見出し画像

だから、もう眠らせてほしい ~安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語

 僕はある夏、安楽死を願った二人の若い患者と過ごし、そして別れた。
 ひとりはスイスに行く手続きを進めながら、それが叶わないなら緩和ケア病棟で薬を使って眠りたいと望んだ30代の女性。そしてもうひとりは、看護師になることを夢見て、子供たちとの関わりの中で静かに死に向かっていった20代の男性だった。

 そして僕は医師として、安楽死を世界から無くしたいと思っていた。
それは安楽死制度を無くしたいという意味ではない。仮に安楽死制度があったとしても、それを使いたいと思う人をゼロにしたいという思いだ。
 オランダで年間6000人以上、ベルギーでは4000人以上が安楽死で死亡し、そして日本でも70パーセントの方が安楽死に好意的な状況の中で、安楽死をゼロにするなんていうのは馬鹿げた夢物語だと思われるかもしれない。でもそれは人の成すこと。そこに「絶対」はない。
 安楽死制度はいずれこの国でもできるかもしれない。でも僕たちはその制度が育つことを上回る狂気で、「死にたくなくなる」手立てを育てていきたいと思っていた。

 そんなとき、二人の患者に出会った。僕は二人と過ごした時間を通じて、生きること、そして死ぬことについて深く考えさせられた。人の死生に対する緩和ケアの可能性と、その限界も。
「緩和ケアがあれば、安楽死はいらない」
と多くの人が言う。でも、それは本当だろうか。すべてのひとに当てはまることなのだろうか。少なくとも現状において、僕はそこまで楽観的にはなれない。でも、その言葉が真実になるヒントを、二人はその姿をもって僕に教えてくれた。
 そしてこの二人との物語と並行して、僕は「世界から安楽死を無くしたい」という思いを胸に、その可能性を探る旅に出た。写真家で多発性骨髄腫をかかえる幡野広志、世界中の安楽死の事例を取材して紹介した宮下洋一、そして2名の医師たちに、安楽死と緩和ケアを巡るそれぞれの思いを聞いて回った。
 ときには大きく頷く話もあったし、厳しい現実の切り取り方に背筋が寒くなることもあり、また別のときには僕の顎が外れるほど驚くような話もあった。

 僕は二人が懸命に生きた記録を、僕らがそこで交わした言葉を、残しておきたい。そして4人から聞いた「世界から安楽死を無くす」ためのヒントをどうしてもみんなに伝えたい。そう思って筆をとった。
タイトルは
『だから、もう眠らせてほしい~安楽死と緩和ケアを巡る、私たちの物語』
である。

書籍化のため20万PVにチャレンジする

 僕がこの記録をnoteで発表しようと準備している間、とある出版社さんと縁があり、物語を本にしませんかという話になった。それはもう願ったりかなったりだ。インターネット上でひっそりと公開するよりも、ぜひ書籍として日本中の人に読んでもらいたかった。ぜひぜひ、と話を進めたかったが、何せ僕は無名のいち医者である。医学の教科書であればまだしも、一度も書いたことがない「物語」を書いて世に出すというのは相当な冒険だろう。
 だから僕らはこのnoteを使って、ひとつのチャレンジをすることにした。
 それが「20万PVを獲得したら書籍化」というチャレンジだ。
僕が書き上げたこの物語をnoteで公開し、「20万PV」を達成せよ、というミッションである。
 ちなみにこれがどれくらいのチャレンジかということをお話したい。分割して公開する章もあるので、計算すると概ね1記事につき1.5~2万PVあれば目標が達成できる。しかし僕はこれまでnoteの記事で2万PVを達成したことは一度もない。年間PVですら10万くらい。その倍の数字を3か月ほどで達成しなければならない。しかも、途中からは「有料note」での公開になる。
 なかなかに無謀だ。でもたしかに、それくらいでなければ「チャレンジ」とは呼べないかもしれない。

 今日から3日間、「プロローグ」、「第1章 止まってしまった心――吉田ユカの場合」、「第2章 もう一人の安楽死――Yくんの場合」を順次公開していく。
 その後は毎週木曜日に記事を更新して公開していく予定だ。
 僕は、「安楽死をしたい」と望んだ二人と何を語ったのか。
 二人はどのような人生を歩んだのか。
 幡野・宮下らが、「安楽死を世界から無くしたい」と宣言する僕に、どんな言葉を返したのか。
 そして僕らの物語はどういう結末を迎えるのか――。
 ぜひ多くの方に見届けてほしい。

目次・公開予定

・プロローグ
・1:止まってしまった心――吉田ユカの場合
・2:もう一人の安楽死――Yくんの場合
・3:暮らしの保健室
・4:スイスに行けない
・5:安楽死に対峙する、緩和ケアへの信頼と不信~幡野広志と会う
(前編/中編/後編)
・6:安楽死の議論はやめたほうがいい~宮下洋一に会う
(前編/後編)
・7:いのちより、希望を守りたい
・8:もし未来がわかったなら
・9:吉田ユカとの対話
・10:10日間 (前編/後編)
・エピローグ (前編/後編)

※プロローグ~2までと、幡野さん・宮下さんのインタビュー記事「前編」は無料公開です。その他は1記事100円にて公開です(公開後3日間は無料)。全てご購入頂いた場合は1200円となります。
※タイトルなどは予告なく変更される場合があります。
※この物語は、事実をもとにフィクションを30%くらい混ぜて再構成したものになります。患者の情報については、特定を避けるために設定を一部変更、または本人・家族から掲載許可を得ています。

お話を一気に読みたい人、更新されたら通知が欲しい人は、こちらからマガジン「だから、もう眠らせてほしい」をフォローしてね↓

次のお話はこちらから↓


いいなと思ったら応援しよう!

西智弘(Tomohiro Nishi)
スキやフォローをしてくれた方には、僕の好きなおスシで返します。 漢字のネタが出たらアタリです。きっといいことあります。 また、いただいたサポートは全て暮らしの保健室や社会的処方研究所の運営資金となります。 よろしくお願いします。