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過去のレコ評(竹書房vo.21-25)

vol.21
ジョニ・ミッチェルとジャコ・パストリアスの音世界「シャドウズ・アンド・ライト」
ジョニ・ミッチェルは60年代後半から活躍している女性シンガー・ソング・ライター。
そしてこのビデオは、1979年、彼女が凄腕ミュージシャンを集めてカリフォルニアで
行ったライブ映像だ。
それぞれのメンバーは、それぞれ自分のアルバムを作るほど力量があり個性的だ。
だからと言って、個性を主張してバラバラになっているわけではない。
彼らは「音だけの世界」で何が良いかを共有している。
だから、彼らの音は一つの方向を向いている。
その会場には派手な照明もなく、服装もみんな格好悪い。
彼らは「音だけの世界」に生きている。
メンバーの一人、ベースのジャコ・パストリアスはアルコールとドラッグで壊れてし
まう寸前だ。
リハーサル中にいなくなってしまい、随分後に泥だらけになって帰って来るなど、こ
の頃から奇行が始まったと言われている。
彼は率先して、「音だけの世界」というユートピアに向かったのだろう。
そして87年に亡くなってしまう。
悲しくも美しいこのステージを、是非多くの人に体験してもらいたい。

vol.22
カサンドラ・ウィルソンの永い命「トラヴェリング・マイルス」
音楽に触れること。それは人に触れること。
音楽に憧れることは、その音楽を作った人に憧れること。
カサンドラ・ウィルソン。彼女に憧れて僕らはこのDVDを見る。
カサンドラは既に、現在のジャズ界で崇拝されている存在。
その魅力を一言で言うと「器の大きさ」。
けれども、現在の自分に安住していない。
今もまだ、音楽を続けることによって、なりたい自分に近づこうとしている
その彼女が憧れるのは、マイルス・デイヴィス。
彼女はマイルスを崇拝し、その精神をフォローする。
今はもう死んでしまったマイルスだけれども、彼女の中で生き続けている。
またカサンドラも、マイルスが音楽を作り始めた1940年代からの人生を生きることが
できる。
マイルスが試行錯誤を続けた長い年月をも、自分のキャリアにすることができる。
そして、このDVDを見る僕らは、カサンドラの人生とマイルスの人生と彼らに影響を
与えた人々の人生を生きることができる。
こうやって僕らは永い命を得ることができる。

vol.23
エヴリシング・バット・ザ・ガールの普遍性「哀しみ色の街」
久々に彼らの音楽を聴き返して思ったこと。
このアルバムは「アコースティックな2人組」であった彼らが1996年に、
ドラムンベースと呼ばれるクラブ系打ち込み音楽に転向した一作とされている。
つまり当時は、これまでのファンを裏切る「新しい」音楽だったのだ。
しかし今聴き返してみると、意外にオーソドックスな音楽であることに気づく。
「新しい」ものというのは得てして、何年か経ったら古くなってしまうものだが、そうではない。
理由その1。「曲の骨格が、これまでの良き音楽を踏まえていること」
だから、打ち込み音楽でありながら、ギター一本でも曲として成立する。
理由その2。「生楽器本来の音を、彼らが知っていること」
リズムは意表をつくものでありながら、一つ一つの音は耳に馴染むものだ。
理由その3。「歌心が染み渡っていること」
これは説明するまでもないだろう。
これら3つの理由に共通すること。
それは、過去の音楽にリスペクトを持っていることだ。
過去へのリスペクト、それこそが新しくも普遍的になり得る条件である。

vol.24
ザ・バンドの息「ラスト・ワルツ」
息の合った演奏、という言葉がある。
息、つまり呼吸のタイミングを合わせたような演奏。
演奏すること。それは歌うこと。
ドラムはドラムのフレーズを、ベースはベースラインを歌う。
それが演奏するということ。
歌う間は息を吐く。
そしてフレーズの継ぎ目で、息を吸う。
その、息を吸うタイミングが揃っていること。
それが息のあった演奏だ。
特にザ・バンドの場合は、実際にリードボーカルを取るメンバーが3人もいる。
そんな5人のメンバーが、5つの方向から一つの同じ歌を歌っているのだ。
このDVDは、ザ・バンド解散の際に撮影され映画になったもの。
解散するときも、彼らの演奏は息が合っている。
それは音楽の力。
それは歌の力。

vol.25

スケッチ・ショウの美しさ 「tronika」
「世界平和のために我々が出来るのは、日々の生活の美しさを維持すること。
そして、その美しさにひたすら拘ることだけだ」と、誰かが書いていた。
残念ながら今の世の中では、声高に平和を主張しなければならないときも確かにある。
しかし、毎日デモを繰り返しても、そのメッセージは色褪せてしまう。
そうではなくて、誰にでも毎日出来ることは、日々の生活を良いものにしたいと願い、
美しいもので身の回りを満たすこと。
例えば、おばあちゃんから受け継いだ家具、きちんと整理された写真のアルバム、
お気に入りのレコードやCD。
これらを壊されたくないと、世界中の人たちが願うこと。
そして、世界中の人たちがそう願っていると信じられること。
みんながそう信じれば、世界は平和に回り続けることが出来る。
スケッチ・ショウの2人、高橋幸宏と細野晴臣は、きっとそう信じている。
今回発表された彼らの傑作ミニアルバムには、
CDエキストラとしてプロモーションビデオが収められている。
それは、音と同じくらい、面白く、美しく、びっくりする映像。
内容は敢えて言わないが、言葉の喋れない子供や言葉の通じない異国の人とも
一緒に楽しめる映像であることは間違い無い。
世界中の人が、このビデオをそしてこのミニアルバムを美しいと思ってくれますように。

(竹書房「Dokiッ! 」にて2001年から連載「ボクが音楽から教わったこと」より)

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