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綺麗な音と汚い音
あなたの曲は綺麗な音がしますね、と言われたら嬉しいですか?
それは「いい曲ですね」という意味かもしれないし、「いい録音状態ですね」という意味かもしれない。「(曲は好きじゃないけど褒めるところがないからとりあえず)綺麗な音ですね」というしかなかったのかもしれない。
逆に「汚い音ですね」とは言われたことがない。汚い場合には「ノイズがのっている」とか「位相がおかしい」とか「ピッチが合ってない」などと、具体的に言われるからだ。
そもそも綺麗な音とはどういう音だろう。純粋で混じり気がない音だろうか。であれば、単純なサイン波だって綺麗な音だ。無理矢理考えるなら「大きい音で再生しても心地よく聴いていられる、どちらかと言えば明るい音」というのが最大公約数的な回答だろう。サイン波はちょっと音がキツイかもしれないけど。
DTMを始めたころ、市販の音楽と比べて自分の音が劣っているのを気にしていた時期があった。それは音圧の低さとかではなく、音楽としての佇まいがどことなく小ぢんまりとしているという自覚だった。
自分の音を絵に例えるなら、終わりかけの線香花火のよう。光ってはいるものの、直径が小さい。線香花火の始まりは、火花が時折外に飛び出して、実際の火薬部分の玉とは比べ物にならないほど直径が大きく感じられる。
花火の形はいわゆるコロナ型。コロナは王冠。王冠には尖った部分がある。尖った部分が無ければベレー帽のように小さい王冠になってしまい、なんだかおとなしくなってしまうだろう。
そう、尖った部分が汚い音なのだと気づいた。一音一音が綺麗な音で作られた音楽は、直径が小さい。音楽を構成する音の何割かに汚い音を入れると、曲の直径が大きくなる。そんなふうに感じた。そしてほどなく、デモテープが認められてオーディションに受かった。
(BNN社「Logic Pro で曲作り!」より)