2023年間ベストアルバム10+1
ABC順。2023年中に発売されたアルバムより選出。
Ana Frango Eletrico
たまたまラジオで聴いた曲を気に入り、アルバムを買ってみたらとんでもない傑作であったのがこちら。3枚目のアルバムとのことだが、過去の作品は全く知らなく未聴のまま。ブラジルのミュージシャンとのこと。
目新しい音ではなく、シティー・ポップにも通じるような、南からのそよ風が似合うブリージーとも言えるような曲が中心で、ポルトガル語訛りの英語のせいか、そのメロディー・ラインにはボサノバ的なものも感じる。そしてリズムはとてもディスコやブギー的。ゲストのラップが乗る曲もある。
そして時折交わるリズムマシンの音がとてもいい味を出している。
元気いっぱいな曲からしっとりバラードまで、そしてパパパパコーラスまで入るという、楽しくて美しい曲が目白押しのポップアルバムで来年もきっと聴く機会がありそう。
気になるタイトルは「猫と呼んでください、そうすれば私はあなたのもの」とGoogleが翻訳してくれた。故にこのジャケットであると。
一番驚いたのはジャケットの虎ではなく、Mr Bongoからのリリースであった点。確かにあのレコード屋さんはブラジルもの(今はMPBムジカ・ポプラール・ブラジレイラという呼称があるそう)に強かった覚えがあるので納得だが、久々にみたその名前になんとも言えないヒヤッとした気持ちが湧いた。
お薦めは一曲目の「Electric Fish」。Catatoniaのようなハスキーボイスがキマッており、飛び跳ねたくなるようなリズムやホーン、コーラスもナイス。初めて聴いた「Let's Go to Before Again」もドラムはリズムボックスオンリーのトラックで捨て難い。
Avalon Emerson
実はこの作品を2022年のものだと勘違いしており、うっかり選考から漏らしていたのだが、2023年のものだと教わり急遽加えさせてもらった。
ダンスミュージックのプロデューサーやDJがアルバム発表時に、自らボーカルを取ってしっかり歌い上げるという傾向が最近強いと感じているのだが、今作もそのような作品。ダンスミュージック仕込みのバックトラックは健在だが、普段の作風であった四つ打ちのトラックは少なく、ドリーミーさが増している。
ボーカルもウィスパーで耳触りがとてもよく、このアルバムだけ聞けば完全にポップアルバムと呼べるもので、それこそヒットチャートに並んでいてもなんら違和感がない。但し、バックトラックは夢心地の打ち込みで、歌メロディーも口ずさめるくらいポップで、個人的にはめちゃくちゃツボであった。お母さんがシンセポップを家でよくかけていた影響があるとのことだが納得。
限りなくインストに近い「Dreamliner」なんて言う曲もあるのだが、そこにもとても印象的なフレーズが鳴り、昇天するのではないかという心地よさだった。2stepみたいなリズムの「Hot Evening」も最高。
可愛らしく歌い踊るビデオも作られた「Karaoke Song」をお薦めに。
cero
過去作がとても評価されていることも知っているので、単に自分の好みの問題ではあるのだが、この作品はファースト以来のCeroの復活作と思っていて、2023年は本当によく聴いた。後に発売されたアナログも45回転2枚組という仕様でその気合を感じたりもした。
この作品の素晴らしい点は、これまでに聴いたことのないような音楽を作った所だと思う。しかもそれをポップスとして成立させて。自分の蒙昧さの可能性もあるが、初めて聴いた時は、いい意味で「何じゃこりゃ」と感じたものだ。それぞれの楽器の音自体に大きな目新しさはないはずなのだが、組み合わせられて出来上がった音には、こんなポップスありかと心から驚かされた。
先日体験したライヴも、レコードまんまとも違う、しっかり演奏された音楽を聴けて感動的であった。現在のモードで鳴らされる過去曲も実に素晴らしくバンドがノリに乗っていることをまざまざと感じた。最後に鳴らされた「Angelus Novus」には黙りこくるしかない程持っていかれ、音楽の力というものを強く感じたりもした。
ドット絵のようにも見えるジャケットも素晴らしく、今年のベストアートワークの一つではないだろうか。
お薦めは一番聴きやすそうな「Cupola」。ライヴで食らった「Angelus Novus」も捨て難い。
Cornelius
