世界で一番優しく切ない呪いの物語を読んで、号泣しながら人生を想う『私の神様』
夢野つくしさんのデビュー作『私の神様』。元々は読切だけの予定だった作品が大好評を博し、そのまま連載へと至りました。そして、先日完結巻となる2巻が発売されました。
連載時から涙を堪えられなかったのですが、改めて単行本で通読してまた涙腺が崩壊しました。
私はこの全2巻を100セットくらい買って配って回りたいほどに、この物語を愛しています。
ただ残念なことに、このご時世で2巻の発行部数はかなり少なめだそうです。この際、電子書籍でも構いませんので2冊まとめて買って読んでみて欲しいです。
神様と人間の寿命差恋愛
『私の神様』は、神様と、神様に恋した少女の二人を主軸とした物語です。
命に限りのない神様と、限られた寿命を持つ人間の恋愛。もう、これだけで切なさを予感させられますよね。
2018年にはツイッターで「#魔女集会」のハッシュタグの流行もありましたが、寿命の異なる種属間での関係性を描いた作品はしばしば世の中に登場します。最近でも、週刊少年サンデーで連載されている『葬送のフリーレン』はそういった部分を上手く扱った作品で今年最も注目している新連載なのですが、それはまた別の機会にお話するとしまして……。
実際の男女関係でも男性が短命であるからなのか、そういった作品では女性の側が長命の種族であることが多いです。
しかし、『私の神様』は男性側が「神様」であり、永遠の命を持っているという構造が特徴的です。ただし『私の神様』に関しては、話はそれだけでは終わらず、そこにこそ真髄があるのですが……。それはぜひ読んで確かめていただきたいと思います。
絵と言葉によって、美しい情景が何倍にも膨らむ
この作品の素晴らしさのひとつは、繊細でかわいらしい絵柄がこれ以上ないほどストーリーにマッチしていることです。
失いたくない大切な日常の描写の美しさが、田舎の日本家屋で流れる穏やかな時間が、強く握りしめたら壊れてしまいそうな柔らかさで描かれていきます。
『私の神様』(夢野つくし/スクウェア・エニックス)1巻P40〜41より引用
草いきれ、朝顔、小川のせせらぎ、蝉時雨、コップが汗をかいた麦茶、風鈴、花火……。
原風景のような日本の夏の光景に五感を刺激されます。これからの季節に読むのにもとても相応しいでしょう。
そして、絵に伴って添えられる言の葉もまた味わい深いのです。
“布のように風のように
ただひたすら
あなたに寄り添おう”
“私は花火のように一時だけでも
先生のそばにいられればいいと
思っていた”
といったように、たおやかな表現で沁み入るような読み心地を演出してくれます。
限りある命を持つ、私たちのための物語
夏の終わりに感じる寂しさは、この作品を読んでいる時の感情に似ています。
すべての物事にはいつか終わりが訪れるもので、この宇宙すらいつかは終焉を迎えますが、だからといってすべてが無意味というわけではなく、この一瞬一瞬が永遠性を持った宝物であるということを心で伝えてくれるお話です。それはニーチェの永劫回帰(えいごうかいき)における、全力の肯定を行えるような生です。
そうしたことも含めて、さまざまなことを感じ想った自己という個体も、やがては消えゆくもの。しかしながら、人間が生み出したものは、その個体が死んでも遥か遠い未来まで残る。それを通して、感じたものも想ったことも間接的に受け継がれていく。そして生きる者の心を打ち、人生を変えていく。
そのような、生み出したものが受け継がれて行く営為(えいい)に着目し、現世では小説を書くことを生業にしている神様。少女もまたそんな神様に影響を受けるという設定もまた感じ入るところがあります。
この永遠性に触れた物語を読んで現実に帰ってきた時、ありふれた日常や大切な人の存在は読む前より輝きを増すことでしょう。
想いは届くから美しいのではなく、たとえ届かなくてもただ想うそのことこそが何よりも尊く、かけがえもなく美しい。けれども、もし届けられるものであるならば、できるだけ届けて生きていきたい。そう思います。
“この世界にはあなたのまだ知らない
すばらしいものがあふれている
いつかそれらが
きっとあなたを
まばゆくてらしてくれるから”