"夢"という呪いに苦悩した41歳の脱サラ漫画家がたどり着いた、絵本のような優しい物語『王様ランキング』
【レビュアー/おがさん】
そうだ、子供に漫画を贈ろう
6歳になる子供の誕生日に、初めて漫画を贈ろう。
いきなり私事で恐縮ですが、私には離婚して離れて暮らすもうすぐ小学校入学を控えた6歳になる長男と3歳の次男がいます。
二人とも本や絵本をよく読み、アニメや映画も大好きです。それでも、なぜか漫画だけは薦めてみても読もうとしませんでした。
記憶は定かではありませんが、私が初めて漫画を読み始めた時も、小学校入学くらいだった記憶があります。
なので、長男ならばきっかけさえあれば、漫画を読むかもしれない。そしてせっかくなら、同じ漫画を読んで一緒に感想を共有したいと思い、彼の誕生日に漫画を贈ろうと考えました(他に欲しい物とは別に)。息子にとって初めての漫画体験です。
作品を選定していましたが、6歳の子供が漫画を読むのは意外と難しいことに気づきました。そして、小さい子供に読んでもらうには以下のような条件が必要になると考えました。
1. アニメ化されている(もしくはアニメ化の予定がある)
2. 子供でも読みやすい絵本のようなストーリー
3. 安心して子供に勧められる優しい内容
もちろん、年齢対象が子供向けの漫画であれば薦められる作品の幅は広がると思うのですが、自分が最近読んでいて面白いと思った漫画を共有したいと思いました。
難しい条件ですが、その中で上記の三点を兼ね備えている作品を見つけました。それが今回レビューする『王様ランキング』です。
1日1500万PVを記録! 『王様ランキング』とは?
『王様ランキング』は十日草輔先生が「マンガハック」にて連載中の作品です。「『このマンガがすごい!2020』オトコ編」では第7位に選ばれた作品であり、Twitterでのバズをきっかけに、それまで一年半かけてトータルで100万PVだったものが、1日で1500万PVになりました。
以前作品が一気に拡散されたこともあり、読んだことがある方も多いと思いますが、あらすじを簡単に説明します。
ボッス王国の第一王子ボッジは耳が聞こえず、言葉も基本的に「あう」しかしゃべれません。さらに子供用の剣すらまともに扱えない非力なボッジを国民は王の器と認めず、みなバカにしています。
『王様ランキング』(十日草輔/KADOKAWA)より引用
あるとき、ボッジは自分の言葉を理解してくれるカゲと出会います。カゲは最初ボッジを利用しようとしていましたが、ボッジが読唇術によって人々の発言を理解し、人知れず涙を流して耐えていたことを知り、ボッジと友達になります。カゲとの出会いをきっかけに、ボッジの冒険譚が始まります。
アニメ化を控え、まさに今読むべき作品
TVアニメ「王様ランキング」は2021年10月14日(木)からフジテレビ"ノイタミナ"ほかにて放送が開始されます。
第2弾本PVも解禁されていますが、私は子供が生まれてから涙腺が壊れてしまったので、このPVだけで簡単に泣けます。
PV内で一部公開されているエンディングテーマとなるyamaの新曲「Oz.」の歌詞も『王様ランキング』にピッタリの内容でした。
ちなみにオープニングはKing Gnuの「boy」です。2021年10月15日(金) 0時に配信開始されます。こちらも、冒険に繰り出すボッジの気持ちが表現されているかのようなアップテンポな楽曲となっています。
PVを見てもらうだけでも、『王様ランキング』の世界観を感じ取れると思います。漫画のイメージを全く壊すことなく再現されていて、期待しかありません。
放送日時の詳細は公式サイトよりご確認ください。
夢という「呪い」が生んだ、絵本のような優しい世界観
『王様ランキング』の魅力として、絵本のような優しい世界観があります。
それもそのはず、作者である十日草輔先生は20代で漫画から離れた後に、絵本作家を目指していました。
『王様ランキング』の主人公・ボッジとカゲは、元々絵本のキャラクターでした。それが、漫画仕様に少しずつカスタマイズされていき、今のボッジたちが出来上がります。
詳しい内容は『脱サラ41歳のマンガ家再挑戦 王様ランキングがバズるまで』にて窺い知ることができますが、孤独との戦いの日々が赤裸々に綴られています。
上記のエッセイでは、あきらめきれない夢は「呪い」と表現されています。作家さんたちは一人で孤独に耐えながら、正解のない創作活動に励むのです。
漫画を描くために社会と隔絶するように生きて、漫画一本で食えないと分かった後には、年齢だけを重ねたスキルのない自分がいる。そこから社会復帰することがいかに大変か。
この本を読んで再認識しましたが、漫画は作家さんの人生の縮図であると思います。
紆余曲折を得ながら再び漫画家になるまでの人生経験がなければ、相手に伝わりやすい表現は生まれず、絵本のキャラクターも存在しませんでした。
つまり、遠回りしてきた日々こそが『王様ランキング』を生み出すきっかけとなったのです。そして、孤独に耐えて投稿を習慣化して継続したことにより、バズに繋がりました。
優しさのストーリーの裏側には、作家さんの血の滲むような努力が隠されています。
辛い出来事を乗り越えていくボッジの強さと優しさは、十日草輔先生ご自身が体験されてきたことを前向きに表現されているからなのではないでしょうか。
勇気や優しさを教えてくれる『王様ランキング』は大切な人に贈りたくなる漫画です。