テニプリ劇場版「リョーマ!」冒頭で倒される幸村精市の覚醒っぷりがすごい『新テニスの王子様』
【レビュアー/沢】
許斐剛先生の代表作『テニスの王子様』が原作の映画「リョーマ! The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様」(2021年9月公開。以下、「リョーマ!」)が最高です。個人的には2021年のベスト映画になりそうです。(筆者は「Decide」と「Glory」の両方とも観ました)
「リョーマ!」は、「実は『テニスの王子様』が気になっていたけど、どう入ったらいいか…」と悩んでいる方にはぜひ観てほしい、一連の『テニスの王子様』シリーズの導入としてオススメしたい最高の映画です。
なぜなら、主人公・越前リョーマの紹介が完璧にできている映画だったからです。リョーマのことが大好きになって、原作を最初から読み返したくなる内容になっています。
さらに、『テニスの王子様』が人気コンテンツであり続ける要因の一つであるキャラクターソングが効果的なタイミングで使われていたり(タイムスリップの状況説明を歌で始めたのが最高です)、曲に合わせて原作の絵が動くPVが映画の上映後に流れたり(これがすごく格好良い!)、スポーツ漫画でありながら超常現象が起こり、それを過剰に突っ込まず当たり前にあるものとして描く「ある意味シュールな表現」など、『テニスの王子様』の魅力が全てが詰まった映画でもあります。
その「リョーマ!」の冒頭3分半がYou Tubeで公開されています。
原作『テニスの王子様』を読んだ人であればわかる通り、「リョーマ!」の冒頭は、全国大会団体戦の決勝・青春学園中等部と立海大附属中学校(以下、立海)の試合で、まさに優勝を決定する大将戦のシングルス1の越前リョーマと幸村精市の試合が描写されます。
『テニスの王子様』は、コミックス全42巻を通して越前リョーマが公式戦で1回も負けずに終わるので、この決勝戦でも当然、リョーマが幸村に勝ちます。
『リョーマ!』の時系列は、『テニスの王子様』と続編『新テニスの王子様』の間です。冒頭で述べた通り「リョーマ!」は越前リョーマのことがよくわかる映画となっていますが、初見の方の中には、冒頭で負けた幸村精市はその後どうなったのか気になる方もいるのではないでしょうか。(幸村は「Decide」で出番がありますが、テニスをしているシーンではないので、どちらのバージョンを観た方も気になるはず。)
幸村が気になった方は『新テニスの王子様』を読んでほしいです!
30巻・幸村精市VS手塚国光の対戦カードが熱い
『テニスの王子様』での幸村は、病気の療養のため出番が少なく、遠山金太郎との一球勝負を除いては、全国大会の決勝戦以外で詳細な試合が描かれることはありませんでした。
『新テニスの王子様』(許斐剛/集英社)30巻より引用
越前リョーマに敗北した試合を回想し、幸村は敗北の恐怖に「心が折れかけた」と当時の心境を語っています。
しかし、この挫折を味わいながらも、間違いなく作中最強プレイヤーの一角である幸村は『新テニスの王子様』ではU-17日本代表の団体戦の選抜メンバーに選ばれ、ドイツとの準決勝ではシングルス2で手塚国光と試合をします。
手塚は作中最強格のプレイヤーのひとりでありながら『テニスの王子様』の時点では腕の怪我に苦しめられていました。しかし、手塚は『新テニスの王子様』では怪我を克服し、まさに最強の中学生として日本代表の一員に……ならず! プロになるためドイツに渡り、ドイツ代表の一員としてリョーマたち日本代表と敵対することになります。
敵となった手塚とは試合をしたい人物が沢山いますが、これまでの関係が色濃く描かれたリョーマ、不二、跡部ではなく幸村が選ばれたのが熱いです。
『新テニスの王子様』(許斐剛/集英社)30巻より引用
