『社会疫学』から学んだこと
※このnoteは、普段「社会的処方研究所オンラインコミュニティ」内で公開している文章になります。社会的処方研究所オンラインコミュニティは、「薬ではなく、まちとのつながりで人が元気になるためのしくみ」である、社会的処方を学び、実践し、広めていくためのオンラインコミュニティになります。
※背景としては、2019年11月から、このオンラインコミュニティ内で、イチロー・カワチ先生らが編集された『社会疫学』を読もう!という企画が立ち上がったところから始まります。上下巻合わせて850ページもある、しかもハーバード大学の教科書にも用いられている難解な専門書。でも社会的処方の理解のためには、読んでおきたい基礎的な本。これは医療者ではなくても読んでおきたい!ということから、毎週少しずつ、僕が解説を加えながら読み、みなさんのコメントを加え、8か月かけて完結したのでした。今日の文章は、その8か月一緒に勉強会を頑張ったオンラインコミュニティ内の皆さんへ書いた、僕からのメッセージになります。
『社会疫学』から学んだこと
皆さん、お疲れ様でした。
去年の11月からこのオンラインコミュニティ上で週1回開催してきた『社会疫学』勉強会も、今日で最終回です。よく8か月間も続けたなあ、とも思いますし、皆さんにコメントを頂いたりしたことで続けることができたんだなあ、とも思います。この8か月の間に、様々な災害や感染症の影響など、社会が大きく変わる出来事もありました。「人とつながることが悪いこと」という風潮も一時期あったかと思います。でも今改めて、人はやはりつながりの中で生きるものだということを強く感じています。
これから、貧困や社会の分断を背景に、健康格差は急速に広がっていくでしょう。それはいずれ来る未来ではありました。それまでの時間をかけて、僕らもゆっくりと準備ができるはずでした。しかし、COVID-19の影響でその格差拡大のスピードは、一気に速まるでしょう。僕らが『社会疫学』で学んできたことは、いまの世の中だからこそ必要になってくると予想しています。
僕らが『社会疫学』で学んだ一番大切な原則とは「人の健康を決定するのは、個々人の行動や意識の持ち方だけではなく、社会的文脈が大きく影響する」という点です。健康とは個人レベルの要因だけではなく、グループやコミュニティレベルの要因によっても影響を受けることが明確になっています。
子供時代の健康格差は一生ついて回る問題であり、そして健康格差は高所得者にとっても人ごとではないことを学びました。教育と雇用、環境の重要性を知り、そして人に健康行動を促すための行動経済学の素晴らしさと、その危険性についても学びました。
社会的処方は、社会的孤立を解消するための未来ある方法のひとつです。その礎となる社会疫学について学んできたこの8か月間は、僕らにとって大きな財産になると思います。ぜひ時間がある時に、このシリーズをまた最初から読み直して頂ければと思います。そして、もし余力がある方はぜひ原典にあたってみてください。この勉強会の中では取り上げなかった大事なことがまだまだたくさんあります。そして、社会疫学の分野も、他の医学分野と同様に新しい研究や知見が日々生まれています。僕らもその情報をこのコミュニティで、できる限りピックアップしていければと思っています。
そして最後に。少なくとも日本において、研究や知見は進んでいったとしても、その現場での実践がまだまだ不十分であるのが現状です。ひとことで言えば、知見が現場で生かされていない。僕らは、社会的処方という視点を通じて、どんどんと実践を行っていく必要があります。国の報告書にも社会的処方の文字が躍るようになり、これから制度としての取り組みはじわじわ加速していくでしょう。「社会的処方を文化にしていく」ということを目指して、現場レベルでの実践も盛り上げていかないとなりません。あくまでも僕らは「楽しみながら、やる」。その実践の枠組みについても、これから皆さんと考えていきたいと思っています。
今後もよろしくお願いします。
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