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灼熱スイッチの例のコードの3つの解釈
灼熱の卓球娘のエンディング曲で、田中秀和さん作曲の灼熱スイッチ。この曲はサビ頭のコードがBaug/F(Ⅲaug/♭Ⅶ)であることにより話題を呼びました。
今回はこのコードが一体どこから来たのか、そしてそれをどう解釈すれば良いのかについて説明したいと思います。
まずこのコードの出どころを説明したいと思います。
作曲者の田中秀和さんの説明では、直前のB7(Ⅲ7)をBaugに代理させ、かつベースが裏のFに行っているという意図のようです。(田中秀和氏のTwitter)
つまり、サビ前のセカンダリードミナントの解決を1小節遅らせているということです。実際次のコードはEm7(Ⅵm7)でありB7の解決先となっています。
念のため”裏コード“について解説しておくと、裏コードとはあるドミナントセブンスと同じトライトーンを持つドミナントセブンスのことです。
具体的にはB7の裏コードはF7で、どちらも構成音にD♯(E♭)とAというトライトーンを含んでいて響きが似ていることから、両者は割と自由に代理できます。
Ⅲ7からだけではなく♭Ⅶ7から考えることもできます。
Baug/FはF7omit3,5(9,♯11)と構成音が同じであり、F7やB7と似たような機能を持つことも納得がいくのではないでしょうか。
さて、あらかたコード自体の説明が終わったところで、このコードの聞き手としての解釈を書いていきたいと思います。
①裏コード
Baug/FをEm7へのセカンダリードミナントとして捉える考え方です。
前述の通り、素直に解釈すればBaug/FはB7やF7と同じ機能であり、進行先のEm7とも整合します。
作曲者の田中秀和さんの意図もこれであり、実際こう聞こえた方も多いと思います。
②トニック
実は私が初めてこの曲を聞いたときには、多少の違和感は感じたものの、トニックであるEmのような印象を受けました。
私が初めてこの曲を聞いたのはアニメのオープニングとしてであり、あまり音質が良くないスピーカーで聞いていたことからベース音がほとんど聞こえていなかったことも一因だと思います。
しかし理論的にも、絶対的にこれが間違っているとは言い切れないと私は考えています。
まず前提にあるのは、サビ前のB7を聞いたら、人は無意識にEmへの解決を期待するということです。
その前提に立って考えてみると、意外とEmとB aug/Fを聞き間違えるのは、ありえないことではないと思います。
まず、Baug/Fの構成音はF,B,G,D♯です。
次に、Emの構成音はE,G,Bです。
B,Gが同じ構成音です。そして残るF,D♯とEは半音違いの関係にあり、意外と近いことが分かると思います。実際の演奏でもEがFやD♯に近づくことはままあることなので、歪んだトニックとして考えることも可能だと思います(ベースが聞こえなかった場合は特に)。
また少々無理な解釈をすると、Baug/Fというコードは、ブルーストニックであるG7(Ⅰ7)の第三展開形の5thが半音上に変異した、と考えることも可能ではないでしょうか。
実際他の曲でもこのように捉えられるものがあります。同じく田中秀和氏作曲の『Polaris』のサビの最後のコード進行は少し省略するとⅡm7→Ⅴ7♭9→Ⅰaug/♭Ⅶであり、この後すぐにAメロ最初のⅢm7に接続します。
③サブドミナントマイナー
私は明らかな♯5(Ⅲ7の3rdやⅠaugの5th)でなければ大体♭6に聞こえる耳をしているので、Baug/Fを聞いたときにもサブドミナントマイナーの雰囲気を感じました。
実際Baug/Fの元となっていると考えられるコードのF7(♭Ⅶ7)はよくサブドミナントマイナーとしても用いられるコードであり、あながち間違いでもないのかと思います。
前後関係を考えるとBaug/Fをサブドミナントマイナーと考えるのには無理があるかもしれないとも思いますが、複数の解釈のひとつとしては有力ではないでしょうか。
まとめ
分数augは機能的に多義性のあるコードであり、様々な解釈が可能だと思います。
ここでは裏コードとして使われていますが、サブドミナントマイナーとして使われている曲も多々あります。
この記事がコード理解の一助になれば、大変嬉しく思います。