頻繁にレコードを買う自分であっても、普段音楽を聴く際は、iPhoneに入れているデータから聴くことが圧倒的に多い。その際はプレイリストに好きな曲を入れてそれをランダムに流すという聴き方になる。つまり、アルバムを通して流して聴くという機会はどうしても少なくなっていた。
このアルバムは久しぶりに繰り返し繰り返し、1曲目から10曲目までをリピートし続けて聴いていた。
実はMellow Wavesから大きな変化はないと思っていて、むしろとても地続きな音ではないかと。歌う頻度が高いと言われることもあるが、Mellow Wavesの時からそれは感じていた。
それでも何故かこのアルバムはMellow Wavesよりも傑作と思っており(「あなたがいるなら」を初めて聴いた衝撃には届かないにしても)、半年経った今でもよく聴いている。
着席スタイルのライヴも本当に素晴らしく、「Cue」のカヴァーから「環境と心理」の流れなどは涙なしには聴けない感動的な瞬間であったし、アンコールラストの大野由美子コーラスが乗る「続きを」などは、本当に希望的で、これからも音楽を作り続けてくれる約束のようでもあった。
やはりあの騒ぎから無事に戻ってきたという「嬉しさ」がなんだかんだ大きいのかもしれない。結局ファンってことでしょうか。でも、それだけではなく、日本に決して多くはいない、世界と並行で聴かれるであろう音楽家があのまま消えて無くなってしまうのはあんまりだという気持ちもあるのだとは思う。ナショナリズムとは縁遠い、それはとても素朴な気持ちではあるが、そんなことも考えた。
お薦めはこのアルバムのランドマーク的な楽曲と思っている「霧中夢 -Dream in the Mist」。余談ではあるが、AMBIENT KYOTO 2023では、この曲が流れながら、ライヴ本編ラストのように霧の中へと消えていく演出が体験できた。
Decisive Pink
このバンドもラジオで流れたのを聴いて、気になってアルバムを買ったもので、純粋に80sエレポップのアルバム。好き嫌いが分かれるかもしれないが自分は大好きで本当によく聴いた。
初期にはヴァンパイア・ウィークエンドのメンバーも在籍していたというDirty Projectorsというバンドの元メンバーと、モスクワ在住のソングライターKate NVがタッグを組んだというバンドというか二人組で、一体どこでどうやって出会ったのかも不明。
リズムマシーン、シンセ3-4台以上!というくらいシンプルなバックトラックに表情豊かではないボーカルが乗るというスタイルで、「エレポップを現代風に蘇らせた!」などといった気が利いたものではなく、本当にまんま初期ミュート的な音。
じゃあ昔のを聴けば良いだろうという意見もあるかもしれないが、本当にその通りだと思う。
クラウトロックみたいな曲「Cosmic Dancer」もあったりするが、お薦めはアルバムを象徴するような「Haffmilch Holiday」
Sam Wilkes
Festival de Frue 23でライヴを鑑賞し、一気に大ファンになった彼のアルバムも最高であった。
本業はジャズ・ベーシストとのことで、サックスプレイヤーなど様々な人とたくさんコラボレーションをしたりもしているらしい。ルイス・コールと一緒に演奏している動画などもあった。
このジャケットのように、楽しげに音と戯れている様子が目に浮かぶような楽曲が多く、とても心地よく夢見心地になる。演奏だけでなく、歌もとても達者ではあるが、やはり、アンビエントの文脈にも乗りそうな、浮遊感のあるバックトラックに目を見張る。
シンプルなアコギに、ストリングスやホーンなどがやんわりと交わりながら、軽いドラムが乗るスタイルは、フォークソングのようではあるが、そこには土臭さは微塵も感じず、遥か上空で鳴っているような、そして自分も遥か上空に来てしまったような不思議な気持ちにさせられる。全然違うと怒られるかもしれないが、フィッシュマンズの「宇宙 日本 世田谷」のような印象を持った。
ふわふわと聴いていると、突然何かのサントラのような印象的なフレーズがのりハッとさせられるような楽曲の数々には、無条件で笑顔にさせられるような魅力が詰まっており、より多くの人に是非とも聴いてもらいたいと思えるアルバムであった。
また日本にライヴに来るのであれば必ず参加したい。
最後になるが、bandcampで買うとこの素晴らしいジャケットではない。日本限定というCDのみがこのジャケットなのかもしれない。
お薦めは彼の歌も堪能できる「Ag」
Speedy J
