【続きが読みたいッッ!!】 板垣恵介版『餓狼伝』に感じる比類なき3つのエグみ
【レビュアー/松山洋】
通称『板垣版 餓狼伝』とも呼ばれる格闘技漫画をご存じでしょうか。
『餓狼伝』という作品の原作自体は夢枕獏氏による小説『餓狼伝』および『新・餓狼伝』ということになります。
それを『グラップラー刃牙』の板垣恵介先生が漫画として描いたものが『板垣版 餓狼伝』(既刊全26巻)です。
『餓狼伝』という作品はいわゆる格闘技者(グラップラー)が数多く登場して自然と闘争し合う群像劇となっています。
2大勢力は空手とプロレス。そこに喧嘩屋としての主人公である丹波文七が絡んでいくという物語構造になっているのですが、これが実に無軌道で清々しいほどに不器用で実直で愚かなほどに「強くありたい」という欲求に正直な性格と生き方が描かれていて私は大好きです。
『板垣版』は1996年から連載がスタートしたのですが、連載媒体を転々としたり何度も休載を繰り返しつつ2011年まで連載されて、単行本26巻で終了してしまっています。
事情を知らない読者としては何としてでも続きを読みたいと願いつつも、じっとしていても何も変わらないのでこうやってラブコールともいえる記事を書いているのです。
『板垣版 餓狼伝』の大きな魅力を3つ紹介します。
①板垣節がエグいほどに炸裂
基本的な登場人物や主人公は原作小説の通りなのですが、実際に読み進めていくと漫画版は全然内容が違うということに気付かされます。
「刃牙」シリーズでも表現されていたような『インタビューによる第三者語り』だったり、技を食らった瞬間の頭の中での「不意打ち…油断…後手…後悔…未熟…慢心…」といった様々な単語が浮かんでくる表現などは、まさに板垣恵介ならではの漫画手法となっていて、非常にエンタメとして気持ちがいい作品となっています。
また漫画的な表現だけでなく完全にエピソードが変更・追加されており、原作小説の原型はいったいどこに行ったんだ? と思ってしまうほどのオリジナリティが溢れすぎているのです。
②オリジナルキャラクターがエグい
あまりにも有名ですがクライベイビー・サクラや鞍馬彦一といった超ド級の存在感を作中で示していたキャラクターが、実は一切原作小説には登場していない、板垣恵介氏によってゼロから生み出された(追加された)オリジナルキャラクターだということをご存じでしょうか?
クライベイビー・サクラはグレート巽のアメリカ遠征時代のラスボスとして登場しましたが、裏社会のボスであり闇プロレスの首領でもありなんと盲目の格闘家というとんでもないキャラクターでした。
鞍馬彦一は北辰会館トーナメントに出場した選手の一人ですが、こちらも原作小説には登場していません。なので原作を知っている人間からしたら「え、誰?しかもめちゃくちゃ強い、え、これこの先どうなるの?原作通りに展開しないの?」と板垣恵介先生の思惑通りに混乱しました。
③闘っていない時すらもエグい面白さ
作中で主人公が、道場を訪ねる際に30分も道に迷った理由を語るシーンで「本町(モトマチ)2丁目」を「本町(ホンチョウ)」と読み違えていたから、という表現がありました。もちろん相手はそんな主人公に対して「バカだな」とつぶやくのですが。
「どこに出しても恥ずかしい立派なバカです 地上でイチバン強ええ空手 バカじゃなければ務まりません」
※『餓狼伝』(板垣恵介/夢枕獏 /秋田書店)25巻より引用
こう言ってのける主人公の素敵がわたしはたまらなく好きです。(そして当然のようにこれも原作小説には存在しないシーンです)
*****
もう10年間も続きが描かれていない『板垣版 餓狼伝』ですが、このまま終わらせるにはあまりにも勿体ないと思うのです。
ちなみに原作小説の「餓狼伝」は通算18冊刊行されていて(『新・餓狼伝』含む)漫画版である『板垣版 餓狼伝』はその原作の7巻くらいまでしか描かれていないのです。
やろうと思えばいくらでも続きが描けるはずなのです。
では板垣恵介先生や夢枕獏先生に「そろそろ続きでも描くか」と思っていただくためには声を上げて行動するしかないと思っています。
では行動とは?
こうやって「読みたい!」とメッセージを発信し続けることと、単行本を買うことだと思います。
「読みたいッ!」だからこうして記事を書きました。