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父親との約束

夏休みに入って、我が家の三兄弟に、それぞれやりたいことを訊ねた。

小学生の三男は、水族館に行きたい、海水浴に行きたい、プールに行きたい、と魚座さんだからか、水に関係することばかりを希望した(星座は関係ないか)。

次男は、こちらから何も言わなくても、
自由研究で台風のことを調べたい、
と言い出したので、
いやいや、そんな課題じゃなくていいのよ、
と話すと
じゃあやっぱり海水浴かな、もうキャンプに行くことにはなっているし、
とのこと。キャンプは、1時間半くらい車で走った場所へ行き、同じクラスの友達数名と行く予定になっている。

中学生の長男は、
部活(陸上部)。100mで記録残して、県の合宿に行きたい、
と、マジメな回答が返ってきた。
中学に入ってさらに背が伸びたことと、顧問の先生や先輩からのご指導の賜物か、田舎の小さな中学校の陸上部の中では、それなりに期待されているようだ。
(先日、地区の大会を観に行き、いよいよ彼が決勝のスタートラインに立った時、近くにいたクラブの先輩(女子)が「〇〇(我が家の苗字)、ファイトー!」と叫んでいるのを見て、イラッときた。私は運動部に所属したことがないので、呼び捨て文化になじまない。女子からの声援だったので、余計にそう感じた、のかもしれないが。)

わかった、わかった、3人の希望は承ったので、中学校の部活がない時に、海水浴は無理でも、プールは絶対行きましょう、水族館も検討しましょう、と約束した。
さらに、他県で開催されている、有名なアーティストの個展を見に行きたいし、遠方である研修会のついでに近くの博物館に連れて行ってあげるわ、と私からの要望も伝えた。

そうこうしているある日、長男からLINEが入る。彼にはiPadしか渡してない上、家でしか使えない設定にしているので、部活から自宅に戻ったのだろう。

母さーん、
お父さんに「誕生日おめでとう」って送った方がいいかな?

そうだった。
この日は、ただ今、絶賛別居中の夫の誕生日だった。
たしか、朝のテレビ番組に出てくるキャラクターはクラッカーを鳴らし、家族の誕生日だということを伝えてくれていたではないか(夫が別居する前に子どもたちが家族の誕生日を入力していた)。

それに合わせて、おそらく8月の勤務が発表されたと思うから、いつ会えるのか、たずねてみたら?
と長男に返した。

私は子どもたち同様、平日勤務、基本的に9時→5時の仕事だが、夫は規則的な不規則勤務で、日勤や夜勤があり、平日も土日も祝日も、お盆も正月も関係なく仕事が入る(逆を言えば、休みも入る)。
その夫と彼らが最後に出会ったのは、ちょうど1年前、去年の夏休みだった。
そこから冬休みに会おうとしたが、子どもたちは、あっさり断られた。春休みは、子どもたちから声もかけられずに終わった(もう断られるのは嫌だ、気もつかうし、と次男は言っていた)。

さあ、今回はどうなるのか。
決まらなきゃいいのにさ、と、イジワルな思いを抱えつつ、帰宅すると、

母さーん、アドバイス通りにしたら、父さんとの約束、決まりそうだよ、ありがとう!
と、長男の声が聞こえてきた。
チッ、と内心舌打ちをしつつ、よかったね、と心ない返事をする。
どうも夫は、お盆をはさんで二日ずつ、あわせて四日間の平日を指定してきた。そのうち、三日間は長男の部活動、残りの一日は次男三男の書道教室のある曜日だった。
ただ、書道教室は月に3回しかなく、もしかしたら父親から示された候補日が休みになる可能性もあるので、とりあえず部活のない日、ということで返答したらしい。

それから二日後、書道教室から帰ってきた小学生の2人が、
ダメだ!お父さんと会う日、書道教室は休みじゃない!夏休みの宿題とか、課題をいっぱいしなくちゃいけないから、絶対休めないよ!
と騒ぎ出した。

それ見たことか、と、またまた私はイジワルモードになっていた。
長い休みとは言え、部活をがんばっている中学生が遊びに行ける日は少ない。あえて言うなら、日曜日とお盆期間だ。
しかし、人混みが苦手な夫は、そうした日に出歩くことを極端に避ける。

だったら、先に子どもたちに対し、良さそうな日をリサーチし、自ら仕事を休めばいいではないか。
それもせず、選択肢の少ない提案をされた子どもたちは、健気にも、なんとかその中から遊びに行ける日を考えるのだが、結局無理なのだ。

正直に事実を伝えなさい、仕方ないじゃない、
と、子どもたちに伝えた。

結局、長男の部活動終わりに、迎えに来る、とのこと。大会が近いので、次の日の練習のために、長男は身体を休めたいところだが、そこから1時間くらいかけて父親が住む街に行き、食事や買い物をしてくることになるのだろう。

さて、我が子が父親と再会する日が決まって数日後、職場の下側の上司である先生(ここでの呼び方。研究好きなので。平たく言えば私の不倫相手)が、

8月〇〇日、飲みに行きませんか、
と、私と、仲良しの同僚を前にして言い出した。

マンガなら、ゴクっと唾を飲むようなシーンのような感覚だった。
なぜなら、その指定された日が、子どもたちと父親との約束の日だったからだ。

私としては、私が1人、子どもたちから自由になる日など、なかなかないので、近くの温泉に行って、そこのリラクゼーションでも予約しようかしら♫
と、考えていたのだが、
まさかその日に、先生と飲み会になるとは思わなかった。

まあでも、他の同僚も含めてだし、ちょうどいいではないか。ということで、明るく承諾した。
ついでに、その場にいたのが、別居中の夫のこともわかってくれているメンバーだったので、
その日、子どもたちが1年ぶりに父親と夕飯食べに行く日なんです、
と、やんわり伝えた。

あとから電話で、
〇〇さん(私)を送っていってあげたいけれど、他の同僚たちもいるから、何時に終われるかわからないし、
もしも元夫……いや、まだ別れてなかった、旦那さんが、〇〇さんが帰ってくるのを待っていたとしたら、またややこしいかも、

と、先生から相談があったので、

先生、お気遣いなく。私は子どもたちから帰宅と、夫が我が家から出発した、という連絡があれば、すぐに子どもたちの元に戻りたいので、自分の車で行きます、
と伝えた。

子どもたちは、夏生まれの父親に誕生日カードを用意しよう、と話し合っている。
その前に、あなたたちの誕生日プレゼント、まとめてもらったら?
と、私は提案した。
三男は
レゴがいい!
長男は
靴かな、
無欲の次男は、考え込んだままだ。

ついでに「ちょっと生活費もほしいな」と、お父さんに頼んでみてよ、
と、私がマジメモードで話すと、

3兄弟から
それは無理だー!
と返された。

とにかく、無事に帰って来れますように。

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