大切な人が変わり、戸惑う心。”残された側の気持ち”を知る人に届けたい珠玉の短編集『さよならじゃねーよ、ばか。』
【レビュアー/栗俣力也】
あきやまえんま作品を私が初めて読んだのはとある同人イベントで買って読んだ『お姉ちゃんはクソ野郎』という短編漫画だった。
今回紹介する『さよならじゃねーよ、ばか。』にも収録されているこの物語は姉がゾンビになってしまった弟の姉に対しての想いとその姉弟の生末(いくすえ)を描いた作品だ。
とあるウイルスが大流行し感染者はそのグロい見た目からゾンビと呼ばれる。
腹を空かせたゾンビは人を襲い、襲われた人もゾンビになる…。といかにもこの作品のゾンビはゾンビらしいゾンビなのだがワクチン開発と駆除隊の活躍で大流行から1年後にはパニックは収まり、噛まれないように対策をしてゾンビを飼う人が増えた。
この作品の語り部は姉と妹に囲まれた男子学生。
妹はまだ幼く、姉は美人で活発でいつも自分の事をからかったりする存在。
そんな姉がある日ゾンビになった。
ゾンビになった姉に対しての周りの認識は一変する。
そんなゾンビとなった姉に対しての弟の戸惑いとどうしようもない言葉に出来ないような感情から生まれる言葉や行動。ちぐはぐのようなその一つ一つから姉に対しての色々な想いが感じ取れる。
幼くて素直に表現できないそんな想いがとても切なく心に突き刺さり読んでいると自然と涙が溢れた。
物語は生涯記憶に残るような結末を迎える。
『さよならじゃねーよ、ばか。』にはそんな短編がいくつも詰まっている。
単純な物語の中に込められたメッセージは鋭く心に刺さってくる。何度も何度も読めば読むほど登場人物の感情の波に飲み込まれ切なさが増すような作品ばかりだ。
人というものは実は曖昧で、気持ちはもちろんその人という存在すらいつ変わってもおかしくない。
そしてそんな変化に取り残された側の気持ちはいつだって一方通行になる。
『さよならじゃねーよ、ばか。』はそんな気持ちを知っている人に読んで欲しい1冊だ。