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死の直前の熱
先日、X(Twitter)にて「死の直前の熱」に関するポストにリプライしたら、けっこうな反響を頂きました。
死亡される1日前くらいに発生する発熱は、いわゆる「終末期の発熱」で、抗生剤も解熱剤も大きな効果が出ないことがほとんどです。
— 西智弘@川崎医師 (@tonishi0610) August 24, 2024
それを見極めて「抗生剤投与の意味は無い」と判断して、家族に説明することが多いです。
もちろん、予後がもっと残っている感染性の発熱へは抗生剤投与します。 https://t.co/SSr7hr5W7u
意外と、関心の高い話なのかなー、と思ったのでもう少し詳しく「死の直前の熱」について解説して、その熱に対して抗菌薬や解熱剤を投与することにどんな意味があるのか、まで考えてみましょう。
ちなみに雑誌『緩和ケア』でも以前にこの領域の特集を組んだことがあります。もう5年前ではありますが、良くまとまっていますので図書館のバックナンバーなど漁ってみてください(アマゾンでは新品はもう売ってないようなので)。
「死の直前の発熱」についての文献があまりない
そもそもですが、ここで話題にしているのは「亡くなる24~48時間くらいに発生する、38℃を超える発熱」のことです。
しかし、文献的には「終末期の発熱」を話題とするとき、「亡くなる1~2週間前から発生する熱」を取り上げることが多くて困ります。なぜなら、この両者は時間的には大きな隔たりが無いようにみえて、そこで起こっている病態はまったくの別物だからです。
例えば、終末期がん患者さんの71~100%で発熱は発生し、そのうち57~77%は感染症が原因とされています。そのうち、尿路感染症が約40%、呼吸器感染症が約35%を占め、抗菌薬による治療では呼吸器感染症は33~50%の治療効果なのに対し、尿路感染症は67~92%の効果があるとされています。
こういったデータを見る限り、予後が1~2週間残っている患者さんの発熱については、身体所見で感染のフォーカスが明らかではなくても、感染症(特に尿路感染)の可能性を考えて抗菌薬を投与してみる、というのは症状緩和につながる可能性が高く、試みてみる価値があると考えられます。
ただし、生存期間が2週間以内の患者さんについて、いずれの感染症でも抗菌薬の投与は症状改善にはつながらず、むしろ倦怠感やせん妄を増加させる、といった報告もあるため、漫然と投与を継続すべきではないともいえます。
また、亡くなる1週間以内の抗菌薬投与例ではわずか9.2%の方にしか症状改善を認めなかった、という報告もあります。
そして、亡くなる24~48時間以内の発熱については、僕の個人的な経験になりますが99%の方で症状改善の効果は期待できないと見ています。ちなみに、その時期では解熱剤も、症状緩和にあまり有効な手立てであると言えないのではないかと考えています。
では、死の直前の熱にどう対応したらよいのか
抗菌薬も、解熱剤も大きな効果が期待できないのであれば、死の直前の熱に対して医療者はどのように対応したらよいのでしょう。
実際には、そもそも「いまの状態が死の24~48時間以内なのか」を見極められる医者はあまり多くないのではないかと思います(そういう研究結果もあります)。そのため、「余命がどれくらいあるか分からないから、とりあえず抗菌薬を投与してみる」とされている臨床現場がほとんどではないでしょうか。
抗菌薬を投与することそれ自体は、患者さんに与える苦痛がそれほど大きくなく見えるので、あまり深く考えずに「熱がある→抗菌薬」と開始しているでしょう。解熱剤も同様です。しかし、先述した通り、抗菌薬の投与は特にせん妄の悪化に結びつく可能性があり、一定の確率で穏やかな看取りを阻害します。安易に抗菌薬を選択することは避けるべきでしょう。
また、死の直前の熱に対する抗菌薬の投与が、僕の感覚通り1%程度の効果、また論文通りに「1週間以内の予後の患者さんへの抗菌薬の症状緩和効果は10%以下」であるとした場合、効果がある確率よりも効果が出ない確率の方が高いわけです。
その場合、付き添っている家族に対してあなたは医療者としてこの顛末を何と説明しますか?
「熱に対する効果を期待して薬を投与しましょう!」
と告げて開始しても、90%以上の確率で、その作戦は失敗するのですよ?その時に、どのツラ下げて家族と対峙するのですか?しかも、その時点で残されている時間はあと数時間。「この薬も効きませんでしたね・・・」と伝えて、そんな、無力感にまみれた死を演出するのですか?
もちろん、医師によっては「とにかく全力を尽くしました!」という形での看取りの作法を得意とする方もいるのかもしれません。それならそれでも良いかと思います。
でも僕はどちらかというと「死とは自然のものである」という看取りをお伝えしたいと考えています。呼吸が変化していくのも自然、脈が弱くなっていくのも自然、そして熱が出るのも自然の経過なのです。
僕は、きちんと診察をしたうえでご家族に、
「熱が出ていますが感染の兆候はなく、恐らくは病気の勢いが強まっていることでの熱だと思われます。抗生剤や解熱剤は効きにくい熱です。ただ、熱が高いのはつらいと思うので、体を冷やすケアをしていきましょう」
といった話と、死が迫っている話をします。
そこでのポイントは、
・死が差し迫っている点
・薬の効果が期待できない点
・でも、できることはあると伝える点
を、きちんとお伝えすることです。
医師が落ち着いてこれらの言葉をきちんと伝えることが、家族が看取りをする上での大きな力になります。
特に最後の「でも、できることはある」とお伝えすることが一番重要です。「自然な経過だから、仕方ない」と諦めさせるのではなく、最後の最後まで、希望をもってもらうことが必要だからです。
薬の効果が期待できなくても、体を冷やしてあげることで本人はきっと楽に過ごせているはず、扇風機や団扇で風を送ってあげることが良いというエビデンスもあります。それを最後まで、みんなでやっていきましょう・・・とお伝えすることで「私たちは最期の瞬間まで、患者さんをケアし続けていきますよ」という姿勢を伝えていくことが大事なのです。
マガジン購読者の方々には、この「死の直前」における極意をもう少しお伝えしていきます。多くの医師は「これ」ができないから、看取りの直前をバタバタにしてしまうのです。
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