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過去のレコ評(2019-3)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「STORY」never young beach

のっけからスティールパンで緩い空気を醸し出すニューアルバム。はっぴいえんどの後継者とも言われる彼らの曲タイトルは「うつらない」「いつも雨」など、丸いひらがなが多く「春」という単語が2つも使われ、はっぴいえんどを彷彿とさせる。歌詞には「風」という言葉も散見され、確かに松本隆っぽい。音もヨナ抜きを効果的に使っているのが共通点だ。しかしなぜだろう、それは表面上の質感にとどまり、歌われている内容は少し違う。「ーようぜ」と誘い「ーさ」と軽く断定する語尾が目立つ。ですます調ではなく「ーしてんだ」や「じゃん」など軽い。全体的に倦怠感が薄く、陽気で乾いている。風は海に吹いていて、主人公の眉間にシワはない。そんな世界観を演出するのは、少ないリバーブと重心の低いスネア。そして高い空を思わせる高い声のコーラスワーク。楽器のリズムは完璧にグルーブしている分、歌のリズムは緩く揺れている。音楽の構造はレゲエとは異なるものの、スピリットはレゲエのそれだ。80年代に欧州の島国で生まれたポリスに対する、現代の極東島国からの回答と捉えると面白い。

「QUIZMASTER」NICO Touches the Walls

中音域の情報量の多い、アナログライクな音づくりだ。最低限の楽器で構成された音は、時代錯誤なほどの男臭さがあり高い普遍性を持っている。エフェクトも最小限で、マイキングが主だ。演奏力に裏打ちされたアレンジは、そう簡単に真似の出来るものではない。そんな中で異色を放っているのは8曲目。アコギとリラックスしたドラムスが演出する色気たっぷりのチューン。よく聴けばコードワークやシャッフル感に、ソウルミュージック的な要素がある。こういう要素をアルバム前半のような勢いのある曲にぶち込んでみたものを聴いてみたいというのは、わがままだろうか。クレジットを見ると、作曲は全てボーカルの光村によるものだが、作詞はドラムスの対馬も共作を含めて4曲ほど参加している。対馬参加の曲にはどことなく漂うユーモアがあり、風通しを良くしている印象がある。これは非常に珍しい。バンド内に作詞作業を共有できる相手がいるというのは、かなり幸せなことだ。長続きするバンドの秘訣はこんなところにあるのかもしれない。

「三毒史」椎名林檎

まず1曲目、とにかく音が良くて驚かされる。ともすればイロモノになりがちな仏教モチーフの声要素が、椎名本人のボコーダの英詞の歌と融合している。これは両者を、ある種の無遠慮さをもって「音響」という切り口でぶった切っているせいであろう。その音像は潔く、爽快でさえある。そして、配信シングルである宮本浩次とのデュエットになだれ込むのだが、1曲目の後だと上品にさえ聴こえる。彼女のジャズ要素は、実はジャズ直系というよりは、昭和歌謡からの流れを濃厚に感じることが多いのだが、この曲に関しては最早、大正ロマンにまで遡った印象がある。と思えば次はフランス語。音像はまた上下左右に広いものとなり心地よい。このようにカラフルな布陣で彩られたアルバムだが、その芯を貫くのはマイナーコードの響き。ウェットな和のテイストを濃厚に臭わせながらも、彼女のボーカルのドライさがそのバランスをとっている。例外は11,12曲目。アルバムの終盤で肩の力を抜く役割を担いながらも、斎藤ネコのアレンジにより程よいアヴァンギャルドさを保っている。

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