このアルバムは1993年に、当時WARPが推し進めていた「Artificial Intelligence」シリーズ(踊るテクノでなく聴くテクノ)の一環として発表されたアルバムなのだが、30年の時を経て遂にレコードでリイシューされたということで、ベストに入れさせてもらった。
スピーディー・JはオランダのDJ/ プロデューサーで、リッチー・ホーティンのプラス8からハードなテクノをリリースしていたのだが、ファースト・アルバムとなるこの作品で突如このように美しい作風へと変貌を遂げた。
セカンドアルバムにも続く、「Fill 〜」というアンビエントテイストの小曲や、四つ打ちのダンサブルな楽曲に感情豊かなシンセパッドが乗るような曲もいいのだが、やはりテンポを抑えた「Beam Me Up!」「R2D2」「De-Orbit」などの楽曲が特に素晴らしい。それまでのテクノのイメージを覆すような真にAIシリーズを体現していたのはこれらの楽曲ではないかと思っている。
後半にこのアルバムをぶち壊すようなトランスぽいダンストラックも入っており、がっかりもするのだが、それらを補って余りある楽曲が多く、AIシリーズではこれが一番好きかもしれない(Black Dogのメンバーのソロコンピ「Bytes」も捨て難いが、あれは時によって、少々躁すぎる感がある)。
セカンドアルバムを経た後、またハードなダンストラックを作ることになっていくので、このアルバムは気の迷いであったのかもしれない。しかし、懐古的な部分もあるものの、この作品から放たれる「ダンスだけではない、テクノの懐の深さ」のようなものに、30年経った今でもとても重要なアルバムであったとしみじみ思う。
お薦めはブレイクビーツのようにも聴こえるリズムが新鮮な「Beam Me Up!」。シングルにもなっていた。
Sofia Kourtesis
ペルー出身ベルリン在住のDJ/ プロデューサーで、Octo Octaを夢中で聴いている時に知った。そんな彼女がリリースしたファースト・アルバム。
シングルではもっとハウシーなダンストラックだったが、このアルバムでは歌物の比率も増えて、よりポップなトラックが増えた気がした。レーベル・メイトでもあるTshaのアルバムにも近い、若干昔のトランスのような雰囲気を持ちつつも、ギリギリ馬鹿馬鹿しくなく、でも質感はとても聴きやすいポジティブなレコードであった。
おそらくスペイン語で歌われているであろう歌も、ダンストラックの中に添えられただけというよりも、しっかりと歌われている印象で、トラックメイカーというよりも、自覚的なシンガーなのかもしれない。少なくともこのアルバムでは、ダンストラックを制作したというよりも、アレンジの一つとしてこの音を選んでいるような、そんな気さえした。
故郷ペルーにおける、暴政やジェンダー迫害など、歌うべきことが彼女の周りにはとても多かったようだ。
もちろん軽やかなリズムのハウス・トラックだけではなく、2ステップ風味のものや、ノイズ混じりのアンビエントなど、アルバムらしく様々な曲が収録されており、昼夜問わずに家でも聴けるアルバムで、よく流していた。
しかし、去年のTshaといい、「ニンジャ・チューンはコールド・カットが率いる先鋭的なヒップホップのレーベル」で止まっているジジイとしては驚くばかりのリリースであった。
お薦めはタイトル曲でもある「Madres」
台風クラブ
京都の3ピースバンドの5年半ぶりのアルバム。
名盤として名高いファースト・アルバム「初期の台風クラブ」は、後追いながら本当によく聴いていたので、セカンド・アルバムの発売は嬉しかった。
セカンドになって変わるようなことはなく、ファーストそのままの音だが、むしろそれに安心したりもした。しかし、10曲中半分が既発の曲ということもあり、その点はライムスターのようで少々がっかりした。とは言え、7インチを交換することなく、まとめて聴けるのはありがたいと思わなければならない。
しかも、このアルバムに収録の7インチのB面では、様々なカバーを披露しており、グリーン・デイ、ギルザート・オザリバン、コニー・フランシス、ザ・クワイアと一貫性なくセレクトされた曲をしっかり台風クラブ色に染めており、これらを聴くためにもシングルは買い続ける必要がある。
何故か貧乏くさい雰囲気もあり、覚えやすいメロディーがあり、情熱的なようでもあり、のほほんとした雰囲気もあり。スタイリッシュな格好良さとは程遠い、これしかないんだよと言わんばかりに素直に音楽に向き合う格好良さに溢れたところがこのバンドが持つ魅力であり、普段ロックバンドをあまり聴かない自分が惹かれる所以なのだろう。
