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【テニスとは】 これは、我々の知っているテニスではなく、何か別の不思議なスポーツだ『テニスボーイ』

【レビュアー/和久井香菜子

先日、映画「リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様」を友だち誘って観てきました。

彼はコーチ経験者、私もコーチ経験者&テニス記者なんで、見終わったあとはひとしきりテニスについてのツッコミ大会でした。映画ではわりとテニスシーンは真面目に描いていた気はしますが、それでも辛抱たまりませんでした。ラリーの最中に空振りはありえんとか、サーブが浅すぎとか、ウッドのラケットなのにグリップが厚いとか、まあいろいろ。

加えて、ウッドのラケットと現代のメタルラケットでは棍棒とオリハルコンの剣くらい性能が違います。ラケットが進化したことでテニスのプレイ自体も大きく変わっているので、互角な戦いにはならないでしょうってことも言いたい!

テニスの王子様』の連載が開始された頃、和久井は週6日でレッスンに通い、目の色変えてテニスしてる頃でした。技術を習得するには反復練習しかなく、練習で100パーセントできるようになった技術でも、試合で100パーセント活かせないのがスポーツです。リョーマが「本で見て打ったらできた」みたいなことを言ってるのが許せませんでした。

ですがその後、なんか一人でダブルスやったり、試合に行っただけで五感を失って帰ってきたりする話になったという噂を聞き、「そういう話なら喜んで!」という気持ちになりました。

謎のスポーツを繰り広げる『テニスボーイ』

さて少女漫画のテニス作品といえばどう考えても『エースをねらえ!』ですが、ジャンプのテニス漫画と言えば『テニスの王子様』か『テニスボーイ』でしょう。アラフィフ以上の人は『テニスボーイ』の思い出がギッシリという人も多そうです。バブル期の大学テニスサークル全盛期、読んでいない人を探すのが大変なくらい、テニス愛好家に愛された作品でした。

主人公の少年・翔は、変なおっさんとの賭テニスに負けて、カリフォルニア学園というテニス選手養成学校に入学することになります。

ちなみに、この作品に登場する「テニス」は、我々の知っているテニスではなく、なにか別の不思議なスポーツです。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

入学式直後に翔がチャレンジさせられる「カリフォルニア・ドリーム」。さっそくテニスじゃありません。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

入学後、初めての試合は「ライオンズ・マッチ」。プレイヤー同士を鎖で繋いで試合します。私はプロテニス選手を育てるスペインのアカデミーに留学してましたが、ライオンズ・マッチは経験がありません。

そして、この作品で唯一一般人が体験できるのが、これ。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

「ツイン・ビーム」です。センターに来た球を二人で取ろうとして、稀にラケットがガチャッと重なることがあります。

この森兄妹はそれを意図的にやって、ものすごいパワーショットを打ちます。ま、フツーはラケットヘッドをどれだけ速く振れるかでショットのパワーが決まるので、フツーに一人で打った方が強く打てます。それでも「うけてみろー!!」とか言わないですけどね。

ショットが決まった後の「カモン!」ですら練習しないと言えるようにならないので、「うけてみろ」は発声のタイミングが難しいです。

そしてできそうでやりたくないのが、これ。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

目にもとまらないフット・ワークから身体をねじり、全身の筋肉を一気に爆発させて破壊的ショットをうみだす「クインビー・ダイナマイト」。「1回のショットで全身にかかる負担はメガトン級で、へたをすればテニス生命が終わりになる」そうなので、私は打ったことがありません。

また、マナーを重視するテニスプレイヤーとして見過ごせないのがこれです。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

審判にこんなことをしようものなら、私の知ってる「テニス」なら失格の上罰金です。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

審判に暴力振るう男が何を偉そうに……。そりゃ「えっ!?」って聞き返しますよね。

最後は、まあこれだけでたらめだったらこのくらいいいか、という小さなネタです。

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『テニスボーイ』(小谷憲一/寺島優/ビーグリー)より引用

確かに、高身長の人が打つサーブやらスマッシュやらは、天から降ってきたみたいに感じます。でも「動けない」ってか、相手がスマッシュを打てるようなチャンスボールを自分が上げたってことなんだから、打つ前になんとかしましょう。後ろに下がるとか。

テニスというスポーツは

テニスって、めちゃくちゃ地味なスポーツなんですよね。強いのは基本的に「ミスをしない選手」です。どんなに強いショットを打たれても、ラケットに当てれば返球できます。しかも打たれた球が強ければ強いほど、強い球が返ります。闇雲に力一杯打っても、スーパーショットを返球されるだけなんです。

奇想天外なコースやショットを打つことも滅多にありません。なぜならそういうショットは自分がミスをする可能性も高いからです。相手より先に自分がミスをしたら相手のポイントです。そのためいかに「相手の嫌がるところに」「相手が嫌がるショット」を打つか。そうやって辛抱たまらず相手のミスを誘うか、ジメジメいじめてオープンコートを作って初めて、スーパーショットが打てるんです。

いっぽうでスーパーショットが4回決まっても、6回ミスをしたら負けなのです。いかに自分がミスをするリスクを低くし、相手のミスを誘うかがテニスの基本です。

ということを考えると、テニスというのは、ドラマ要素がとても少ない。非常にスポ根になりにくいスポーツなのですね。

少年漫画に「テニス」という名前のなにか不思議なスポーツの漫画が多いのも頷けます。ジャンプだけだけど。