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推しが歳をとっても推せますか?加齢の葛藤と受容を描く『47歳、V系』

【レビュアー/bookish

若さと明るさを売りにしてきたアイドルや役者が歳をとったとき、ファンは推し続けることができるのかーー。

エンターテイナーやアーティストとしての寿命が年々長くなる中、3次元の推しがいる人はいつかは突きつけられる課題です。それはどんなに幻想的な雰囲気や世界を売りにしてきたアーティストも避けられません。

本当はリアルの問題を考えたいのにそれをファンに伝えていいのかーーそんな葛藤に悩むビジュアル系バンドのカリスマボーカル、美獣鴉琉荊(ミシシ・ カルケ、47)を描くのが、桂明日香先生の『47歳、V系』(講談社)。

葛藤する美獣様を取り巻く人々の姿からはファンのあるべきかたちも見えてきます。

■「見せられない」の葛藤

美獣様は伝説のV系バンドのカリスマボーカル。作品紹介によると「その暗黒美で監獄(現世)に生きる囚人(ファン)たちを虜にしてきた」そうです。退廃的なフレーズの歌が売りで、若く美しい中世的な装いの人間が響かせる退廃の世界を表現したい美獣様。

そんな彼も47歳。自営業者として老後の生活も考えたいし、加齢臭にも悩む。健康のために青汁を飲みたいし、事務所の社長からは養命酒を差し入れられる。長く一緒にやってきたサポートメンバーは親の介護のために田舎に帰ると言い出し、老いを実感します。

しかし、そんな生活感あふれたリアルな姿を、楽しい悪夢を売り続ける「ビジュアル系アーティスト」がファンに見せていいのか悩みます。

SNS上では健康オタクの人たちと楽しそうにやりとりをしているのに、アーティストとしての姿のファンからはそのことを徹底的に隠そうとします。(もちろん、投稿ミスがあるので隠しきれていませんが)

■描かれる2つのファンの姿

こうした美獣様の姿をファンはどうとらえているのでしょうか。

本作には2種類のファンが登場します。まずは辺寿宇真。サポートメンバーの引退にともない、新たに加入したベーシストです。せっかくベースの腕を認められ、加入を歓迎されても「俺を認める美獣様なんて美獣様じゃないーーーーーーー!!!!!」と言ってしまう人。美獣様の友人・園宮には「『アイドルはトイレなんていかない』派閥の人間だな」と評されます。

辺寿は「美獣様とはこうあるべきである」という姿を美獣様に直接ぶつけてきます。そのため、彼の前では美獣様は引き続き「かっこいいビジュアル系アーティスト」の姿を見せ続けなければいけません。

大人の美獣様は受け止めていますが、現実の若い芸能人にはこうした「理想像を押し付けられる」ことに厳しさや苦しさを感じる人もいるでしょう。(ちなみに、美獣様はプレッシャーを感じているものの、美獣様と辺寿は響くところが似ており、いい関係を築いていきます)

辺寿と対照的なのは、長く美獣様を追っかけているアラフォー、アラフィフ女性ファン2人です。もちろん彼らも20代のころは、ライブをはしごした後徹夜で語るなどをしていましたが、年を重ねることで推しの対象とも適切な距離をとれるようになり、「諦め」ができた分自分のコントロールがうまくなった、とのこと。

「今が一番 楽しい!」と言い切り、いつになってもぶれない本命=美獣様を安心して推し続けます。

もちろん推しとともに歳を重ねてきた分、推しが歳をとったことも十分承知。わずかなSNSなどでの情報発信からヒントを読み取り、養命酒やしわ取りクリームを差し入れします。

歳を重ねてもこれまでと同じ世界を提供しようとするアーティスト側の奮闘を一番知っているのはファンであり、ともに歩みたいと思うのもファンなのです。

■加齢とはなにか?

もちろん年を取ることに向き合うのは美獣様のような若さを全面的に押し出してきたアーティストだけではなく、私たち一人一人が向き合うべきことです。

『47歳、V系』には美獣様以外にも、年を取ってからも最前線で活躍するビジュアル系アーティストが登場します。

老いへの向き合い方は人それぞれ。退廃の世界を表現したい美獣様は様々な努力で老いに逆らおうとしますが、老いを変化として受け止めて楽しもうと考えを変えるアーティストもいます。年をとっても現役でいる時間が延びたのがつい最近であることを考えると、答えはひとつではありません。

老いとの向き合い方は、それぞれが自分のやり方をみつけ、他の人に押し付けないようにしていくべきなのでしょう。

忘れてはいけないのは、老いというのは確実に「変化」であるということ。できるようになることもあるけれども、老いとともにできなくなることもある。

美獣様の先輩アーティスト・KIYU様は失敗にいらいらする自身のマネージャーに対し「今後は老いにより今より失敗が増えるんだぞ」とつきつけます。これは真理。物忘れはひどくなるし人によっては体力も落ちてくる。

もしかしたら自分が一番いやがっていた、「若者のやることについつい口を出す」をしたくなるかもしれません。そうした自分を認め、受容していくことが老いへの第一歩。

KIYU様の「『自分もミスをする事』をまず認めて それを前提に物事を考えたほうがいい」という助言が身に沁みます。

■90年代ビジュアル系バンドネタも充実!

ちなみに、『47歳、V系』は全体的に1990年代のビジュアル系バンドのカルチャーをベースにしています。

当時熱中した人、いま改めて熱中している方はより楽しめると思います。まずは試し読み+各エピソードのタイトルに目を通してみてください。