を敢えてひとり挙げるとすれば、それはあなたの上司の上司だ。
まず、あなたの昇進を検討する際、1階級上の直属の上司は、他の人事権者に参考意見を述べることはあっても、あなたを自分と同格の役職に引き上げる意思決定者になる事は原理的にできない。さりとて実務部門の情報が不足する人事部が一存で昇進を決定することは、形式的にはともかく、実務的にはとりがたい。
となると、あなたの情報および実務の情報に明るく、あなたの出世の意思決定者に最も近い存在ということで、最も重要になるのは、上司の上司ということになる。

なお、「上司の上司」といったが、あなたが課長を目指す係長だったとして、ここでいう「上司の上司」は部長とは限らない。小さい組織なら役員かもしれないし、何なら会社によっては社長が課長クラスの人事まで差配しているということも珍しくない。キーになる評価者が誰かはそれぞれの組織の実情を見ながら判断していただきたい。

それでは、上司の上司がキーパーソンとわかったとして、次に上司の上司からの評価はどのように獲得すればよいか考えてみよう。
まず、上司の上司の視界にあなたの姿が映らなければ、話にならない。
例えば、係長のあなたが、部の全体ミーティングであなたの主担当業務の進捗や課題を説明する際、課長はその説明を巻き取ってくれるかもしれない。課長は何もあなたの手柄を取ろうとしているわけではなく、めんどくさい説明は自分にまかせて担当業務に集中してくれという意図であり、あなたもそれに甘えたくなるかもしれない。
しかし、少なくとも昇進を目指すのであれば、それではダメだ。仮に課長の説明があなたがインプットした内容そのままで、そのクオリティが十分だったとしても、それではあなたが「できる」ことがミーティングに参加している部長に伝わらないのだ。
あなたの存在と能力を部長に知ってもらうことがまず第一だ。出しゃばれというわけではないが、他人に情報をインプットして、会議の席で説明させるくらいならば、あなたが直接発信しよう。
飲み会に出席して部長に顔を売るのもいいだろう。自分から声をかけたっていい。顔を覚えた下の者がいれば、なんとなく仕事ぶりにも関心が行くというのは自然な人間心理だ。
要するに昇進したいのであれば、キーとなる評価者に対してあなたの存在を見える化しなければ話にならないということだ。知らない人間は推しようがないということをまずは肝に銘じていただきたい。

いやいや、そんなアピールに汲々とせずとも、手柄を立てればよいではないかという主張があるかもしれない。
確かに、信賞必罰は組織の拠って立つところであるから、誰の目にも明らかな成果さえあれば、あえてアピールなどしなくても、あなたをよく知らないエラい人たちもあなたを昇進させる決断をする可能性は大である。
しかし、会社組織における仕事は大抵の場合、チームプレイであり、組織の成果に対する個々人の貢献というのは明らかでないことが多い。また、そもそも論として、部門の業務によっては明示的な成果などあげようのないケースなどいくらでもある。例えば、経理部門における成果とは何なのか考えてみてほしい。
また、会社員生活を長くやっていれば、たまには一発大きな手柄を立てられることがあるかもしれない。しかし、それで上がれるのは一階級がせいぜいだ。場合によっては単年のA評価で賞与が少し増えて終わりかもしれない。継続的に手柄を立て続けて、出世の階段を上がるというのは大抵の人にとってあまり現実的ではない。

従って、組織における昇進の階段を上がるには、手柄ベースよりももっと普遍的で再現性のある手法が必要だ。
それはあなたが「仕事ができる」ということを評価者にアピールすることだ。
ここでいう「仕事ができる」とはどういうことか。
これは例えば、指示を受けたら期限までにきっちりこなす。担当が不明確な業務を積極的に巻き取ってこなしていく。会議を主催する際に論点整理や根回しをして、適切な形で着地させる。取引先との会食のロジを滞りなく進める。トラブルが起きれば、必要な情報を携えて、速やかに上席へ報告するetc、そういう細かいことの積み重ねである。
こういうことをキーとなる評価者に対して見える化してアピールし続けることが、ポストを任せられるという信頼感に繋がり、昇進につながるのだ。
言うは易しで簡単な話ではないが、手柄を立てるよりはよほど再現性が高く、普遍性のあるアプローチだろう。

さて、「仕事ができる」ことを主たる評価者にアピールし続ければ昇進できると、元気よく言いきって本稿を締めくくれればよかったのだが、残念ながらそこまで単純な話とはならない。ここからが本番だ。

