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過去のレコ評(2019-1)
(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)
「Suspiria (Music for the Luca Guadagnino Film)」トム・ヨーク
重苦しくも美しいトムヨークの新作アルバムは、ホラー映画のサウンドトラック。同じレディオヘッドの中では、ギタリストのジョニーグリーンウッドが着々と映画音楽作家としてのキャリアを積んでいる。ジョニーはポールトーマスアンダーソンのような大作系の映画監督と組むことが多く、弦楽器を主体とする音楽を多用する。それに対し、ボーカリストのトムはどうか?音響による心理描写のインストもあればボーカルものもある。通底するのはアナログな質感と浮遊感。例えば10曲目。マイクを通したメランコリックなピアノに、いつのまにかシンセが絡みついている。5拍子の不安定なノリを、途中から不穏なベースが支える。映画音楽らしさとトムらしさが軽々と共存している点に瞠目。
「POP VIRUS」星野源
ファーストアルバムが発売された時、彼が今のような存在になると誰が予想したろうか?当時は、密閉された空間の似合う歌詞でありアレンジであった。では曲はどうか?実は、曲自体の骨格はそれほど変わっていない。ヨナ抜きを多用し、アコースティック楽器に対して素直な音遣い。例えば細野晴臣など、欧米のポップスを血肉化したこれまでの音楽への憧憬。それらを包み隠さずアルバムを作り重ねてきて、このところひとつの「勝ちパターン」を見出したようだ。それは、アニソンやニコ動のテンションに追いつくべく速くなったBPM。さらには、グリッサンドの多いストリングスの多用。そして今回のアルバムでは、5,8,9曲目及び朝ドラ主題歌「アイデア」のテレビでは流れなかった部分に「勝ちパターン」から逸脱しようとする新しい試みがある。次のアルバムでどう発展するかが楽しみだ。
「Stray Dogs」七尾旅人
オーガニックな手触り。それはアコースティックな楽器だから得られるというわけではない。マイクの種類でもない。彼の場合は「手作り」というほうがしっくりくるかもしれない。「手作り」は人が行うこと。ディジタルな録音の中においても、ボリュームを書くのは手作業である。リバーブの上げ下げも手作業。つまり手間暇がかかっていること。それは、聴き手にも確実に届く。無意識に聞き流していても、その丁寧さを聴き手は必ず感じてしまう。それは心地よさにほかならない。丁寧な音作りは、聴き手を丁重に扱うことなのだから。手作業を人工的と呼べば、自然とは対極にあるものとも言える。しかし一方で、人間も自然の一部だ。それを「オーガニック」と定義づけたい。そんなことを考えた一枚。