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胸キュンの名手・河原和音が描く男の子に、女性の自己否定感が優しくほぐされていく『太陽よりも眩しい星』
【レビュアー/和久井香菜子】
わたくし和久井は機嫌がいいと、ついやってしまうことがあります。
それはお芝居です。
『ガラスの仮面』に深く傾倒し、小学校で演劇クラブに入っていたのですから、お芝居は趣味と言っていいかもしれません。
まあその趣味に問題があるとしたら、女友だちと一緒にいるときにいきなり始めることです。
「今日はぁ、奥さんには内緒で来たのぅ?」
とかいきなり無茶振りします。
「でも、香菜はぁ、アキラくんと一緒にいるだけでチョー幸せっ!」
とかクネクネして話しかけます。
たいていの女友達は「また始まった……」とか言ってなんとなく付き合ってくれます。
本当にいいお友だちに恵まれて和久井は幸せです。(この前、ガン無視してきた友だちはいましたが)
毎年4月1日のエイプリルフールには、SNSで謎の彼氏とラブラブしているツイートを1日中垂れ流してます。午前0時になるとなんの予告もなくいきなり「今日もカレと一緒にいられて幸せっ!」とか始めます。
これもう8年くらい続けてるので、どんどん凝り出しちゃって、最近は1日の中に物語を作り、紆余曲折を経てラストを迎えます。その上相手の設定も具体的で、途中でいろんなヒントを出しながら誰かを推理してもらっています。
同じツイートを各SNSでやってますが、Instagramは凪、Twitterはフォロワーが減り、Facebookがいちばん盛り上がりますが、知り合ったばかりの人にはドン引きされるという、どちらかというとリスクしかありません。
毎年、全力で危機に立ち向かっています。
で、こういうブリッコ芝居やってると、「さすが少女マンガ研究家だ」と言われます。
今まで、何の疑問もなく「ほんとにねえ」とか言ってきましたが、ふと考えてみたんです。
こんなキャラ、少女漫画にいたっけ……??
少女マンガ研究やってて「少女漫画脳です」とかいうと、恋愛漫画大好きっ! みたいな感じがしますが、実際はあんまり興味がありません。
いちばん好きな作家は山岸凉子先生や萩尾望都先生だし、恋愛ものの大御所・一条ゆかり先生も、胸キュン物語を描く人ではありません。津雲むつみ先生なんて作品のどこにもお花が出てこないし、だいたい男はだらしないし。
なので検索できるデータベースがやたら少ないというのもあるでしょうが、やっぱり上記のようなブリッコ主人公が、どうしても思い浮かばないのです。私はいったいなんのモノマネをしているんだ?
ブリッコが少女漫画の主人公にならないワケ
少女漫画には恋愛要素が不可欠とか言います。
不倫ものだってあります。
でも、どうしてもブリッコは主人公にならない。
理由は簡単で、こういう女のことを女は好きじゃないからなんですよね。
で、そういう女に男性たちがまんまと騙されていくのを、女は苦々しく見つめているわけです。
その上、酸いも甘いもかみ分けるよーな年齢になると、女に都合のいいことしかやらない男子が空想上の生きものだってことがわかってきます。ユニコーンですよユニコーン。
だから、あまりにユニコーンな男子がヒーローの作品だと、なんというか感情移入できないのです。イコール、恋愛漫画があまり得意ではなくなりました。
だけどやっぱり、いいものはいい
だけどですよ……。
胸キュン名手が描く恋愛漫画は、やっぱり面白かった!
『太陽よりも眩しい星』は、ちょっと軟弱な少年・光輝と、頑丈な女の子・朔英(さえ)の物語。小学生の頃は光輝のほうが小さくて、牛乳も飲めなくて、朔英のほうがしっかりものでした。
でも中学に入る頃には光輝の背はスクスク伸びて、周囲からキャーキャー言われる憧れの存在に。
『太陽よりも眩しい星』(河原和音/集英社)より引用
一方朔英もスクスク成長して、女子の中では大柄なほうに。朔英は決してモテるタイプではなく、自分がか弱い女子じゃないことにいちいちコンプレックスを刺激されてます。身長って、自分じゃ全然どうにもできないのに、大きすぎても小さすぎても悩むものなんですよね。
少女漫画は、こういう自己否定感を丁寧に描くことで女子の共感を呼びます。
で、女の子のコンプレックスを氷解してくれるのが、少女漫画に出てくる男子です。ヒーローですな。ちなみに私は男性にコンプレックスを増長されたことはありますが氷解してもらったことはありません。
光輝はものすごく素直で明るくてやさしくて、割とユニコーンなんですが、あんまり気になりませんでした。
なんでですかね、光輝の完璧ぶりよりも、朔英のコンプレックスが強調されているからかな。そこは河原和音先生の力量か。
※借り人競争でのシーン。『太陽よりも眩しい星』(河原和音/集英社)1巻より引用
読んでるほうとしては「はよガッと行け!」と思いますが、このもどかしさが恋愛漫画の醍醐味です。リアルでも「付き合うか付き合わないかの頃がいちばん楽しい」とか言いますものね。
「いつの間にか相手とのレベル差が標高差5000m級になっててつらたん」という設定は、『私のことを憶えていますか』(東村アキ子/Piccomics
)に通じるところがあります。切ないですねえ!
『太陽よりも眩しい星』ってタイトルもいい! いやー、好きな人って眩しいですよね、顔なんか見られたもんじゃありません、眩しすぎて!
とまぁ、はあはあ言いながら読んでたわけですが、趣味の一人芝居を最近は女友だちだけではなくレビュアーのMさんにやってます。
なんかちゃんと乗ってくれるので、最近は架空の彼氏として周囲に紹介しています。
だけどここが乙女脳の爆発してるとこで、これ、ホントに好きな人にはぜったいできないんですよね。だって恥ずかしいじゃないですか。バカみたいだし。
恋愛漫画を読んで「はよガッと行け!」とチョップ入れてる和久井ですが、自分には到底突っ込めません。春はとおいなあ……。
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※元ソニーの盛田正明氏、茶道裏千家前お家元千宗室氏、ボクシング山根明氏、テニス選手宮城淳氏ほか、総勢18名から、戦争と戦後の復興体験を聞きました。戦争を知らない方たちにぜひ読んで欲しい一冊です。