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過去のレコ評(2018-6)

(2018年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「POLY LIFE MULTI SOUL」cero
カクバリズム
DDCK-1055

これまでの作品に比べてブラジル音楽に近いと感じたのは自分だけだろうか。とはいえブラジル音楽にも様々な種類があるのだが、強引に言えば「高い演奏力が裏付けとして存在する曲線的な音楽」とでもなるだろう。その傾向は2,4,5曲目によく表れている。複雑ながら繰り返されることで心地よくなるリズム、その上を縫うように鳴るエレピやガットギターという音色、凝ったコード、そして張らないボーカル。中でも、特筆すべきはオクターブのコーラスワークだ。ピッチやリズムを几帳面に直してしまえばR&B的な響きになってしまう。適度にバラけたコーラスワークが、風通しの良さを演出する。これが出来るのも、高い演奏力ゆえである。予定調和的ではない世界観は、歌詞からも感じられる。ちなみにアルバム後半はヒップホップ的なリズム要素が増えていき、より肩の力を抜いて聴ける。

「In The Rainbow Rain」オッカーヴィル・リバー
Hostess Entertainment Unlimited
HSE-4540

楽器が楽器らしく気持ちよく鳴り、それらのアンサンブルに乗せて歌が紡がれる。そんな快感を思い出させてくれるバンドだ。その点においては前作と全く変わりはない。しかし質感が違う。ひとつはリバーブの深さとのリバーブの高音域の多さ。これは明らかに現在進行形のポップスの傾向だ。もうひとつはリズムのコンプ処理。高音域が少ない上に、アタックがかなり押さえ込まれていて、リスナーの胸から腹の部分に響く感じがする。リスナーの再生スピーカー環境が世界的に良くなっているのだろうか。もしかしたら、カナル型イヤホンの普及に合わせて、脳内を包むように聴けることを意識しているのかもしれない。真偽のほどは分からないが、これが時代の空気なのだろう。それは間違いない。

「Singularity」ジョン・ホプキンス
Hostess Entertainment Unlimited
HSE-1302

apple musicには「エレクトロニック」というジャンルがある。ジョンホプキンスも「エレクトロニック」に分類されるひとりだ。しかし考えてみると「エレクトロニック」は手段を指す言葉でしかない。一昔前ならテクノと呼ばれてのだろうが、彼の音楽はより有機的だ。繰り返されるリズムはダンスミュージック的であるし、呼び起こされる感情からすればオルタナティブとも言える。例えば彼と同世代のオーラヴル・アルナルズやニコ・ミューリーは、クラシック音楽の素養がある点で共通するものがある。しかしリズムに対する感覚において、彼らとは一線を画す。リズムの捉え方が音響的というには下世話であり、歌心がある。鬱蒼とした方向に向かわないのが現代的なのだ。色々言ったが、要はポップなのだ。

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