過去のレコ評(2017-3)
(2017年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)
「I STAND ALONE 」GLIMSPANKY
TYCT-60098
UNIVERSAL MUSIC/Virgin Records
ルーツミュージックを基調にしながら今のシーンで活躍しているアーティストは、当時の音楽をそのままやるのではなく時代やシーンに合わせた何らかのチューニングを行なっている。彼らも例外ではない。分かりやすいのはミックス。広い画面を使いこなし、解像度も高い。彼らの特徴は、サビで高揚するJ-POP感だ。カロリーのあるメロディの動きと周波数の広がり。そしてマイナーキーの曲ではサビでメジャーになる。1曲目は、サビの直前のメロディとサビ頭がF#になり、Dがメジャーコードに変わることを説明する。2曲目では2小節目でギターだけがルートから長三度のBを弾く。こういう工夫が、今の耳にも楽しく聴こえる要因だ。
「達磨林檎」ゲスの極み乙女。
ワーナーミュージック・ジャパン
WPCL-12443
期待を裏切らないアルバムだ。ハイトーンボイスとハイスピード、かつプログレッシブなリズム。平易な単語を選びつつも、イマジネーションをかきたてる言葉たち。以前、川谷がSMAPに提供した曲に関して、筆者はボーカルディレクションを担当したことがある。歌詞に注目されるバンドの代表格だが、メロディに関しても普遍性を持っていると感じたのをよく覚えている。コード進行に関しては、ガラパゴス的に発展したJ-POP独特のひねりが特徴的だ。時折現れる循環コードも、よく聴くと転回形になっていたり、内声にテンションノートを持ってきたりしていて偏差値が高い。しかもさりげないのが彼ららしい。リズム隊だけでなくコード楽器も音数が多いのがトレードマークだが、その詰め込み感が今っぽいと感じる所以かもしれない。
「The Search For Everything」ジョン・メイヤー
ソニー・ミュージックレーベルズ
SICP-5193
もう何度聴いたことか。1曲目に至っては、好きが高じてギターリフをコピーしてしまった。ブルースをルーツにしながら、現在の都会の音楽に昇華した「男前」路線がもてはやされていた彼だが、最近ではケイティーペリーと破局。その心境を題材にした1曲目は、イントロからどう聴いてもマーヴィンゲイへのオマージュ。そう、今までになくソウル要素が強い。離婚の慰謝料を払うためにマーヴィンが作った「離婚伝説」というアルバムをイヤでも思い出す。フォーキーな2曲目の次は乾いたロック。どの曲も聴くほどに好きになるのは、アメリカ音楽という遺産をベースにしたポップスだから。それは彼がギタリストであることとも多分に関係がある。