作画の美しさに騙されるな!読めば読むほど難解。狂ったように再読してしまう漫画『歯医者さん、あタってます!』
【レビュアー/南川祐一郎】
僕史上最も難解な作品かもしれん
難解な作品、と言われるものは世の中にたくさん存在します。
それは表現の難しさ、テーマの難しさ、トリックの難しさ、心理描写の難しさ、言葉や絵・映像・音の難しさなどなどいろんな種類がありますが、正直僕は小さい頃からずっと大量の本に囲まれ、様々なジャンルの音楽や映画を貪り、アートも大好きなので、好き嫌いはあれど理解が難しい…と思うものにそうそう出会うことはありません。
最初はわからなくてもずっと考察したり、繰り返しその作品に没入することで、「あーなるほどそういうことか」と自分なりの答えや解釈が見つかるのがほとんどです。
あ、別に自慢とかじゃなくて、いろんな幅広い表現や感性、考え方などをかなり柔軟に抵抗なくなんでも受け入れられる性格だと思っている、という話なんですが、そんな僕がどれだけ読んでもまったくわからず、むしろ繰り返し読む度にどんどん「???」が増えていくという恐ろしい作品に出会ってしまいました。
それがジャンプ+にて絶賛連載中の『歯医者さん、あタってます!』です。
レビュアーとして完全に敗北宣言します
この作品、簡単なあらすじだけ言うと、
女性が苦手なヤクザの跡取り息子がある日行った歯医者の先生に惚れてしまうが、実はその先生は敵対するヤクザの跡取りだった、さてふたりの未来はいかに?
という、まあぶっちゃけよくある設定で、だからこそ受け入れやすい話です。
あと、山崎将先生の絵がめちゃくちゃうまくて、出てくるキャラが全員美人か美形というのも非常にポイントが高いです。かくいう僕も初めてこの作品と出会った時、サムネイルの絵の可愛さに惹かれて読み始めました。
ただ、第1話を読んだ後、しばらく僕は「今何を読んだんだ…?」と混乱し、「まあまだ1回しか読んでないからだよね」と思って何周も読み直したものの、むしろ混乱の渦は大きくなって僕を引きずりこむばかり…。
「ま、まあまだ第1話だから、読み続けてればこれからどんどんいろんなことが分かってくるよね」
そう言い聞かせて読み続け、はや連載も25話を越え単行本も2冊出ました。
キャラも増え、ストーリーも少しずつ展開を見せていて、決して足踏みも停滞もせず順調に進んでいる、んだと思います…。
でもね、普通1話目とか最初に感じた違和感とか混乱も、だんだんインパクトが薄れて見慣れてきたり、理解できてくるはずなのに、むしろどんどんひどくなってきてるんですよ!
15年以上ずっと本屋をやっていて、レビュアーもやっているならば、この違和感や面白さをちゃんと言葉で説明できないといけないと思うんですけど、なんて言えばこの漫画の狂気を説明できるのか、まったく想像もできないんです!
読んでみてとしか言えないなんて、もう廃業ですよ廃業!
これはもう中毒…手遅れってやつだ
ここまで理解に苦しむ、しかも僕の歴史も経験もプライドもすべてを否定されるほど徹底的に痛めつけてくる漫画なのに、なぜか最新話が更新されたらいの一番に開き、何周も読み、また次の更新を心待ちにして、単行本も発売になったら秒で購入してこれまた何周も読む…くらい惹かれてしまっているんです…。
はたから見たらきっと何かよくない危険なものの中毒者と同じ目をしているのかもしれません…。
だから、今回のこの話は決してオススメするためものでも、レビューでもなく、僕というひとりの人間が打ちのめされて狂った、という事実だけを伝える、ある種警鐘に近いものです。
怖いもの見たさで美しすぎる絵の表紙をめくったら、きっとあなたはもう戻ってくることはできないでしょう。
ただ、ひとつだけ、こっちの世界は間違いなくあなたの漫画ライフを新しいステージへと導いてくれます…。
信じるか信じないか、読むか読まないかは、あなた次第です。