そして、この不思議な魅力のあるバンドに惹かれているのは自分だけではなく、リリース時に放送されたラジオの特別番組には、PUNPEE、峯田和伸、曽我部恵一、小西康陽(!)と錚々たるメンツがコメントを寄せていた。
ちなみに鑑賞した千葉LOOKでのライヴでは、「ミッシェル・ガン・エレファントがツアーをスタートさせていたLOOKでライヴができて本当に嬉しい」と言っており、そのミーハーさ加減=素直さには笑顔にさせられた。
また、ライヴのMCで言っていたのだが、今でも京都に住んでいるのはボーカル/ギターだけで、ベースは埼玉に、ドラムは我が家の近所にお住まいということを知りとても驚いた。
最後に余談だがこのライヴの前座で現れたハシリコミーズというバンドが素晴らしかった。もっと大きくなるような気がするバンドであった。
お薦めはシングルの中でもデザイン含めてとりわけ光っていた「下宿屋ゆうれい」
Vagabon
こちらも3枚目のアルバムらしいが、過去作品は未聴。カメルーン出身、アメリカを中心に活動していたが、北ドイツの片田舎に引っ越しなりを潜めていたそうな。
その後親友の死を経て、ようやく制作に駆り立てられたとのことだが、ここで鳴る音は、その悲しい経緯をよそに、悲しみとは無縁の喜びに満ちたような音であった。
元ヴァンパイア・ウィークエンドで、エレポップのユニットもやっているロスタムも共同プロデューサーに名を連ねていることも影響してなのか、懐かしくも明るいシンセサイザーの音が、とても現代的なリズムの上で心地よく響く、とても気持ちの良いポップスがアルバムを占めている。
特にラストの「Anti-Fuck」という曲が最高で、それまでの曲とは異なり軽やかなギターの音からスタートし、生に近いドラマの音や、柔らかいメロディーを経て、最後にはノイジーなギターの音で唐突に終わる。上記のストーリーを知った上でこの曲を聴くと、涙が出そうになった。
内ジャケにたくさん並ぶ楽しげなレコーディング風景の写真(Arlo Parksもいる?)は創作意欲が湧くし、「Forever Underground」の文字には何故だか何かやってやろうかと思えるような勇気が湧く。
ジャングルのリズムの曲などもあったりして、多くの方がとても期待しているNewJeansの音とは、このようなアルバムのような音なのかなとうっすらと思ったりもした。勘違いかもしれないが。
お薦めは、先述の「Anti-Fuck」と言いたい所だが、アルバムの締めに聞いてほしいという希望もあり、ビデオも制作された一曲目を飾る「Can I Talk my Sh*t?」
Viken Arman
数枚のシングルを出した後、いよいよのファーストアルバムをリリースしたフランス出身、ベルリン在住のViken Arman。
Jディラに影響を受けたというサンプリングは、ジャズからのサンプルが多く、とても不思議な雰囲気を醸すが、ビートは疾走感すらあるしっかり目のミニマル・ハウスが多く、大変好みであった。
アルバムらしくもっとディープ目なハウスや、エレクトロニカに近い質感のハウストラックなども収録。そして、遥か昔にフレンチ・タッチなどという触れ込みで流行ったディスコサンプルもののトラックなどもあり、ギャグかな?とも思ったが、その曲(「Can’t Do Without You」)も、それはそれでとてもかっこいい。
ダンス・ミュージックの新譜を買うことも随分稀になってしまったが、久々にアルバム単位で素晴らしいと思える作品に出会えた。
先日開催されたFestial de Frue23では親友だというAcid PauliとのB2Bセットがあり、とても期待していたのだが、最初の40分ノン・ビートで体力を失いつつあった自分はその時点でホテルに戻ってしまった。
聴くところによると、最終的にはしっかりと踊らせてくれたらしいので、とてもとても惜しいことをした。また、彼は子供の頃から様々な日本文化に影響を受けて育ったようで、初来日をとても喜んでいたとのこと。
そしてせっかくのダンス・アルバムなのに、アナログは1枚に無理矢理詰め込んでいたのは残念だった。しかも自分のは結構な盤反りが起きており、どうにかしたい。Jet Setのサービスは他店のレコードでも使えるのだろうか??
お薦めはジャズのサンプルとダンスビートが美しくマッチした「Lonely Raver」
来年も、たくさんの素晴らしい音楽に出会えますように。自分やバンドの作品も色々作りたいし、DJもたくさん出来るといいなー!!