モダニズム建築と2人の男女の心の変化と癒しを描いた秀作『コロンバス』を鑑賞
美しい街で二人は出逢い、そしてまた歩き出す
『コロンバス』を鑑賞。
【キャスト・スタッフ】
監督:ココナダ
出演:ジョン・チョウ
ヘイリー・ルー・リチャードソン
ミシェル・フォーブス
ローリー・カルキン
【あらすじ】
モダニズム建築の宝庫として知られるインディアナ州コロンバスを舞台に、対照的な2人の男女の心の触れ合いを描いたヒューマンドラマ。
高名な建築学者の父親が講演先で倒れて入院したため急遽韓国からコロンバスに訪れた息子のジン。
彼は仕事中心の父親との確執があり複雑な思いを抱いていた。
地元の図書館で働くケイシーは薬物依存症の母親の看病のため自分の夢を心の奥にしまい込みコロンバスに留まっていた。
そんな二人がふとしたことで出逢い、モダニズム建築を通してお互いの心を通わせる事でそれぞれの心に変化が訪れる…
【感想】
【小津作品への敬愛】
小津作品に欠かせない脚本家の野田高悟にちなんでコゴナダと名乗るほど小津作品を敬愛している監督。
小津作品に見られる長回しのロングショットの映像、心に深い傷や想いを持っている人々の触れ合いなどが丁寧に描かれており、
小津作品が本当に好きなんだという想いが伝わってきました。
【素晴らしい構図】
映し出される風景や建築の構図がとても素晴らしいんです。
風景と人物との位置関係や対比、さらに建築と人物の位置関係と対比。
通常は人物が中心に映し出されますが、この作品では風景や建築の前だと人物は中心から外れた位置に立っているんです。
二人の男女がこの物語の主人公なのですが、映し出される映像はまるで主役は人間ではなくモダニズムの建築たちであり、その建築が佇む空間そのものなのだと言わんばかりに…
【モダニズム建築】
この作品の最大の見どころはやはりその歴史的な素晴らしいモダニズム建築の数々ですね。
エーロ・サーリネンが設計した「ミラー・ハウス」が建築ツアーの中で登場しますが、外観は水平を強調したシンプルで美しいデザイン、内装は白を基調としたやはりシンプルなデザインにカラフルな本棚やクッションなどのインテリアが目を引く本当に素晴らしい建築でした。
エーロの父エリエル・サーリネンが設計した「ファースト・クリスチャン教会」は劇中でもケイシーやガイトが話をしていますが、シンメトリーではなく非対称な位置にある十字架と玄関がとても絶妙なバランスでデザインされていて、それがとても美しいんです。
このバランス感覚はとても難しいのでサーリネンのデザイン力がいかに素晴らしいかが分かる建築ですね。
その他にもコロンバス・シティホールや、ファースト・フィナンシャル銀行など数多くの名建築が登場します。
建築が好きな方、建築に携わっている方はこの建築を観るだけでもすごく楽しめるのではないかと思います。
【人物描写】
ただ人物の描写や物語は映画としてはちょっと弱い感じがしました。
ジンとケイシーの2人がそれぞれ抱える問題をもう少し深く掘り下げた方が感情移入しやすいかったかなと思いました。
でもそれはモダニズム建築やその空間を映し出すことがこの作品の最大の見どころであり、人物描写を強くしてしまうと全体のバランスが崩れてしまうからなのかもしれません。
【2人の心の変化】
それでも
ジンとケイシー
2人が出逢い
建築を通してお互いの心を通わせて
心に変化が訪れて
それぞれ前を向いて歩き出す
そんな素晴らしい人間讃歌が
ゆったりと描かれていて
とても心に染みる
素晴らしい作品だったと思います。
【癒しの力】
そしてこの物語の根底にある、
「建築には癒しの力がある」
というケイシーの言葉。
ケイシーが3番目に好きだという建築の前で話をした事、
そして建築について語り合った2人の心に変化が訪れた事が、
建築には癒しの力があることを証明していると思います。
建築に携わる自分にとってこの証明は感無量。
そんな癒しのある建築を後世に残して行きたいと本気で思いました。
いつかこのコロンバスに訪れてモダニズム建築に触れてみたいですね。