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トモ姉と少年の関係性に見る、無報酬で方を犯す少年たちの社会復帰を支援し続けられる理由『保護司 トモ姉!!』
【レビュアー/工藤啓】
無報酬のボランティア、保護司の役割
窃盗、暴行、特殊詐欺、法を犯す少年たち。彼ら、彼女らは家庭裁判所での調査を受けた後、保護観察や少年院収容などに分かれていく。
少年たちは、いつか社会に戻ってくる。そのなかには再び犯罪を犯して少年院や刑務所に戻るものもいる。しかし、そうならないようもっとも近くで少年を支えるひとたちがいる。それが「保護司」である。
保護司とは、法務大臣から委嘱された非常勤の国家公務員でひとの人生に寄り添う。しかも、無報酬のボランティアでだ。
保護司法の第1条には、保護司の使命が掲げられている
保護司は、社会奉仕の精神をもって、犯罪を犯した者の改善及び更生を助けるとともに、犯罪の予防のための世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化をはかり、個人及び公共の福祉に寄与することを、その使命とする
その使命を通じて、保護観察者の健全な社会生活への復帰を援助する。この「地域社会の浄化」という言葉に違和感を持つ声もある。
「地域社会の浄化に・・・」保護司への感謝状、文面見直しへ(朝日新聞)
ボランティアの中でも、保護司の役割の存在はあまり知られていない。平均年齢も高くなり、何より、一定の生活余力がなければ、なかなか担いきれないのが実情だ。だからこそ、保護司の方々の志は高く、その眼差しはやさしい。
そのひとの置かれた背景から、更生を支える
『保護司 トモ姉!!』は、タイトルにある通り、まさに保護司という仕事が、この社会においてどのような役割を担っているのかを描いた漫画である。
窃盗で捕まった少年の保護観察を担う存在として、少年が置かれた背景や家庭を理解しながら、少年に伴走していく。
矯正教育の分野では「可塑性(かそせい)」という言葉がよくつかわれるが、まさに少年の未来に対する変容可能性を信じ、伴走していくのが保護司だ。
罪状は窃盗だとしても、その少年が置かれた家庭環境が十分な養育を子どもに提供しているとは限らない。
身体的・精神的暴力を日常的に受けていることや、自宅にいても存在しないかのごとく扱われるネグレクト。ときには、少年から見れば見ず知らずの人間が家庭に入ってきて、自分を邪険に扱うようなこともあるだろう。
行き場をなくした少年は、自分を理解してくれる人間関係に依存し、受け入れてくれる空間にしか居場所がなくなる。その関係や居場所がどれほど社会的にはリスクがあるとわかっていたとしても、天涯孤独になるよりもマシなのかもしれない。
また、ネグレクトだけではなく、過干渉や過度の教育を子どもに与え、子どもがストレスやプレッシャーから心身ともに疲弊してしまうと、かけ続けたプレッシャーを止め、手の平を返すように、誹謗中傷という言葉の暴力や無視・無関心とともに放り出す。
法律を犯すような行為や行動や許されてはならない。しかし一方では、少年院という場所で矯正教育を受けた後、または社会内処遇として、保護観察官や保護司のもとでやり直しの機会が与えられている意味も、私たちは忘れてはならない。
保護司だけが、更生自立の担い手ではない
再犯防止の最前線で、ボランティアで少年に寄り添う存在こそが保護司なのだ。
ひとり家庭や地域、社会から放り出され、孤立・孤独になった少年・少女の行先はどこになるのか。
彼らが再非行、再犯であり、新たな被害者を生む世界ということも十分に考えられる。
少年を24時間365日、現場で支える法務教官から、再非行、再犯防止に少年が陥らないために必要なことは何かを聞くと、学校や職場という居場所、家庭や理解者のいる居場所、そして、地域や社会で生きられる居場所だと言う。
主人公の相澤智子は、バイク事故で子どもを亡くし、夫とは離れて暮らしている。ボランティアである保護司ができるのは、夫の経済力に寄るところが大きいが、夫は保護司を務めることに否定的だ。
また、幼い頃に非行経験があり、少年たちの寂しさや、非行に走ることに強く理解を示す存在でもある。
気軽にトモ姉って呼んで!私はね 一度 握った手は 絶対に話さないから!!
少年たちが少しでも前を向けるきっかけ、支えになれたらという強い意志がなければ保護司は務まらない。少年および置かれた環境や人間関係に課題があれば、たくさんのひとたちの力を借りて、少年を支え続けなければならない。
専門機関や企業、先生などにつないで終わりではない。つないだ片方の手は誰かに渡しても、もう片方は話さない。目の前の少年が自分で道を歩くことができるようになるまでは。
本書は、トモ姉と少年の関係を保護司という仕事を通じて描いたものであるが、読むべき点が二つある。
ひとつは、少年の犯した罪の背景にある家庭や地域の環境について。もうひとつは、保護司はひとりで少年を支えているわけではないことだ。
少年の「可塑性」を信じながら、協力雇用主と呼ばれる雇用者として少年たちを受け入れる社長、過去に保護司の手をつないだ大人たちも、少年を支える支援者だ。地域や社会という言葉を使えば大きいが、むしろ、私たち一人ひとりが保護司でなくても、保護司を通じた更生支援の担い手になれることが理解できる。
保護司になれなくても保護司を通じて少年たちに関われる。そのためには保護司がどのような社会的機能を担っているのかを知る必要がある。
『保護司 トモ姉!!』を通じて、少年矯正の世界を少しだけのぞいてみてはどうだろうか。