6年会話のない夫婦の漫画を読んだら完全にミステリー漫画だった『妻が口をきいてくれません』
【レビュアー/こやま淳子】
妻に6年も口をきいてもらえなくなった原因は?
「片方だけの主張を聞いても真相はわからない」誰かがもめたり、ケンカしたりしたとき、よくそんな風に語られる。
しかし実際に、一方からみた景色と、反対側から見た景色を、同時にみて判断する機会は少ない。たいていはどちらか一方の主張を聞いて、ひどいねえ、どうしてだろうねえと慰めることしかできない。いや、実際に両方の意見を聞いてみても、どっちが本当かよくわからないことだって多々あるだろう。
この漫画は、妻が夫に6年も口をきかなくなった家庭の夫側と妻側の視点が、かなり感情移入しながら読めるというおもしろい構造になっている。最初はひどいと思った相手のことを、視点が変わると急に理解できるようになるというカタルシス構造である。
両者の視点で描かれる夫婦のミステリー
前半は、夫の視点から描かれる。ある日突然、妻に口をきいてもらえなくなった夫が、日々あれこれと対策を考えながらも失敗し、次第に心が弱っていく様子がまざまざと描かれている。
その様子が非常にリアルで、いじらしいダンナさんに同情し、一緒に理由を考え、寂しい日常を体感しては寒々しい気持ちになる。もうさっさと離婚しちゃえばいいのに。そう思ったところで衝撃の展開(!)とともに前半が終わる。
そして後半は、妻の視点だ。なぜ6年も口をきかないことになったか。その謎が次第に明かされていく。この描き方がすごい。わかるわかるの連続である。
前半、あんなに不可解だった奥さんの行動が、ひとつひとつ納得のいくものに変わっていく。
そして、問題の「あの日」に起こった出来事は? そのミステリー仕立てのストーリー構成にぐいぐい引き込まれる。
どこの家庭にも起こりうる日常のホラー
ときにはこれは奥さん側がもう少し歩み寄るべきだったよね、と思う場面もあるのだが、いまさら素直になれなくなってしまった心の描写も見事で、これは仕方なかったねと思ってしまう。
恐ろしいのは、これがどこの家庭にもありそうな日常の風景だということだ。
だからこそ最も怖い現代のホラーだとも言える。最後はどちらの気持ちにも感情移入して、ちょっと泣いちゃいそうな、それでいて身震いするような、他人事ではないラストを迎える。
もしもパートナーに最近口を聞いてもらえてないなあ、という人がいたら、いや、いまはめっちゃ仲良くやっていますというカップルも、ぜひともこれを読んで欲しい。こうなる前に相手の視点を想像し、自分の家庭を見つめ直すための、すべての夫婦の教則本のような漫画なのである。