主人公でも、かつてのチームメイトでも、因縁のライバルでもなく、前作のラスボスに託す展開は、少年漫画の文脈として熱すぎます。しかも、手塚が『テニスの王子様』時代の不安定なコンディションではなく、完全に仕上がった状態なのがまた良い。
ふたりの試合はコミックス約2冊分に渡ってじっくり描かれ、幸村だけでなく手塚の心情も深堀りされるのですが、試合の顛末も含めてぜひご自身で確かめてほしいです。
筆者的には『テニスの王子様』を含めてもベスト1なのでは?というくらい熱いので大好きな試合です。
「テニスって楽しいじゃん!」以外の道を後進に示す男
リョーマは幸村との試合で、「テニスの楽しさ」という自分の原点を思い出すことで、最強の力「天衣無縫の極み」に覚醒しました。
『新テニスの王子様』では遠山金太郎、手塚国光ほか数名が同じ力を得る描写があり、「天衣無縫の極み」の習得がデフォルトになるのかな?と思ったのですが、実際はそうはなりませんでした。
むしろテニスを楽しむことが絶対条件である「天衣無縫の極み」を習得できない人物がいることが明確に描かれています。そして、幸村もその一人として描かれました。
立海の2年生・切原赤也は、初登場から乱暴なテニスをしており、『テニスの王子様』の終盤では悪魔化(デビル)化してしまい、言ってしまうと「悪い」キャラクターとして描かれました。『新テニスの王子様』では天使(エンジェル)化など新たな能力を得て、少しずつ真っ当なプレイヤーとしての成長が描かれました。しかし、赤也は「テニスの楽しさ」によって覚醒する「天衣無縫の極み」には至ることができず、焦りや苛立ちを感じます。
『新テニスの王子様』(許斐剛/集英社)31巻より引用
幸村は手塚との試合を通して、赤也に「諦めない」ことを背中で語っていきます。「天衣無縫の極み」に至れない者同士というだけではなく、病気になっても諦めずに立海を全国大会で優勝させるために復帰を果たしたこともそうです。
幸村の「諦めない」気持ちが伝播した赤也の試合が直後に描かれることや(この試合も最高)、幸村と同じ立海の3年・仁王雅治もドイツ戦に出ており、ドイツ戦は立海の独壇場! と言いたくなります。
そして、立海はチームとして「常勝」を掲げているにも関わらず、副部長の真田が試合の勝敗を見る前に「幸村の勝ちだ」と思わず言ってしまうシーンは、立海の面々が人間として成長した集大成を感じました。(が、決勝の団体メンバーに真田が選ばれるのでは? という期待もあります)
『新テニスの王子様』(許斐剛/集英社)31巻より引用
幸村の覚醒に思わず手を合わせる副部長・真田弦一郎と立海のナンバー3・柳蓮二のシーンも最高です。
立海は『テニスの王子様』でのラスボスとして描かれたせいか、チームの結束力が強い青春学園とは対照的だった気がします。しかし、ここに来てチームとして団結しているのが本当に嬉しいし、彼らもまた少年なんだなと温かい気持ちになります。
『新テニスの王子様』の直近の展開を読むと、「リョーマ!」の映画冒頭で倒されてしまった幸村が『新テニスの王子様』を読むと大活躍をしているのは素敵な構造だなと思い、今回筆を執らせていただきました。
さらに、「リョーマ!」と連動した展開は幸村以外にも描かれています。タイムスリップした先でリョーマの隣にいた少し年上の幼い少年は誰だったのか?越前リョーマは越前南次郎を超えることができるのか?という「リョーマ!」で残った疑問が『新テニスの王子様』を読むと解消される、あるいは、この先の展開で答えが描かれる可能性があります。
このような形で、「リョーマ!」が面白かった!と思った人が更に一歩踏み込んで『テニスの王子様』を楽しめるようになっている構造から、許斐剛先生がファンに向けた気持ちや、コンテンツとしての強さを感じました。
2021年10月上旬時点での最新巻・34巻ではドイツ戦の最終試合・シングルス1が始まっており、『新テニスの王子様』は間違いなく終盤戦に突入しています。
このレビューを読んで気になった方はコミックスを手にとってほしいです。