例えば、重要な評価者に対して覚えめでたくやっていたところで、そのエラい人自身がもろもろの事情で組織を去ってしまい、積み上げた評価がリセットされるようなケースもある。珍しくもない話なのだが、これは辛い。
それでやってきた新しい評価者と馬が合わず、なんとなく冷遇される。これもよくあることだろう。
もっと極端なケースでは会社それ自体が業績不振で爆発四散して、せっかく積み上げた社内評価がパーなんてケースもあるだろう。
ちなみに全て私の経験談だ。
要するに制御困難な外部事象で出世の速度は露骨に変わるということだ。

外部事象の中でも特にポストの空きがあるかどうかの問題は決定的に重要だ。
例えば、あなたが昇進するとして、そのときの最有力なポストとはどこだろうか。それはあなたが現在、所属している部門の一階級上のポストだ。
あなた自身の知識、経験、メンバーとのリレーションシップなどを考えれば、これは当然のことだろう。
しかし、あなたの狙うそのポストがずっと空かなかったらどうだろうか。
数年おきにコロコロ人事異動する大手総合職の下っ端であれば、そのような心配は不要かもしれない。人もよく動くし、そもそもあなた自身がゼネラリストとして、どんな部署にも異動しうるだろう。
しかし、中小企業に勤めているあなた、あるいは業務経験を重ね、専門性を確立してきた結果、現実的に想定できるポストが限定されてきたあなたなどの場合、そうはいかない。
中小企業で自部門の課長の座を狙うあなた。しかし、現課長はそれなりに居心地よさそうに仕事をしており、さらにその上の部長も同様だとしたらどうだろう。
予見可能な将来において、現在の部長ー課長のラインがそう簡単に動きそうもない状況で、あなたに課長昇進のチャンスがあるかどうか。
これはなかなか難しい。仮にここであなたが何らかの手柄を立てたとしても、組織には秩序というものがあり、特段落ち度のあったわけでもない課長を引きずり下ろすことはできないから、普通なら昇進に値する手柄でも、単年のA評価と賞与増で終わってしまうかもしれない。手柄にもタイミングというものはあるのだ。

それでは見切りをつけて転職すればいいのかというと、そう簡単な話でもない。
我慢していれば、すぐに機嫌よくやっていたように見えた課長が引き抜かれて転職、ポストが空いて、スルッと昇進なんてケースも想定できる。
せっかく蓄積した見えない社内評価のポイントを捨てて転職すれば、またポイントは転職先でため直しだ。
転職するにしても、我慢して昇進後に転職すれば、ずっと良い処遇が得られることもあるだろう。
何が正しくて何が間違っているのか、残念ながら、誰にもわからないのだ。

逆に直属の上司が退職したり、異動になって、席が空き、新しい人の採用も簡単ではないし、リスクもあるので、とりあえず中から誰か上げとくかといった感じで、ヌルっと昇進できるようなケースもある。
こういった状況であなたが直前に手柄を立てていたり、上司の上司からの覚えがめでたければ、通常ではありえないスピード昇進も夢ではない。
さらに早い出世は出世を呼ぶという側面もあり、一度いい感じに昇進すると、それ自体がある種のしごできのシグナルとなり、その後のポジションで手堅い仕事ぶりを見せると、またすぐ昇進できて、昇進先で手堅くやるとまた昇進して・・・といったケースもままある。
私の見るところ、スピード出世する人のかなりの割合がこのパターンだ。能力が高い人が手柄を立て続けているから昇進するなんて、単純な話ではない。

もちろん、こういったチャンスを掴むためには、前述したような日々の積み重ねが必要なのだが、積み重ねたところで、待てど暮らせど、そのときが来ないということもままあるのが現実だ。
結局のところ、昇進については、どんなに頑張ったところで、あなた自身には制御不可能な外的要因が大きく影響することは避けられない。出世なんてそんなものだということだ。

日々の相当割合を割かざるを得ない労働をゲームとしてとらえたとき、スコア(昇進)に対して全く頓着しないと、さすがにちょっとメリハリがなくて退屈だ。
しかし、労働はそれなりの技術介入はあるものの、ランダム要素まみれのクソゲーなので、そのスコアを己の実存と直結させてしまえば、幸運な一握りを除いて、精神が持たなくなる。
ハイスコアを目指して努力を積み重ねる熱いマインドと、ハイスコアの価値それ自体を相対化して、突き放す冷めたマインド、両極のマインドセットを行ったり来たりしながら、ほどほどにやっていく。今の私のスタンスはこんなところだ。

若い皆様が強制参加のクソゲー「労働」といい感じにつきあっていくにあたり、本稿が参考になれば幸いである。

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